第五十五話
対峙する二人を流星旅団は距離をとって戦いの行方を見守っていた。
「では、死んで貰おうか!」
最初に動いたのはハルファス。
徒手空拳で、常人には見切れないほどの速さの攻撃で凌馬へと襲いかかる。
ガンガンガンガン!
凌馬は、剣を入れたままの鞘でその攻撃を受け流していた。
素手とはいえ、一撃一撃が必殺の威力を誇るその攻撃を眉ひとつ動かさずにいなしていく凌馬。
「はっ、速い! なんだあのスピードは?」
「だが、あの男も全部対処しているぞ。」
「ほう、よく耐えきれるものだ。では、もう少しだけスピードを上げていくぞ。どこまで耐えれるかな?」
ガガガガガガガン!
更にギアを上げたハルファスの攻撃を、それでも表情一つ変えずにすべてを受けきっていた凌馬。
「す、すげえ。」
「二人とも桁違いだ・・・。」
流星旅団の団員たちも、自分達の強さにはそれなりに自信があった。
それは、訓練や実際の戦闘で培っていた経験からくる紛れもないものであったのだ。
しかし、今目の前で見せられている戦闘はこれまでに経験も見たこともない領域のものであった。
それは、常人では決して辿り着けない聖域。
自分たちにできるのはただ見ているだけであった。
「ミウちゃんのお父さんすごい。」
「ガウウ。」
ユーフィーとイシュムも遠くから見てそう呟いていた。
「桁違いだな。今の内に撤退したいところだが、これでは下手に動けん。」
ブライアスは常識外の戦闘を目にしながらも、冷静に次の動きを模索していた。
それは、この戦いの行方がやはり凌馬に不利になっていると考えていたからだった。
確かに両者の戦いは一見拮抗しているように見えるが、片や攻撃で相手に反撃の隙を与えないヴァンパイア、片や防戦一方の人間。
このままいけば、一撃をもらうのが先か種族の差で体力が尽きるのは確実に凌馬の方であったのだ。
「どうしたどうした。防いでいるだけでは俺には勝てないぞ。先程までの大口はどうしたんだ?」
ハルファスは挑発にもなにも答えない凌馬。
「ふん、やはりその程度であったか。まあ、人間にしてはなかなか頑張った方だが、そろそろ飽きてきたし終わらせるとしよう!」
瞬間、ハルファスの動きが更に増し鋭い手刀が凌馬の心臓目掛けて突き出される。
皆がハルファスの手が凌馬の体を貫いた姿を見る。
「成る程、これが純血種のヴァンパイアの力か。変身前のヤマタノオロチに力もスピードも劣っているが、まあやつは例外的存在だからな。こんなものか・・・。」
体を貫かれたように見えた凌馬は、しかし、次の瞬間に蜃気楼のように姿を消しハルファスの後方に悠然と立っていた。
「なっ、なんだと。」
確実に殺したと思った相手が、自分の後ろに立っていた。
あり得ないことだった。あの攻撃を避けられるものなどこの世にはたったひとりしかいないと確信していたからだ。
だが、現実は違った。ハルファスの顔からは一筋の汗が流れ落ちる。
目の前の男は、もしかしたら自分より強いのではないのかとの考えが一瞬よぎるハルファス。
「いいや、あり得ん! 貴様何をした。小賢しい人間のトリックか!」
あり得ない。いや、あって良いわけがなかったのだ。
認めるわけにはいかなかった。
自分はヴァンパイア最強を謳う者。例え真祖のヴァンパイアが相手であっても、負けたことがなかった。
それが、自分が見下してきた最弱の存在である人間になんぞ手こずる事すら許されない。まして、敗れるなど。
「トリックもなにも普通に避けただけなんだけどな。まさか見えなかったのか?」
凌馬の挑発ともとれる発言(本当に見えなかったのか聞いただけだったのだが)。
額に血管を浮かび上がらせて怒りを顕にするハルファス。
「きっ、貴様~。まぐれで躱せたぐらいで良い気になるなよ。」
再び猛攻撃を開始する。
今度は受けることなく紙一重で見えるように躱していく凌馬。
「おのれ、ちょこまかと───。死ねぇ!」
今度こそ確実に当てるため、凌馬の足元を影を使って足止めする。
ガシッ!
