SS.5 ミウの一日

 私の名前はミウ。パパに拾われてミウと名前を付けてもらい、一緒に私のお母さんを探す旅をしている。

 パパと出会う前のことはあまり覚えていない。

 何処にいて、誰と暮らしていたのか。

 でも、パパは必ずお母さんを見付けてくれるって約束してくれた。パパはミウとの約束は必ず守ってくれるから全然不安はない。


 最初は私とパパ二人で旅をしていたけど、旅を続けていく内に家族が増えていった。

 ナディお姉ちゃん、カイとソラ、ムラサキとクレナイ。

 家族が増える度に馬車の中は賑やかになっていって、パパと二人でも楽しかったけれど、今はもっと楽しい気持ちにさせてくれる。


 私の一日はみんなで眠っているベッドから起きるところから始まる。

 朝、目が覚めるといつも隣に居るナディお姉ちゃんが先に目を覚ましている。

「おはようミウちゃん。」

「おはようお姉ちゃん。」


 朝の挨拶を交わすと、いつも最後まで寝ているパパの寝顔を二人で眺めていた。

 寝るときはいつもミウが最初なので、パパの寝顔を見られるこの時間は二人だけの秘密であった。


 パパの寝顔を見ていると、自然と二人笑みが溢れてくる。


 今日もパパは、ミウたちが目覚めてから十分位してから目を覚ました。

「おはよう、ミウ、ナディ。」

「おはようパパ。」

「おはよう凌馬さん。」


 パパが目覚めたところで、お互いに挨拶をする。

 そしてベッドの上で寝ていたカイとソラにも挨拶をする。

「おはようカイ、ソラ。」

『クゥーン。』


 カイとソラは毛並みが良くて、抱き付くととっても気持ち良いので毎朝ふたりに抱きついて挨拶をしている。

 ふたりはミウが抱き付くと、いつも顔を擦り寄せてくる。

 少しくすぐったいけど、ふたりの気持ちが何となく伝わってきて嬉しい気持ちにさせてくれる。


 朝の挨拶が終わると、みんなでリビングへと向かう。

「おはよう、ムラサキ、クレナイ。警護ご苦労様。」


『おはようございます。凌馬様。ミウお嬢様、ナディお嬢様。』

 パパはいつも二人に感謝の言葉を忘れない。

 ミウも二人には良くしてもらっているので、パパと同じように二人にお礼をする。


『勿体ない言葉です。ミウお嬢様。』


 朝食前に歯を磨くようにパパに教えられて、毎朝三人で一緒に鏡の前で磨いている。

「ミウちゃん、こっちに座って。」

「うん!」


 そして、毎朝の習慣で髪をナディお姉ちゃんにとかしてもらう。

 私にとって特別で大好きな時間。

 何か、昔にも同じ事を誰かにして貰ったようなそんなことを思い出しそうで思い出せないのがもどかしい。


 髪をとかし終わると、パパと私はリビングへ、お姉ちゃんはシャワーを浴びるのが日課になっていた。

 お姉ちゃんがお風呂から出る頃に、三人で朝食の用意をする。


 朝食はいつも和食を食べる。パパは、和食は体に良いし朝はご飯が食べたいと言っていた。

 ミウもパパが前いた世界で、毎日食べていた料理が食べられて嬉しいって言ったらパパに抱き付かれた。


 パパが魚を焼いて、お姉ちゃんがお味噌汁を作っている。私はそんな二人に見てもらいながら包丁で野菜を切る。

 手をにゃんこの手の形にして切ると、怪我をしないと教えてもらってから毎朝包丁の練習をしている。


 お味噌汁の作り方も教えて欲しいけど、お味噌汁は家庭の味でミウが覚えるのはまだ早いとパパに止められた。

 なんのことかは分からなかったけど、パパが言うのだからきっと何か意味があるんだと思う。


 花嫁修行がなんとかって言ってたので、花嫁ってなにと聞いたら女の子が好きな男の子と一緒になった人のことだとお姉ちゃんが教えてくれた。


「じゃあミウ、パパの花嫁になる。」

 って言ったら、パパに大泣きされながら抱きつかれて、お姉ちゃんは「ははは・・・。」って変な風に笑ってた。

 何でだろう。ミウ、パパのことが大好きなのに。


 朝食が始まると、カイとソラはお肉にかぶり付いて美味しそうに食べていた。

 食後のデザートに、今日はイチゴをふたりにあげることにした。


「はい、今日はふたりの好きなイチゴだよ。」

『キューン、キューン!』

 ふたりが甘えて来たので、頭を撫でてあげる。

 ミウはふたりのお姉ちゃんだから、しっかりと面倒を見てあげないと。

 パパにもふたりの世話を頼まれていたから、躾や身の回りの世話はミウの役目だしね。


 朝食が終わると、少し食休みをしてから馬車が走り出す。

 パパにお願いして、まわりに人が居ないことを確認してもらうと、ミウはカイとソラを連れて外へ散歩に行く。


 今日は変身を解いて、カイとソラと一緒に追いかけっこをすることにした。

