第54話 冬空テンカVS遠見センリ



 冬空テンカVS遠見センリ。

 媽祖の随神たる鬼神の猛攻に、雪原の神霊は攻めを絶やさないことでかろうじて食らいついていた。


 猛吹雪を撒き散らしながら突撃するテンカを、センリは飛び退きながら弓で狙い撃つ。


 それは威嚇以上のものではなかったが、牽制に過ぎない一撃ですら、とてつもない衝撃波を伴って猛吹雪を散らしてみせる。

 センリが矢を射るたびに吹雪の推進力は削がれ、テンカはあらぬ方へと吹き飛びそうになる。


「こ、んのぉ! 『凍れ、楔よ永久にパーマフロスト・アイスエッジ』!」


 木の幹に叩きつけられたテンカは、立ち上がるよりも先に氷の槍を複数作り出す。

 それらを吹雪に乗せて一斉に射出させた。


「カカ! そんなものか!」


 木々が生い茂るフィールドの中、ちょっとした広場に降り立ったセンリは、襲い来る氷の槍を見て愉快そうに口角を上げる。


 弾丸の如き速度で飛来する氷の槍は雹のように降り注ぐ。

 その一撃一撃が高い殺傷力を持っているため、無防備で受けるのはいかにファントムと言えど危険である。


 しかし、遠見センリにはその動きが視えている。


 彼はその巨体に似合わぬ超スピードで動き回ると、襲い来る全ての氷の槍を回避した。木の枝を飛び移り、手に持った大弓で叩き落とし、時には大木を倒して壁にして――都合13本の氷の槍を全て避けきった。


 避けきって、そして――すぐさま、冬空テンカの方を見る。


 テンカはすでに第二陣を用意していた。

 その必至の形相からは、魔力の消耗など考える余裕もないようだ。

 一瞬でも気を抜けば逆転されることを分かっているが故に、テンカは出し惜しみなく己の因子を活性化させ続ける。


 だが、決死のテンカに対して、センリにはまだ余裕がある。


 跳び上がって上空から氷の槍を叩きつけようとするテンカを、センリはまっすぐに見返す。

 その手の大弓には、すでに矢が番えられている。魔力で編まれた矢は膨大な情報圧を撒き散らしながら、音速を超える速度で発射される。


 その軌道は不規則だった。

 本来の弓矢ではありえない動き。直角に曲がる軌道を何度も描きながら、センリが放った魔力矢はテンカの背後をジグザグに駆け巡った。

 そしてテンカが用意した氷の槍を全て破壊し尽くし、最後に彼女の腹部を強引にえぐった。


「ガッッ、ハッッッッッ」


 ただでさえ消耗している魔力が、霊子体の破壊とともに溢れ出す。

 テンカは激痛に途切れかけた意識を精一杯引き戻しながら、傷口を氷で覆って応急措置を行う。『固定』因子のパッシブスキル、『黎明の処女雪』。テンカは身体欠損を氷で補うことが出来る。


 しかし、状況が良くなったわけではない。


「終いだ、雪女!」


 落下中の彼女に向けて、センリが矢を番えながら好戦的に言う。


 弓を構えた状態で器用に木と木の間を駆け巡るセンリは、次こそは頭を撃ち抜かんと元を引き絞っている。


「くぅ、しまった!」


 身動きの取れない空中では格好の的だ。

 彼の弓の破壊力はよく知っている。次に無防備に受けてしまえば敗北は必至だろう。


 だが。


「――なんて、言うと思いまして?」


 テンカは落下しながら、にやりと笑ってみせた。



「『凍えろ、吹雪よ風に舞えブリザード・ホワイトアウト』。震えて、凍えなさいな!」



 瞬間、テンカとセンリの間に暴風が吹き荒れ、互いを弾き飛ばした。

 それは雪を伴った暴風であり、局地的な猛吹雪だった。

 つい先程まではただの推進力にしていた吹雪を、今度はフィールド全体を覆うくらいに拡散させる。


 視界全てが真っ白に染まった。


 吹き飛ばされてたたらを踏んだセンリは、態勢を立て直すとすぐに周囲を見渡す。雪国で起こる吹雪そのものに覆われたフィールドは、一メートル先すら見えない視程の悪さだ。しかし、人間には見えない吹雪の壁であっても、センリの持つ『遠見の魔眼』であれば視通せる。


