第4章 忍び寄る魔の手【5】

「さすがは次世代の勇者候補と呼ばれていただけはあるな……素晴らしい戦闘センスだ!」


「ありがとう……ところでアンタ、なにしてるんだ?」


「なにって、一丁は貰って自分の武器に、残りのはマガジンだけをいただいて、解体して完全に無力化してるんだよ」


 後から階段を下って来た教官は、兵士達の落としたライフルを、一丁はそのまま回収し、後の四丁はそれぞれマガジンを抜き、レバーを引いて残弾を無くした後、手際良くバラバラに解体していた。


「……っ! 教官、そんなことよりももっと楽な方法がある!」


「楽な方法?」


「とりあえずマガジンと残弾だけ空にして、一列にライフルを並べてくれ」


「うむ……」


 僕に言われるがまま、教官はマガジンを引き抜き、残弾を無くしてから小銃を並べる。


 その内に僕は、マテリアルガントレットの欠片を水から土に変えていた。


「並べたぞコヨミ」


「よし……教官、解体するよりも、こっちの方がシンプルで早いっすよ!」


 そう言って僕は、手の甲のパーツを押さえて、土の魔石の欠片の効果を発揮させ、剣を縦に振り下ろす。


 地面をも砕くパワーは言うまでもなく、縦に並べられたライフルを一撃で真っ二つに叩き割った。


「ふう……ね? 早いでしょ?」


「カ……カッカッカッ! 確かにこっちの方が早いな! いやあ、年を取ると発想力が欠けていかんなぁ!」


「教官……褒めてもらえるのは嬉しいけど、そんなに豪快に笑ってたら敵に自分たちの場所を教えてるのと同じになっちゃいますよ」


「お……カッカッカッ! もうわしはお前の教官じゃない! わしはアトス・マジスターだ」


「そっすか……って、僕は別に名前を教えてくれなんて一言も言ってないんですけど……」


「んん? カッカッカッ! 敵に位置が知られる……だろ? しかしコヨミ、この階段は一方通行だ。位置を知られようが知られまいが、隠れる場所などよもや存在しない! よってわしらには、この道を真っ直ぐ進むしかない! 兵士の肉壁が立ち塞がるなら、それをぶち破るしかないのだ! 例えそれが、かつての教え子だとしてもな!!」


「あっ……」


 そうか……この人は、マジスターは教官だった。


 ならば、今立ち塞がっている兵士の中にも、もしかしたら彼の教え子がいるのかもしれない。


 しかし彼はそれを、教え子を倒す、あるいは殺す覚悟で今、僕をここから連れ出し、助けようとしているんだ。


 僕なんかよりも、覚悟の度合いが違う。この死地を乗り越える覚悟が。


「それに声を聞いたやつがわしの教え子なら、もしかしたら加減してくれるかもしれんしな?」


「いや……それは難しいでしょ」


「カッカッカッ! もしあっちが容赦してきても、わしは容赦せんがな!!」


「血も涙も無いっすね……」


「血は流れるかもしれんがな?」


「そんな物騒なっ!」


「カッカッカッ! このアトス・マジスター、それほどの覚悟でお前を助けとるということだ。これで少しは信用してくれたかな?」


「……まあ、それなりは」


「そうか……ふむ、お喋りが過ぎたな。コヨミ、急いで城外へと向かうぞ!」


「ああ!」


 僕とマジスターは、前へと進む。


 もう僕達は後には、兵士にはもう戻れない。


 だがしかし、そこでずっと立ち止まってるわけにもいかない。立ち止まっては、僕達は殺されてしまう。


 生きるために、かつての仲間達をたとえ地に沈めることになっても、進まなければならないのだ。


「ぬっ……ちょっと待てコヨミ!」


 一階に辿り着き、兵士棟の出口を前に突如、マジスターは進行を止め、僕に制止することを促す。


「どうした?」


「うむ……わしがここに潜入した時、この扉は開いたままだったのだ。だが今は閉まっている……つまり中にいた兵士が、わし達を迎え撃つために、外に出て待ち伏せしているかもしれん」


「待ち伏せ……でもそうだとしたら、こっちが反撃するには……」


 相手は遠距離で対応できるライフルに対して、僕が持っているのは近距離特化の剣。これでは、勝負にならない。


 マジスターが先程、兵士から手に入れたライフルがあるにせよ、こちらは扉を開いてから射撃を行うのに対して、あちらはただ、僕達が出てくる瞬間に射撃を行えば良いと、アクションに差が出てしまい、こちら側に遅れが生じて不利になってしまう。


 そうなると方法としては……。


「この扉を丸ごとぶっ壊して、あっちが射撃をしてくる前に、こっちがライフルで仕留めるしかない……か」


「カッカッ! わしも今そう思っとったとこだ。気が合うなコヨミ!」


 ……オッサンに気が合うって言われても、そんなに嬉しくないんだけど。


 いや、今はそんなことを悠長に考えてる暇は無いか。


「でもマジスターさん、どうやってこの扉をぶっ壊すよ? 結構デカい爆弾が無いと、これは壊せないぞ?」


 扉は約二メートルほどにもなる巨大な扉であり、マテリアルガントレットの力を使ったとしても、これほどの大きさの扉を破るまでには至らないだろう。


「普通の爆弾では無理だろうな。だがコイツならいけるやもしれん」


 そう言ってマジスターは、背負っていたバッグを下ろし、中からジュラルミンケースを取り出した。


「屋内戦だと壁を破壊したりすることを見越しコイツを持ち出していたが……どうやらわしの予想は、正解だったようだな!」


 ケースの中から出てきたのは、四角い粘土状の物体と、発火装置のような物だった。


「なんだこれ粘土か? こんなもので、一体どうやって扉をぶち破るんだ?」


「コヨミ……お前は戦闘能力や戦術については長けているが、現代兵器についての知識があまりにも無さ過ぎるな。もう少し今後の戦闘のためにも、学んでおいた方がいいかもしれんぞ?」


「と言っても……僕は現代兵器が嫌いなんだ」


「フン、食わず嫌いは良くないぞコヨミ、物は使いようだ。コイツはコンポジション爆薬といってな、見た目が粘土であるように、形も変えられる爆薬なんだ」


「はあ……つまりこの粘土みたいなのが丸々爆弾なのか……」 


「んん? 威力を疑ってるのか?」


「いや……まあ……疑ってるというよりかは、こんなのがどうやって爆発するのかなって思って」


「フッフッ……まあ見ておれ!」

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