「みゅーみゅー。」

『ワンワン!』


 ふたりはミウよりも速く走れるけど、いつも手加減をしてくれている。

 ミウはまだ小さいからふたりのようには早く移動は出来ないけど、いつか大きくなってふたりを乗せて空を飛んでみたいと思っている。

 だからふたりとももうちょっと待っててね。


 晴れた日の空はとっても気持ちが良い。遠くが見えるくらい高く飛ぶと道を進んだ先に湖が見えてきた。

 そのきれいな景色を眺めていたが、カイとソラが下で鳴いているのが聞こえてくる。


 いけない、いけない。ふたりを少し放っておいたから寂しい思いをさせてしまった。

 直ぐに下に降りるとふたりに謝罪する。


『キュ~ン!』

 ふたりは機嫌を直してくれたみたい。


 その後もミウたちはあちこち散歩をしながら、林の中や川を見て回った。

 ちょっとはしゃぎすぎて眠くなっちゃった。

 ソラの背に乗っていた私は、だんだんと重くなっていくまぶたを閉じた。


「クゥン。」

「ワン。」

 カイとソラはお互いに意思を疎通し合うと、凌馬が待つ馬車へと戻っていく。

 小さなご主人様が目を覚まさないように、ゆっくりと揺らさないように。


「おかえり、ふたりともミウのことありがとうな。」

「キューン。」

 凌馬はそう言うと、ふたりの頭を撫でてからソラの背で眠っているミウを抱き抱える。


「ミウちゃん寝ちゃってますね。」

「ああ、俺は昼の用意をするからナディ頼めるかい。」

 ナディは凌馬からミウを任されると、ソファーに座って膝の上にミウの頭を乗せると風邪を引かないようにタオルケットを掛ける。


「今日はちょっと頑張りすぎちゃったかな?」

 そう言うと、ミウの頭を優しく撫でながら微笑んでいた。

 凌馬はその様子をしばらく眺めていたが、やがて昼食の支度をするためにキッチンへ向かう。


「───ウ? ───ミウ? もうすぐお昼だよ。そろそろ起きようか。」

 どこからともなく聞こえてくる凌馬の声に、やがて意識を覚醒させるミウ。


「う~ん、あれ、パパ?」

「ミウ、もうお昼だよ。さっきまで疲れて眠ってたんだよ。」

「あっ、そっか。お姉ちゃんありがとう。」

「ううん、気にしないで。じゃあお昼ご飯にしようか。」

「うん。」

 ミウが目を覚ますと、もうお昼になっていた。


「カイ、ソラ。眠っちゃってごめんね。それとありがとう。」

『ワン。』

 ふたりにもお礼をすると、昼食の用意されたテーブルに着く。


「わー、今日はハンバーグの日だ!」

「そうだぞー、ミウのために腕によりを掛けて作ったんだ。いっぱい食べて大きくなるんだよ。」

「ふふふ、ミウちゃんは本当にハンバーグが大好きなんだね。」

「うん、パパの料理はみんな美味しいけどハンバーグが一番!」


 みんなで食べるごはんはパパと二人きりの時よりも、もっと美味しく感じる。何でだろう? 味は同じはずなのに。


 カイとソラもハンバーグの時は、ミウたちと同じメニューになる。

 中が熱いから、少し冷ましてから美味しそうに食べていた。


「今日は午後からみんなで釣りでもしないか。ちょうど近くに川があるようだし。川釣りなんて久しくしてないからな。」

「やるやる~。」

「わたしにも出来るかしら。」

「それじゃあクレナイ、ムラサキに近くに馬車を止められる所があったらそこで今日は休むように伝えてきてくれ。」


「かしこまりました凌馬様。」

 クレナイがムラサキに伝えに行くと、馬車はやがて動きを止めた。


「それじゃあ二人とも、あとは頼めるかな。」

『はい、いってらっしゃいませ皆様。お気をつけて。』

「いってきまーす。」

「よろしくお願いします。」

 ムラサキたちにそう言うと、みんなで川の方へと向かう。


「みんな、足元滑るから気を付けてな。それじゃあ竿はこれを使ってくれ。」

「よーし、いっぱい釣るぞー。カイとソラの分も釣って上げるからね。」

『キューン。』

「凌馬さん、私初めてなので釣りのしかた教えて下さい。」


 お姉ちゃんは初めてなので、パパに最初餌の付け方から教わっていた。

 ミウは釣りは何度かパパとやっていたので、カイとソラを連れてパパに教えてもらった場所で釣り始める。


 しばらく浮きの動きを見ていたら、魚のかかった合図があったので引き上げるとなかなかの大きさの魚が釣れた。

「釣れたー。」

「おお、もう釣ったのか。凄いな。」

「ミウちゃんすごーい!」

『ワンワン!』

「えへへー。」


 みんなが誉めてくれたので、少し照れ臭かったけどふたりへの約束を守れてよかった。

 パパが魚から針をはずすと、かごの中に魚を入れる。


 それからしばらく釣りを続けていたが、お姉ちゃんがなかなか釣れないようであった。