 吹雪で身体が凍えるのを感じながら、センリは己の両目に魔力を通す。


 そんな彼の側で、白い影が動いた。

 白い風に紛れてテンカは接近を試みる。『吹雪』の因子のパッシブスキル『雪の白鷺』。気温が低く、視界が悪い状態において、自身の存在を相手に感知させなくするこのスキルは、一瞬とは言え『遠見の魔眼』すらもかいくぐってみせた。


 僅かに残った吹雪の残滓を盾に、テンカはセンリの懐へと突撃する。


 手のひらからは、氷の棘をいつでも突き出せるよう構えている。テンカの存在は、ギリギリまで気づかれていないはずだった。


 しかし。

 テンカが手を突き出す瞬間、センリは彼女へと目を向けてきた。


「ぐ、嘘ですわ!」

「カカ! 甘いぞ雪女!」


 センリには今の今までテンカの存在を感知できていなかった。

 そんな彼が直前でテンカの拳に対応できたのは、ひとえに彼の持つ『狩猟』の因子のおかげだった。


 『狩猟』の因子のパッシブスキル『跡見とみ』。


 敵の前の動作を視ることで後の結果を予測するという未来視じみた能力。

 テンカはヨハン・シュヴェールトとの勝負において、同じスキルを利用して不意打ちを行っている。その試合を見ていたからこそ、センリは予測不能な接近を予知できた。


 氷の棘と異形の腕が交差し、周囲に衝撃を生んだ。


 筋力値で負けているテンカは、センリの拳をまともに受けて地に叩きつけられる。乱暴な一撃に腕がもげかけるが、かろうじてついている。えづくように息を吐くテンカに、センリは続けて一歩踏み込もうとする。


 その動きは覚えている。

 発勁法・震脚。


 足を踏み鳴らすことで勁を発生させ、続く一撃につなげる中国拳法の套路。二年前の試合では、これによってほぼ即死に近いダメージを与えられた。


 問題は、遠見センリの震脚はそれだけで必殺に近い膂力を持っていることである。そのデタラメな破壊力を喰らえば、成長した今でもまず防ぎきれないだろう。


 勝負をかけるなら、ここだ。

 テンカは立ち上がりながら、引くのではなくあえて前に出る。

 出し惜しみは無しだ。コウヤには悪いと思いながら、ありったけの魔力を引き込んで必殺のスキルを発動させる。



「『氷床よ、星を覆い殺せクライオジェニアン・スノーボールアース』!」



 吹雪が晴れかかったフィールドに、大規模の寒波が駆け巡った。


 その風は一瞬にして動植物を凍死させる。星すらも覆い尽くすほどの氷床は、土地の表面を根こそぎ凍り尽くしていく。


 それはセンリも例外ではない。

 センリは体温を一気に奪われ身体能力の一部を奪われる。

 細胞が凍りつき、壊死していくのを感じる。魔力の流れすらも停止しそうな低温は、確実にファントムの活動を止めに来ている。


「く、こいつは厄介な!」


 身体の動きが鈍くなるのを感じながらも、センリは自身の体に力を巡らせる。


「『鬼化』――『我は媽祖の随神なり』」


 全身を氷に覆われたセンリは、自身の肉体を変質させる。


 アクティブスキル『鬼化』。

 彼が持つ『鬼』の因子を最大に発揮して全身を異形へと転化させる。

 センリの赤黒い肌が隆起し、全身が武骨な皮膚に覆われる。その姿はさながら、生身でありながら鎧に覆われているようだった。


 全身の表面を覆う氷を強引に振り払う。

 媽祖に仕える鬼神そのものとなったセンリが振りまく膨大な情報圧は、彼の周囲だけ氷床を溶かすほどだった。


「カ、カカカ! 今のはひやりとしたぞ」


 愉快そうに笑いながら、センリは弓矢を構える。

 その腕は異形のものになっているが、完全に氷を剥がしきれていない。どうやら無傷と言うわけには行かないようだった。


 変身を遂げたセンリを前に、テンカは距離をとって氷の槍を作り出す。

 今の必殺のスキルを持ってしても倒しきれなかったのは悔しいが、しかし確実にダメージは通っている。強大な敵である遠見センリも、別に不死身というわけではない。ならば、限界まで食い下がるだけだ。


