第1章 レジスタンスの少女【5】
「う~ん……救われているっていったら、魔物もまだいるわけだし、そうじゃない気もするけど、でも危機に瀕してるかって言われたら、以前に比べたら平穏になった気はするし……まあ君達レジスタンスがその分暴れちゃってくれてるけど……」
「うっ……あーもうっ! なんでアンタっていちいちいちいち、そうやってわたしの質問のアラを探そうとするのよっ!」
「ええ…………」
僕は別に、僕なりに質問に対して回答をしただけなのに、なんでこんなに怒られなくちゃいけないんだ?
理不尽の度を通り越して、支離滅裂だ。
「……ねえ、君は一体、僕にどういう答えを求めているの?」
もう僕はいっそのこと、こんな滅茶苦茶な質疑応答が続くのならば、その根本、彼女の狙いについて直接的に尋ねることにした。
「ふん……なによ、そういう勘は鋭いんじゃない」
彼女は少しの間だけむっとした顔をしたが、しかしすぐにフッと笑ってみせた。
「フッ、まあいいわ。直截的に言えば、あなたレジスタンスにならない?」
「勧誘か……」
「何よ! その露骨な嫌そうな顔は!」
「いや……なんとなくそんな気はしてたんだけどさ……僕別に、レジスタンスの活動とか、革命とか全然興味ないからさ。王政がどうとかそんなの……」
「ふっふっ……アンタ達兵士達は、どうやら大きな勘違いをしているようね」
「勘違い? 一体何を?」
「わたし達レジスタンスの目的よ。確かにレジスタンスの結成時は、この王都マグナブラの王政陥落が目的で集まったそうだけど、今は違う。もっとわたし達は大きな敵を相手にしているわ」
「大きな敵?」
この国において、最大勢力というならば勿論、王なのだろうけれど、しかしそれよりも大きな勢力とは一体……。
「わたし達の今の敵はそう……この世界自体よ」
「せ……世界ぃ?」
彼女は得意げな顔をしてそう言うが、僕としては、困惑する一方だった。
今までに聞いたことも無い情報だったというのもそうなのだが、しかしそれよりも、この世界を敵に回すというのはどういうことなのだろうか?
世界を侵略しようとでもいうのか?
「アンタ、今この世界が支配してるものって何だと思う?」
「この世界を支配してるもの? どうなのかな……今は魔物が支配してるって感じでもないし……」
「練魔術よ。いや、正確に言うならば練魔術を作り出したバルマヒルの魔術師たち、
「暁の火……か」
今のこの世界を創り出した元凶といえばいいだろうか……練魔術を作り出したのは、その暁の火のトップ六人の魔術師であり、そしてそれを世界中に広めたのが、その団員の魔術師たちであるという、魔術師の、いや、この世界の一大勢力と言っても過言ではない集団だ。
しかし暁の火はあくまで、練魔術を広め、ある程度の権利は握っているものの、各国の実権までは握っていないはずなのだ。
実際、この王都の実権はまだ王族にあるはずなのだから。
「この国の実権自体は確かに、今も王族にあるわ。だけどその権利を実行させるよう、裏から操っているのは暁の火の、
「練魔大臣……?」
「アンタ練魔大臣も知らないの? ホント無知というか、興味が無いのね勇者になること以外は。っていうか、勇者になりたいなら自分の国の情勢くらい理解しときなさいよね」
「むう……今後は心掛けるよ」
「今日から心がけなさい」
「……はい」
痛いところを、執拗に突かれてしまった。
心が、心臓辺りがキリキリ痛む。
「練魔大臣っていうのは、主にその国の練魔術の使用状況について監視するのが仕事なの。
「有明の協定……」
「アンタまさか、有明の協定も知らないとか言わないわよね?」
「それは辛うじて知ってるよ。あれだろ……練魔術を使用する国が必ず加盟しなきゃいけないやつ……だったはず」
「まあ、大方そんなもんよ」
ふう……どうやら合っていたようだ、僕の知識も、なかなか捨てたもんじゃないじゃないか。
「……なにその程度の、半分以下の説明しかできてない知識を披露して悦に浸ってるのよ。それにこんなこと、基本中の基本じゃない。そんな得意げにされちゃあ、見ているこっちが恥ずかしくなるわ」
「…………」
この子、やたらめったら僕に突き当たってくるよな。
まあ大抵、僕がその種を撒いてるみたいなんだけど、そこは多少なりとも、スルーしてくれてもいいんじゃないかと思うのは、僕だけだろうか。
「とにかく! この有明の協定で派遣された練魔大臣が、今この国の政治を牛耳ってると言っても過言じゃないのよ!」
「ふむ……でも大臣の仕事はあくまで監視なんだろ? それなのに、どうして王を背後から操るまでの権力を持ってるっていうんだ?」
「ふっ……監視なんて、逆をいえば幾らでも、練魔大臣は暁の火に自分の都合の良い報告ができるってことじゃない。実際、練魔大臣にある国の君主が逆らって、大臣は協定違反の報告を暁の火に申請し、その君主と親族はおろか、国ごと壊滅させられたっていうケースだってあるのよ」
「国ごと……そんな滅茶苦茶な……」
「そんな目茶苦茶が、当然のようにまかり通る。それが今のこの世界よ。魔物でも、魔王でもなく、人間の、魔術師達が征服していると言っても過言じゃない……」
「…………」
「そこでもう一度訊くけど、アンタはこの世界、本当に救われていると思うかしら? 平等で、平穏な世界だと言えるかしら?」
彼女の問いに、僕は僕なりに考えた。
これまでの話も踏まえ、僕自身の考えも踏まえ、そしてしばらく、数分間思案したのちに、僕は彼女に答えを出した。
「確かに、平等とはいえないかもしれないけど……でも、ある程度平穏ではあるんじゃないかな。実際この王都がそうであるようにさ。それに、どんなに世界を変えようとも、誰かが利権を持ち、誰かがその分損をするっていう世界は消えないと思うよ」
「…………」
勇者を目指してるだなんて、本気で言ってるやつが言うには、結構現実的な意見ではあったと思うので、多分彼女も度肝を抜かれたのだろう。目を見開いていた。
僕は更に、自分の考えた意見を述べる。
「むしろ、君達レジスタンスの方がこの平穏に影を差しているっていう自覚は無いのかな? 魔石発電施設の第三高炉爆破事件……君達がやったことは、この王都の平穏を揺るがしかねない」
「…………」
「もし僕が勇者なら、もしかしたら君達レジスタンスとは対立してただろうな。こんな事件を引き起こしたとなると、王から一番に討伐令が下るだろうし」
「……じゃあ、わたしはあなたとこれから対立する……それがあなたの答えね」
彼女は自然、身構える。
だけど僕は首を横に振った。
「今の僕は勇者じゃない。落ちこぼれの兵士だ。だから別に君と対立する気も無いよ……まあ、しいていうなら」
そして僕は彼女に背を向け、もう一歩も立ち止まることも無く、こう告げて路地裏を去った。
「もう僕に、関わらないでくれ」
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