第八十四話
「パパ!」
ミウが心配そうに凌馬を呼ぶと、抱き付いてきた。
「どうしたんだミウ。パパなら大丈夫だよ。」
ミウを抱き抱えて、背中を撫でながらあやしていく。
「凌馬さん、なにか凄い衝撃があったんですが。」
「ああ、クレナイに使用させた武器の威力だよ。俺もここまでとは思ってなかったから少し驚いているが。心配かけてすまないナディ。」
凌馬はミウを抱えたままナディの隣に立つと、肩を抱き寄せていた。
「敵はほぼ殲滅できたが、まだ生き残りが居るかもしれん。周囲の警戒は怠らないように進むぞ。」
『了解しました。』
『ワン!』
「ああ、分かった。」
凌馬たちは、爆心地に向けて進み出す。
凌馬はこの光景はミウには少し刺激が強いと思い、ミウは凌馬が抱き抱えて周りが見えないように配慮していた。
ナディにも目を瞑ってカイに乗っているように言ったのだが、本人に大丈夫だと言われてしまい今、凌馬の隣に周囲を警戒しながら歩いていた。
パシュッ! パシュッ!
ムラサキとクレナイが先行して、まだ息のある魔物たちに止めを刺すためにサプレッサーを付けた銃で攻撃をする。
その後方を凌馬とミウとナディが、更に後ろをウィリックとルドレアが続き最後方にカイとソラがいた。
「ウィリック様、私の側を離れないように。」
「大丈夫だルドレア。俺だってこう見えてもそれなりには戦える。お前は自分の持ち場を警戒していろ。」
ウィリックにもそれなりに自尊心はあるのだ。
例え自分より強かったとしても、女性に守られているだけというのは許せるものではなかったようだ。
凌馬はそれとなくウィリックの様子を伺っていたが、やはりそういうところは年相応に多感なようだった。
自分の少年時代を思い出して、少しほくそ笑んでいた凌馬であった。
まあ、とはいってもムラサキとクレナイが先行しているのだ。
ご主人様たちに危険がないように細心の注意を払い、しかも索敵能力の高い二人の目をすり抜けることなど土台無理な話であった。
特に下級の魔物たちになどには。
そうして、一キロ程進むと魔物たちの死骸もなくなりそれからしばらくして最終目的地の帝都へと到着するのだった。
「ふむ、不気味なほどの静けさだな。街の周囲にも門の前にも人っ子一人居もしない。」
凌馬は帝都上空に監視ゴーレムを飛ばして様子を見ていた。
「凌馬、帝都の人たちは無事なのか?」
ウィリックは国民の安否を気にしている様子だった。
「ちょっと待っていろ。やはりそうか、どうやら予想通り一定数毎に人質として複数の場所に分散して管理しているようだな。見張りの魔族たちの姿も見られる。それと、帝都内には魔物たちが巡回しているようだ。統率も取れていることから、外にいたやつらよりは知能も高そうだな。」
凌馬は偵察で掴んだ情報をみんなに説明しながら、帝都の簡単な地図にそれを書き記していく。
「それじゃあ、まずは人質になっているものたちの救出に行くんだろ凌馬。」
「いや、それは無理だな。」
「何でだよ。彼らを放って置く気か?」
ウィリックの提案を否定した凌馬に、非難の声をあげる。
「冷静になれウィリック。帝都の人口は十万人を超えるんだぞ。仮に、人質全てを救出できたとして誰がそれだけの数を護衛するんだ。こっちは少数精鋭ではあるが、それだけの数はいくら俺がゴーレムたちを用意したところで守りきれはしない。それに奴等も人質救出の動きには警戒しているはずだ。だからこそ、離れた場所に分散して管理しているんだ。こちらの動きに気がついたら、奴等も人質を盾にしてこちらの動きを封じてくるだろう。」
凌馬はウィリックを含めた全員にそう説明をした。
「じゃあどうするんだ。いきなり本陣に斬り込むつもりか? それで奴等を追い詰めたとしても、結局は人質を取られていることに変わりはないじゃないか。」
「そう、奴等も同じ事を思うだろうよ。保険を掛けている自分達が圧倒的に優位で、いざとなったら切り札に使えると。そう思っている間は、奴等も人質には手を出さないはずだ。その為に、俺が何をしでかすか分からない危険なキャラを
凌馬は全て計画のうちだったと説明をする。
「流石は凌馬様です。初めから全て計画していたのですね。」