「遠見センリィィぃいいいいいい!」

「来い、冬空ァァあああああああ!」


 そうして、何度目かわからない攻防が再び始まろうとした。


 その時。

 クレーの射出音が響いた。


「っ!」


 すぐさまセンリは弓を引いて、強化クレーを破壊。

 同じくテンカも、迫り来るクロアの魔力弾を氷の槍で弾き飛ばした。


 二人はそれぞれ自分のバディのためにサポートをしてみせると、互いに中距離で身構えながら顔を合わせる。


「――く、くはは!」


 思わずと言った調子で、センリは愉快そうに笑い声を上げた。


「なんだ。俺を追い詰めるのに必死かと思いきや、意外と周りが見えてるじゃないか!」

「はぁ、はぁ……あなたの、方こそ。随分余裕ですわね。敵を前にしてよそ見をするだなんて。そんなにわたくしのお相手はつまらなくて?」


 挑発混じりに強気な言葉を向けるテンカに、センリはゆるりと首を振る。


「そうでもないさ。お前の相手はすごく楽しいぞ」


 意外な言葉にテンカは目を丸くする。まさかこの男から認められるとは思っても居なかった。

 快活な笑いとともに、センリは続ける。


「距離を詰めず、さりとて離しすぎず。俺にとって嫌な間合いの取り方を的確にしてくれる。正直、全霊を尽くして潰しにかかりたくなる程度には、そそる戦い方だ。これがマギクスアーツではないのが本当に残念だ」


 お世辞ではなく本当に惜しく思っているのか、センリは不敵に笑いながら言う。

 そんな彼に、テンカの方は強がりを口にする。


「あら、熱烈なラブコールですこと。でもお生憎さま。わたくし、心に決めた殿方がおりますの。あなたのような野蛮人はお呼びでなくてよ」


 軽口を叩きながらも、テンカは一時も緊張を解かない。

 解きたくても解けないのだ。

 目の前の敵は、僅かでも隙があればその瞬間に矢を打ち込んでくるだろう。


 テンカが辛うじて均衡を保てる理由があるとすれば、それはセンリが、シューターズとしての試合の立ち回りをしているからに過ぎない。


 相手を倒すためではなく、相手にポイントを奪われないための立ち回り。


 テンカの相手をしながら、幾度となくコウヤが放った魔力弾を打ち落とし、自陣が取れないクレーがあればそれを破壊していった。それでいながら、テンカの必死の攻撃を見事に受けきっているのだから、さすがである。


 先ほどテンカがクロアの魔力弾を打ち消せたのは、単に偶然目に入っただけの話だ。常に意識しながらの戦闘など出来やしない。


(わたくしはこんなに必死ですのに、この方ときたらあっさりとそれをやってのけるんですもの。何枚も上手な相手なのは否定できませんわ)


 切り崩せない、とはっきり理解した。


 スコアボードを見る。

 15対17。


 ――まだ、コウヤは逆転出来ていない。


 時間はどれくらい経っただろうか。随分長いこと戦っている気がする。メインフェイズの五分というのがこれほど長く感じるのは初めてだった。


 後先考えずに魔力を消費してきたので、そろそろ消耗が目に見えてきている。あと大技は何回使えるだろうか。持久戦をするにも、センリ相手では大技を使う必要がある。これでラストフェイズまで持たせられるか不安が首をもたげる。


