第20話 竜人の髪は鱗のように硬く柳のように撓る。

 時はプオリジア暦633年。

 数百年も続くバトル三国の時代が終わり、人と魔族の国の間に不可侵の条約が結ばれてから40年の歳月が経とうとしていた。



「ふあぁ~…。それじゃ行ってくるね。」

 いつもは朝に弱いはずのお父さんですが、五日に一度だけ早起きして外へ出かける日があります。今まで気にしたことは無かったけど、今日はなんだか気になったので。わたしは「どこへ?」と尋ねました。

「アルケイド君の家だよ。」

 アルケイド君。昨日出会ったあの子です。そういえばあの子には病気のお母さんがいて、前から何度も父さんに病気を診てもらっていると言ってました。私ももう一度あの子に会いたいと思ったので、お父さんについていくことにしました。


「ここだ。」

 お父さんに案内されてやって来たのは、村のはずれにある少し寂しげな小屋でした。外の花壇には、たくさんの綺麗な花が咲いています。

「先生ー!それにエリーも!」

 玄関のドアをノックすると、アルケイド君が飛び出してきました。どうやら私たちが来るのを待っていたようです。私はアルケイド君に手を引っ張られながら家の中にお邪魔します。するとそこには安楽椅子に座りながら本を読んでいる女の人がいました。

「母さん、先生が来たよ。…それに昨日言ってた友達のエリーも一緒だ。」

 アルケイド君が女の人に寄り添います。きっとこの人が彼のお母さんなのでしょう。私にはお母さんが居ないのでなんだか不思議な感覚です。

「……まぁ、デュミオス先生。それに…可愛らしいお友達まで。」

 アルケイドのお母さんが私に微笑みます。私もつい笑顔になりました。

「クレスティアさん。今日はお元気そうですね。」

「ええ。……これも先生のおかげです。」

 アルケイドのお母さんが私のお父さんに感謝をします。村の人々はいつもお父さんを毛嫌いするけど、この人だけは違いました。病気を診てもらっているからという理由だけではありません。アルケイドのお母さんはきっと人間が嫌いではない人なのでしょう。


「…さあ二人とも!外で遊んできたまえ!」

「はーい!」

 お父さんが私たちを外へ追いやります。お父さんは診察をしなくてはいけないので、私たちに騒がれるときっと迷惑なのでしょう。


「よーっしエリー!今からモンスター退治に行くぞ!」

 アルケイド君はかっこいい剣を担いで言います。

「行こう行こう!」

 私たちは意気投合してモンスター退治に出発しました。



「エリー!何体倒した!?」

「あと少しで10体……。」

「そうか……。俺は15体。」

 俺は、今猛烈に焦っている。なぜなら俺はさっき15体倒したと言っていたが、あれはウソで本当は8体しか倒していない。それなのにエリーはあと少しで10体になると言っている。つまり、俺は今彼女に負けているって事だ。

「クッソー……!もっと出て来いよ!プニプニ!!」

 俺は残り二体のプニプニを必死で探す。しかし、プニプニはなかなか見つからない。俺はもしかしたらエリーの方にばかりプニプニが偏ってるんじゃないかと考え、そっちへと向かった。

 ドゴンドゴンと地面が揺れる。これはエリーが魔術を使っている音に違いない。それにしても少し大げさすぎるような気もするが……。

「アルケイド!あぶない!!」

「な…!?」

 突然、目の前に巨大な土の壁がにょきっと生えてきたかと思うと、べちょんという音と共に土壁の両端から大量のプニプニがなだれ込んできた。

プニプニの重さで土壁が崩れると、そこに居たのは2m近い超巨大なプニプニの塊と、それに応戦するエリーの姿だった。



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 それは今までに見たことのない、とっても大きなプニプニでした。

「えいっ…!!」

 私は地中から土の槍を伸ばし、プニプニに突き刺して攻撃します。プニプニの本体は内部にある赤い玉なので、それを破壊すればプニプニはバラバラになるのですが、プニプニがあまりにも大きすぎるせいで土の槍では本体に届く前に砕けてしまいます。

 もう少し硬い地層はないか。と、私は辺りを見回します。しかしここは森の中。木が根を張るのにちょうどいい土しかありません。プニプニも賢いようで、こっちの攻撃が届かないと知ると積極的に体当たりを仕掛けてきます。

 私は焦りました。プニプニを倒す実力があるから薬草摘みを任せられたのに、もしもここでやられてしまったらもう二度と村の外へ出してもらえなくなるかもしれません。

負けるわけにはいかない。私はそう思いました。

 私が次の槍を用意していると、突然プニプニの様子が変わります。プニプニが何かに反応しているようです。まさか……。いえ、間違いありません。あの特徴的な黒髪。間違いなくアルケイド君です。プニプニはこちらに近づいてくるアルケイド君に気付きました。そして、今まさに体当たりを仕掛けようとしています。

 アルケイド君はプニプニに気づいていません。……いますぐ彼を守らなくては。


「アルケイド!あぶない!!」

「な…!?」

 プニプニは土の壁にぶつかってぶにゃっと変形します。私は動きが止まった一瞬のスキを見逃さず、本体にむけて思いっきり土の槍を突き刺しました。

「……!」

 しかし、巨大プニプニもやはり賢いです。槍が突き刺さる直前にぶつかった衝撃でわざと分裂し、槍を取り込んだまま一つの塊に戻ってしまいました。

「え、エリー…!?そのデカいのってプニプニかよ!?」

「プニプニだよ!!」

「……アレ倒したら10匹分って事でいいな!」

 アルケイド君は大人の振るう大きさの長剣を両手で構えます。王族が持つような、とても見事な長剣です。

「アルケイド!やっちゃって!」

「え?…いいの?」

「いいよ!」

 土の槍とは違い、鋼鉄製の剣なら折れずに本体を斬ることが出来るはず。そう思った私は、彼にとどめを任せる事にしました。


「私が動きを止めるから!そのうちにトドメをさして!」

 地面に手を触れ、いつものように地中の魔力と自分の魔力を反応させます。この反応がうまくいくと、ちょうどこんな感じで土の壁がせり上がってきます。私はこの壁を巨大プニプニのまわりに幾つも用意しました。

「よっしゃあ!!」

 アルケイド君は勢いをつけて土の壁に飛び乗り、巨大プニプニ目掛けて思いっきり剣を振り下ろします。


 ぷっちーーん!!

 鋼鉄の剣でプニプニは真っ二つ。

 私は土の壁を急いで崩してアルケイド君の元へと向かいます。すると突然、目の前が真っ暗になりました。

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