凌馬はハルファスの手刀を軽々と掴むと、そのまま握力を強めていく。
ギシギシ!
「ぐわあああ! こ、この、放しやがれ!」
苦し紛れに凌馬を蹴るハルファス。
凌馬は軽々と影を振り払って、その攻撃を躱すと一旦距離をとる。
「おのれ~、人間風情がこの俺様をなめやが───。」
シュッ!!
ハルファスが気がついたときには、凌馬の剣が己の頬を斬りそこから血が流れていた後だった。
なにも見えなかった。凌馬が剣を抜いたことも、接近してきたことも、自分の頬を斬られたことも、何一つ見ることができなかった。
ハルファスはやっと気がついた。この人間は、自分よりも圧倒的な強者であると。
最初から最後までこの男は、全然本気を出していないことに。
そして、凌馬は今ハルファスを全く敵として認識していない事実を知る。この人間の目がハルファスを見てなお、無機物である石ころを見るようにどうでもよいもののような目を見たときに。
屈辱、ハルファスは生まれて初めてこんな屈辱を感じていた。
「お前たち、この男の足止めをしろ!」
ハルファスは顔を怒りに染めながらも、自分の
(奴らでは対して足止めもできんだろうが、俺が逃げる時間ぐらいは稼いでもらわんとな。)
ハルファスが
リミッターを外せば、一時的にその能力を飛躍的に上げることができる。ただし、代償として限界を過ぎるとその体は崩壊してしまうのだが。
ハルファスにとっては、人間なんぞもともと捨てゴマにすぎない。どうせ、あとで補充できるのだから。
形振り構わないハルファスの犠牲者の兵士たちを眺める凌馬。
「死してなお弄ばれる存在を見るのは不愉快だな。別にこいつらの事を知っているわけではないし、生前がどんな奴らだったのかも知るよしもないが。だからって、死後にまでこんなことをされて良い訳がない。」
凌馬は目の前の元兵士たちが哀れに思えてきた。
(このまま回復するまもなく消滅させることもできるが、それではこいつらも浮かばれないよな。)
(『
凌馬は久し振りに己のエクストラスキルを使用する。
・
「ダン◯ョーさんを生き返らせるには100ゴールド、◯ラサキさんは80ゴールド、メレ◯は・・・3ゴールド必要ですがどうするよ?」
「お金がない・・・。」
「お金もないの? 金も力もないのに魔王のとこ行ってきたの? バカなの? マジでバカなの?」
○
○能力値
力 1000
魔力 8000
素早さ 1500
生命力 2500
魔法抵抗 6000
(おいいいいい! ちょっ待てよ! KYか? KYなのか? 今、めっちゃシリアスな場面だろうが。なんだよ、最近使ってやらなかったから自棄になったのか? しょうがないだろうが、最近本当に必要がなかったんだから。神々の中でも最弱と言われるテレ○トさんでも流石にこれはまずい。)
後で小一時間ほど己のスキルと話し合おうと
「
ピカーーー!
「なんだこの光は?」
「足元だ。巨大な魔方陣だぞ。」
「全員待避!」
突如現れた魔方陣は直径50メートルを越える巨大なものであった。
流星旅団が避難を始めるなか、凌馬は魔法を発動する。
『ぐおおおおぉぉぉぉ──────。』
最初は苦しそうに悶えていた敵も、やがて優しい光に癒されるように消滅する頃にはどこか穏やかな表情を皆していた。
「ぐああああああああ!!」
純血種のハルファスは消滅こそ免れたが、凌馬の魔法によって焼けただれたような傷を負ってしまう。
「くそがぁ、一体何が・・・。」
魔法の発動が終わった時には、凌馬の前に立つ者はハルファスただ一人となっていた。
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