 テンカが先の心配をしていると、センリがふいに気を抜いたような様子で口を開いた。


「さて、もうすぐメインフェイズが終わるな。雪女よ」

「……そうですわね。しょっぱなに不意打ちをしてきた割には、勝負を決めきれていませんのね。情けないとは思いませんこと?」

「はは、言うな。これはこちらの不手際というよりは、そちらの奮闘の賜物だろう。よもや下半身を潰されておきながら、ここまで食い下がるとは思わなんだ」


 コウヤのことを高く評価する発言に気を良くする。敵対している状態ではあるが、その事実にテンカは嬉しく思った。自身の信愛するバディが褒められるのは、悪い気がしない。


 だが、逆に言うと、それだけ相手がコウヤを警戒しているということの証左でもある。


「オープニングでの不意打ちが姑息であることは百も承知だった。それでも、機動力を奪っておく必要があったのだ。最後に逆転をされないためにな」

「……それは、どういう意味ですの」

「何、こういう意味だ」


 言いながら、センリは弓を構える。


 手のひらからあふれる魔力の奔流が、弦と弓幹の間で一本の線となる。そこから放たれる一撃は、さながらレーザーのように敵を貫くだろう。


 無防備に弓を構えてきたので、すぐさまテンカは氷の槍を叩き込む。

 この距離、彼が弓を引き終えるよりも。自身の氷の槍がセンリの身体を貫くほうが早い。


 おそらく、彼は避けるだろう。

 そうすれば、また弓を構えなおさなければならない。しかし、それを許しはしない。延々と、彼に攻撃する隙を与えずに、テンカはゲームが終わるまで氷の槍を叩きこむ覚悟だった。


 だが――そこで予想外が起きた。

 センリは微動だにせず、飛来する氷の槍を全てその身に受けたのだ。


「な、なんで……」


 テンカが放った四本の氷の槍は、全て致命傷となる部位に刺さっていた。

 鬼神化して防御力が上がっているセンリだが、それも先の『スノーボールアース』を受けたことで消耗している。ここで頭部や首筋を破壊されては、霊子体の崩壊は免れない。


 それでも、センリは勝ち誇ったように言う。


「言っただろう。これはシューターズだと」


 センリは矢を放つ。

 その魔力の弓矢は、遥か後方――テンカにとっての主人がいる場所へと、消えていった。


「ファントムの役目は、プレイヤーに点を取らせることだ」


 つららに全身を串刺しにされながら、センリはにやりと笑って、そのまま消滅した。



『メインフェイズが終了しました。ラストフェイズへ移行します』



 無機質に響く案内を聞きながら、テンカは後方を振り返った。


「コウヤ!」



※ ※ ※



 何が起きたかわからなかった。

 ただ、身体が衝撃に吹き飛び、無様に空を向いているという事実だけがそこにあった。


「い、つ――ぅ、くそっ」


 数瞬遅れて状況を把握する。

 