「あ~、また餌だけ取られちゃった。」

「お姉ちゃんちょっと良い?」


 ミウはお姉ちゃんの膝に座って、一緒に竿を持つ。

 浮きの動きに集中する。

「お姉ちゃん今!」


 ミウの合図で一緒に引き上げると、今日一番の大物が釣れた。

「きゃー、やったー。ミウちゃんありがとう。」

「お姉ちゃんよかったね。」

 お姉ちゃんが喜んでくれて、ミウもとっても嬉しかった。


 それからコツが分かってきたのか、一人でも釣れるようになったお姉ちゃん。

 二人で十匹以上釣り上げた。


「これはカイとソラの分だよ。」

『キューン、キューン!』

 ふたりは嬉しそうにかごの中の魚を見ていた。


「そう言えば凌馬さん、何処に行ったのかしら?」

「上の方に行っていたけど、まだ戻ってこないね。」

 二人でパパの噂をしていたら、上からパパが戻ってきた。


「いやー、やっぱり釣りと言えば川釣りだな。海も良いけど、俺の原点はここだからな。」

 そう言っていたパパは、かごいっぱいに入った魚を担いでいた。


「パパすごーい。大漁だね。」

「凌馬さん、そんなに釣って来たんですか。」

 パパが釣った魚は三十匹以上いた。


「ははは、少し釣りすぎちゃったかな。あんまり釣りすぎると良くないし、今日はここまでにしようか。」

 もうすぐ夕暮れ時なので、みんなで馬車の場所まで戻ることにした。


『おかえりなさいませ、皆様。凌馬様、準備の方は出来ております。』

「おー、ありがとう二人とも。もうここは良いから、少し休んできてくれ。」

 パパがそう言うと、ムラサキたちは馬車へと戻っていく。


「あれ、テント?」

「ああ、今日は久しぶりにみんなでテントで過ごそうかなって思ってな。せっかく魚も釣ったしキャンプにしよう。」

「テントで寝るの久しぶりだね。楽しみだねカイ、ソラ。」

『ワンワン!』

 カイとソラもはしゃいでいた。


「それじゃあ私は魚を捌いちゃいますね。」

「ミウも手伝う!」

「じゃあ俺は火の準備だな。」

 それぞれ夕食の準備を始める。


「ふたりとも、まだ時間が掛かるからこれ食べて待っててね。」

 ふたりに一匹ずつ魚を渡すと、嬉しそうにかぶり付く。

 そんなふたりをずっと見ていたかったけど、お姉ちゃんのお手伝いをしないとね。


 魚をまな板に乗せて、お腹の方を切ると内臓を取り出して洗っていく。

 焚き火を使って魚を焼くために串を刺して塩をまぶしたら準備完了。


 パパが火を起こして、テーブルや椅子を用意していたのでそこに魚や切った野菜を等を持っていく。

「お待たせしました。」

「早く焼こう!」

『ワンワン!』


 パパとお姉ちゃんはミウたちを見て笑っていた。

 でも楽しみなんだもん。カイとソラもきっとおんなじ気持ちだと思う。


「よーし、焼けたよ。ミウ、熱いから気を付けて食べるんだよ。」

 パパから受け取った魚に慎重にかぶり付くと、少し熱かったけどとれたて新鮮な魚はとても美味しかった。


「うーん、美味しいね!」

『クゥーン。』

 カイとソラもハフハフしながら魚を食べていた。


「やっぱり、たまには自然の中でする食事もいいものだな。昔は家で一人飯ばかりだったから、こっちに来てからは毎日が充実しているし。」

「私はいつも大勢で食事はしていましたけど、外で食べるなんてほとんどなかったです。こうしてみんなと外で食べるご飯も良いものですね。」

 だんだんと暗くなり、空には星が見え始めて自然と話に花が咲いていった。


 夕食も終わり、みんなでテントに入って久しぶりのキャンプにわくわくしてくる。

 みんなでトランプやオセロをしたり、カイとソラのブラッシングをしてあげる。


『キューン。』

 ふたりとも気持ち良さそうに目を閉じて、リラックスしている様子だった。


 ブラッシングを終えると、今日はふたりの間に潜り込んで眠ることにした。

 たまには良いよね。

 ふたりと一緒にいると、なんだか安心していられる。

「くーくー。」


「どうやら体力を使い果たしちゃったようだな。」

「今日のミウちゃん、とってもはしゃいでいて楽しそうでしたからね。」

 カイとソラに見守られるように寝ているミウを見て、笑みが溢れてくる二人。


「今日はいろいろありがとうなナディ。」

「いいえ、私も楽しかったです。こんな毎日がいつまでも続けばいいな。」

「続くさ。何があろうと俺が二人には手を出させない。」

 凌馬の宣言に頬を染めるナディ。


 今日は二人寄り添うように眠るのだった。

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