第5章 抵抗者達【5】

「それじゃあコヨミくん、わたしはあのバイクの調整をやってるから、リーダーとのお話が終わったら声を掛けてちょうだい」


「バイク……ああ、あの深緑の迷彩柄の」


 倉庫には何十台ものバイクが並んでいるが、基本真っ黒なものが多い。


 しかしその中で一台だけ、決して派手というわけではないのだが、真っ黒の中に並んでいると浮いて見える、深緑の迷彩柄の中型バイクが駐輪されてあった。


「ふふーん! あれはわたし専用のバイクよ! 後からあの子のことも教えてあげるわね?」


「早速自慢話っすか……」


「なによ、その露骨に嫌そうな顔はっ!」


「露骨に嫌なんだよ」


「むう~……ついでよついで! とにかくっ! 施設の案内はわたしがするから後から来ること! これは先輩命令よ、いいわね?」


「はーい……」


「はーいじゃなくてはいっ! でしょ? 返事は伸ばしちゃダメ!」


「はいっ……」


「よしっ! じゃあ待ってるからね! ちゃんと来なさいよ? それじゃあマジスターさん、御機嫌よう」


 そう言い残して、ルーナは僕達の元を離れて、彼女のバイクの所へと行ってしまった。


 再会して早速、先輩風を吹かされてしまった。


 といっても見た感じ、彼女の方が僕よりも年下って感じがするんだけど……まあこの場合の先輩後輩の基準は、入ったのがどちらが先か後かって感じか。


「カッカッカッ! 元気の良い奴だろ?」


「元気が良いというか、あれはじゃじゃ馬っすね」


「ああ、まあ……ちょっとはねっかえりなところはあるな。とてもノースハーウェンの王女だったとは思えん」


「ノースハーウェンの王女? そういえばレイヴン一族の数少ない生き残りだとか、さっき言ってたけど……」


「うむ……あの子の一族は以前、ノースハーウェンという国の王族だったのだ。彼女の父レイヴン王は民に愛され、民に尽くすような、そんな王だった。しかしその民への尽くす気持ちが災いした……」


「災い?」


「練魔大臣からの増税の指示を、レイヴン王は、これ以上民へ負担を掛けるような仕打ちはできぬと、ことごとく蹴ったらしい。それに怒った練魔大臣は暁の火に、レイヴン王が協定違反者だと虚偽の報告をし、連盟国軍によってノースハーウェンは攻め滅ぼされてしまったのだ」


「攻め滅ぼされた……暁の火によって……」


 そういえば、最初にルーナと会った時に言っていたな。練魔大臣が虚偽の報告をして、滅ぼされた国があったって。


 あれは全部、自分の国で起きたことを言っていたのか……。


「でもそれじゃあ、彼女は生き残ったってことなのか?」


「うむ……記録上では、レイヴン王の親族は滅ぼされたことになっているが、しかし連盟国軍の侵攻が始まる数週間前に、レイヴン王は女王と王女を何故か王族から、更に国内からも追放したらしい」


「そのタイミングで二人を追放するって……もしかして連盟国軍の侵攻を、レイヴン王が事前に察知していたと?」


「わしも聞いた話だから、詳しくは分からん。だが追放したお蔭で、ルーナと女王は戦火から逃れることができたという話だ」 


「ふうん……だとしたら、大した王様だな」


「ああ……ルーナも突然国を追放されたことで、かつては父親に恨みを抱いていたらしいが、ノースハーウェンが滅んだことを知って、全てを悟ったそうだ。今やレイヴン王のかたきを討つためにと、日々レジスタンスで頑張っているよ……まあちょっと、空回りしているところもあるがな」


「ふうん……」


 敵討ち……ねえ。ちょっと前の僕には、縁遠い話ではあったのだが、今現在に至っては、そこまで他人行儀とは感じられないワードにはなりつつある。

 

 ルーナのように、肉親のために敵を討つみたいな、そういう敵討ちではないにしろ、しかし報復をするという意味では、今の僕には討つべき敵がいる。


 なんせ王様を殺したという濡れ衣を、僕はセブルスに着せられてしまったのだからな。


 貸された借りは、いつかは返すつもりだ。


「レジスタンスにはそういう連中が多い。暁の火に酷い仕打ちを受けた者、祖国を焼かれた者、家族を殺された者……様々な境遇を持った人間が居る。しかし理由が千差万別であれど、目的は同じ場所にある」


「暁の火を滅ぼすという目的か?」


「そう。その者達の恨みの炎を灯したのはそもそもやつらなのだ。だからその炎で、奴らを燃やし尽くしてやろう……そうやって組織されたのが、今のこのレジスタンスというわけなんだ」


「それで、あんたも暁の火に何か恨みでもあるのか?」


「わしか? わしは恨みこそは無いが、今のマグナブラ兵団に疑問を持っただけだ」


「疑問?」


「ああ……そもそもわしら兵士が守るべきものは国であり、王とその民であるはずなのだ。しかし今や、兵士は国をないがしろにし、練魔大臣の私物と化している。その現状にわしはただ、嫌気が差してな……気がつけばこっち側に着いていたといった感じだ」


「ふうん……まあ、あんたらしいといえば、あんたらしい理由だな」


「そうか? わしらしいか?」


「年の割に、無鉄砲だっていう意味でな」


「カッカッカッ! そりゃ年の割に若いってことで受け止めていいのかな?」


「ご勝手にどうぞ」


「カッカッカッカッ!! いやぁ~けっこうけっこう! ……おっと! つい話が長くなってしまった。そろそろ首領室へ向かうとするか」


「ああ」


 おっさんのご機嫌取りを最後に、ついに僕達は倉庫を出て、首領室へと向かうこととなった。


 そういえば僕ってまだ、レジスタンスに入れたわけじゃないんだけど、こんなルーナのことやレジスタンスのこと、はたまた砦の案内を約束されたりなんかして……ちょっと話が早過ぎるというか、僕が入れる前提で話が進み過ぎたような気がするのだけれど。


 そんな一抹の不安もありつつ、しかし僕の中でも、きっと入れてくれるだろうという、そんなお気楽な気持ちもあったので、そこまで気にはなっていなかった。


 しかし僕は気づくべきだった、今の自分の運の悪さに。


 今の僕は、王様殺しの濡れ衣を着させられてからというものの、その運は絶賛下り坂どころか、崖から落ちるほどに下っていたのだ。 


 そして僕はここでまた、自分の不幸を再確認させられる。


 レジスタンスの、首領室の中で。 

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