 ライフル型デバイスでの狙撃をする体勢だった。スコープを覗く目には、最後のクレーが見えていた。

 そのクレーへと射撃を終えた瞬間、


 よろけながら上体を起こす。

 相変わらず足はひどいものだ。その上、今の一撃で破壊された銃身の破片が襲いかかり、上半身も穴だらけになっている。


 粉々になったデバイスを見ながら、さっとコウヤはスコアを確認する。


 16対17


 ――最後に狙ったクレーは、無事に破壊できたらしい。

 それが良かった点。


 悪い点があるとすると、今の一撃で、マイナスポイントが発生していないことだ。


「うますぎんだろ、くそ」


 デバイスの銃身のみを狙った一撃。

 そういえば二年前も、センリにはデバイスを破壊されていた。


 しかしあの時はほとんど無防備だった上に、上空からの一撃だった。それに対して今回は正面からコウヤ目掛けて矢を放ち、的確にデバイスのみを破壊してみせたのだ。


 はっきり言って、反則級のファントムである。



『メインフェイズが終了しました。ラストフェイズに移行します』



 アナウンスが鳴り響く。

 ここからはエネミー戦だ。


「……くそ。参ったな。こりゃ」


 戦う手段がなくなってしまった。


 足を破壊された程度だったらまだ良かった。しかし、メインデバイスが破壊されたらもうお手上げだ。

 この距離からデバイスの補助なしに、エネミーを破壊できるだけの魔法を組み上げるのは、恐ろしく手間である。


 加えて、メインデバイスが破壊されたので、念話の術式も使えなくなった。この状況で、バディとの連携が完全に絶たれたのだ。


 持ち込めているサブデバイスは二つ。

 身体強化と魔力弾が入っている拳銃ハンドガン型デバイスと、霊子サーベルのグリップ型デバイス。どちらも、近接戦になった時のことを考えてのものである。

 拳銃型にしても、魔力弾はそこまで長距離を想定して組まれていない。足が潰されている今の状態では、あまり使い勝手が良くない。


 もう、諦めるしかないような状況だった。

 ――それなのに、コウヤはデバイスに魔力を通し始める。


 身体強化の魔法。

 その場所を『目』に限定する。スコープ程ではないが、これで中央エリアの状態はだいたい確認できる。


「おいおい。本気でガチの構成じゃないか」


 ラストフェイズ。

 エネミー戦においてコウヤが選択したのは、中型エネミー一体と小型エネミー三体だった。


 それに対して、龍宮クロアが選択してきたのは、だった。


 今の点差だと、仮に大型エネミーと小型エネミーを一体ずつ破壊されれば、その時点で逆転は不可能となり、ゲームセットになる。


「まずいな、くそが」


 言いながら、霊子サーベルを立ち上げる。

 樹の幹に背を預けながら、魔法式を組み始める。


 デバイスの補助なしで、一から魔力の構成を記述していく。

 恐ろしく手間で、頭が焼ききれそうになるような行為。その場で膨大な演算をしているのと同義である。

 だが、実はそこまで複雑なものはいらない。


 なぜなら、これからコウヤがやろうとしているのは、自爆行為だからだ。


「マテリアル『物理・風』コンバータ『対流』。マテリアル『物理・気温』コンバーター『低下』。マテリアル『物理・火』『物理・水』『物理・空気』コンバーター『気圧差』コンバータ『集中』」

 

 四工程。

 自身の周囲の空気を薄くし、辺りに散らせていく。


 辺りの空気の流れを操り、ちょっとした風を起こす。

 また、空気が薄くなった中、サブデバイスを中心として火をおこし、その周囲だけ一酸化炭素を大量に創りだす。


 そして――


「処理中止。エラーコマンド」


 頭がはちきれそうになるまで記述していた魔法式を、一気に放棄。


 グリップ型デバイスを放り投げた。

 するとどうなるか。


 途中まで起動していた魔法式が暴走し、周囲の空気が一気に中心――サブデバイスの周りへと集まる。そこには一酸化炭素が集められている。さらに、火をおこしているグリップ型デバイスという好条件。


 結果、擬似的なバックドラフト現象が起こる。


 最後に、平行して起動していた、拳銃型デバイスの魔力弾発射用の魔法式を送り込む。


「『放物射線』、シュート!」


 溢れ狂う力に、方向性だけを指定する。

 方向性が決められた爆風は、中心のサブデバイスを吹き飛ばす。


 霊子サーベルが立ち上がったままのサブデバイスは、まっすぐに中央エリアへと吹っ飛んでいくと、宙空を飛行していた中型エネミーの周囲でエネルギーを撒き散らす。

 その衝撃を利用して、中型エネミーを破壊することに成功した。


 爆風の余波を受けて、コウヤの身体は吹き飛ぶ。

 それでもまだ意識を保つ。まだ気を失う訳にはいかない。


 薄れ行く中、スコアを見る。


 20対19


 逆転――したが、クロアもこの時間で小型エネミーを一体破壊していた。


 残るエネミーは、小型二体と、大型一体。

 ――大型エネミーを破壊されれば、逆転する手段がなくなり、負ける。


「く、そ」


 身体、動け。

 まだだ。まだ、諦めない。


 何がそれほどまでに自分を突き動かすのか。

 この試合で負けらからと言って、死ぬわけでもないし、何かを失うわけでもない。


 それでも、やはり自分の中に、何か、『譲れない感情』というものが燃えている。煌々と燃えるそれを、コウヤは掴んで話さない。



「まだ――だ!」


 その思いが通じたのか。


 ――世界が、時を止めた。



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