クレナイが凌馬を崇拝するように称えていた。
ムラサキやカイとソラもクレナイに同意していた。
「本当かよ。後でお前の話を聞いたが、とても演技で行えるようなことではないとおもうんだが。それにかなり私情も見られたような・・・。」
ウィリックだけが、凌馬の言葉を疑っていた。
まったく心外なことであった。それでは、凌馬が本当にロリコン変態紳士などの汚名を気にしているようじゃないか。
身に覚えもない、根も葉もない言葉を投げ掛けられて本気で切れるなど、それほど凌馬は短絡的でもなければ心も狭くはないのだ。
凌馬もこの世界でミウの父親となって目覚ましい成長を遂げていたのだった。
やれやれというようなリアクションをとりながらウィリックの言葉を受け流した凌馬は、心の中で百倍から千倍返しにレートをアップさせるのだった。
「まあ、雑談はこのくらいにして本題だ。ムラサキ、昨日渡しておいたものはちゃんとあるな?」
「はい。全てこの中に。」
ムラサキは、マジックバッグから一つだけそれを取り出して凌馬に見せる。
「それでは、設置箇所は既に地図に印をつけておいたから、敵に発見されないように行動してくれ。一応サポートにこいつを付ける。万が一戦闘になったときは、身の安全を第一に行動してくれ。」
凌馬は鳥型の護衛魔道具を出すと、その鳥はムラサキの肩に止まるのだった。
「ありがとうございます、凌馬様。」
その魔道具は、時間制限はあるものの戦闘能力は凌馬の倒したSランク冒険者たちを凌駕するものであった。
危険を察知すると発動し、巨大化して敵に襲いかかるカウンタータイプの魔道具であった。
「ムラサキ、合図とともに一斉に帝都を掌握しろ。魔族どもには容赦の必要はない。」
「かしこまりました。それでは、皆様ここで失礼します。クレナイ、後の事は頼みましたよ。」
「任せてください、姉さん。」
ムラサキはそう言い残すと、凌馬たちの前から姿を消した。
「凌馬さん、ムラサキは一人で何をしに?」
「それは後で分かるよ。さて、俺たちの方も動くとするか。」
「凌馬さん、城の中にはどうやって侵入するつもりですか? 私たちが脱出に使った隠し通路があるのですが・・・。」
ルドレアは凌馬に問い掛けてくる。
「ルドレア、それは止めた方が良いだろう。父上が敵の手にあるのならば、隠し通路のことも露見していると考えるべきだろう。当然向こうも警戒に人員を割いているはずだしな。」
ウィリックが凌馬が答えるよりも先に、ルドレアの案を却下する。
「確かにウィリックの言うとおり、敵も待ち構えているだろうな。故に、そこから行くとしようか。」
「はっ?」
「凌馬さん?」
凌馬の言っている意味が分からないウィリックやナディが聞き返していた。
「いや、聞いていたか凌馬? 敵はそこで待ち構えているんだぞ。何で自分から罠に掛かりに行くんだよ。」
最もな正論をいうウィリック。
「正直に言うと、俺一人なら奴等に気付かれずに侵入は可能だし、敵を倒すだけならむしろその方が早いが、それではお前の出番がなくなってしまう。これからこの国を背負う男が、全てをお膳立てされてなんの苦労もなくトップに着くことなど俺は認められない。それはお前だって同じ気持ちのはずだ。お前が皇帝として立つ気ならば、この俺にその覚悟を示して見せろ。」
凌馬はウィリックに宣言する。
「言われなくても、見せてやるさ。それに、俺だって姉上との約束がある。それを果たすのは俺の役目だ。」
ウィリックの言葉を聞き、凌馬も頷く。
「さっきも言ったが侵入経路は隠し通路からだ。理由は、極力相手の想定通りに行動をしたいからだ。俺たちが相手の想定通りに動けば、相手の動きも予想しやすい。罠くらいならぶち破ること自体は容易いし、むしろ怖いのは相手に闇雲に行動されてしまうことだ。それだと対処が遅れる恐れがある。状況を覆すのは、相手が勝ちを確信して油断したその瞬間だ。そこで一気呵成に制圧するぞ!」
それは、圧倒的に実力差がなければ成立不可能な作戦とも呼べないものであった。
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