SS.2 クロスオーバー 愛娘×八眷伝

 これは、今よりも少し未来の話。

 凌馬一行がとある遺跡にやって来たときの物語。


 凌馬は、未探索の遺跡の調査をギルドより依頼されみんなを引き連れてこの場所へと来ていたのだった。


「これはまた随分と年代物の遺跡だな。」

 凌馬はボロボロに荒れ果てた場所を見て、そう感想を呟いていた。


「そうですね。いつ崩れてくるか分からないから気を付けなくちゃ。ミウちゃん、あんまり離れないようにね。」

 ナディはミウの方を見て、注意を促していた。


「うん、お姉ちゃん。あっ、あっちに何かあるよ。」

『ワン!』

 ミウがなにかを発見したらしく、そちらに向かうとカイとソラも一緒について行く。


「ミウちゃん、危ないわよ。」

「ミウ、あんまり勝手なことをしたら駄目だよ。」

「はーい、ごめんなさい。」

 ミウは凌馬とナディに謝りながらも、見つけた変な機械に夢中のようだった。


「どれどれ・・・。」

 凌馬がミウの元に向かおうとすると、突然機械が光り出す。

 ピカーーーー!


「ミウ!」

「ミウちゃん!」

 光が収まると、その場からミウとカイとソラの姿が消え去っていた。


「凌馬さん!」

「くっ、俺としたことが、油断した。早くミウを捜さないと! どうすれば良い? 何か方法が・・・。」


《落ち着け。お前が慌てていてどうする。何のためにその力があると思っているんだ。》

 その声を聞き、一度呼吸を落ち着かせる凌馬。


「ああ、分かっているさ。もう大丈夫だ。俺の力はミウやナディを守るためにあるんだからな。」

 凌馬はそう言うと、『無職からの脱出シーカー・アフター・ザ・トゥルース』を発動させていた。



─???─


「あれ、ここはどこ? パパー、お姉ちゃーん。いないのー? ぐすっ、ひっく───。」

 ミウは不安になり泣き出しそうになる。


『くーん、くーん。』

 カイとソラは、ミウを慰めるために顔を擦り付けながら鳴いていた。


「ぐすっ、ありがとうカイ、ソラ。」

 ミウはふたりに抱きつくと、しばらくそのまま時間だけが流れていた。


「よし! 私がしっかりしないとだね。ごめんねカイ、ソラ。」

『ワン!』

 尻尾を振りながらカイとソラはミウに答えていた。


「でも、ここはどこなんだろう? さっきの場所とは全然違うし。」

 ミウが辺りを見渡すと、そこには草原が広がっていて近くには湖がある場所であった。


 ミウは取り敢えず凌馬たちを捜すために、ソラに跨がると湖の方へと向かっていく。

 周囲の警戒はカイがいつも以上に厳重に行っていた。


 凌馬が居ない今、ミウを守るのは自分達の最優先事項であると考えてのことであった。

 段々と湖に近付いていくと、カイとソラは人の気配を感じ取っていた。


 情報収集のためには、多少危険を犯しても必要なこととそのまま進み続ける。

「あれ、どうしたの? ひとり?」


 ミウに話し掛けてくる声があった。それはミウよりも少しばかり年上の十一、二歳くらいの女の子であった。

「私の名前はミーナ。こっちの子はアル、ピピ、クーって言うの。宜しくね。」

 ミーナと名乗った少女は、犬、鳥、リスを順番に紹介していった。


「わ、わたしはミウ、この子たちはカイとソラって言うの。大人しくて良い子達なの。」

 ミウもミーナに自己紹介をしていく。


「ミウちゃんって言うんだね。うわー、おっきい子達だね。でもふたりともとってもかわいい。」

 ミーナはカイとソラを見ても不安な様子は見せずに、ふたりの頭を撫でていく。


『くーん!』

 カイとソラも嬉しそうに撫でられていった。ふたりが警戒を見せていないということは、ミーナという少女は悪い人ではないようであった。


「ミーナちゃんの子達もみんなかわいい子達だね。」

 ミウはソラから下りると、アルたちを順番に撫でていく。

「キューン!」「ピピ、ピピ。」「くるるる!」

 みんな気持ち良さそうに鳴いていた。


 そうして、あいさつも済んだところでミーナは改めて質問することにした。

「ミウちゃんは一人だけなの? お父さんやお母さんは?」


「パパとお姉ちゃんどこかに消えちゃった。今はカイとソラだけ・・・・・・。」

 ミウは質問に答えると、少し暗い表情をしていた。


「そうかぁ、一人じゃ危ないし取り敢えずお兄ちゃんのところに行ってどうするか聞いてみようかな。」

「お兄ちゃん?」

 ミーナの言葉にミウが聞き返してきたため、ミーナは簡単に自分達のことを説明していた。


 ミーナは今、兄と姉、獣人の三人のお姉さんたちと旅をしている途中なのだという。

 取り敢えず、その兄の元に向かうミウたち。


 湖の近くにテントが張ってあり、そこでは昼食の準備をしている人たちが見えてきた。

「ミーナ戻ってきたのね。もうすぐお昼になるわ、手を洗ってきなさい。あれ? お友達も一緒なの?」


 ミーナに話し掛けてきたのは、ミーナの姉のエリスという十五歳のお姉さんだった。

「うん、ミウちゃんって言うんだけど、パパとはぐれちゃったんだって。一人じゃ危ないから来てもらったんだ。」


 ミーナがそう説明をしていると、周囲から人が集まってくる。

「一体どうしたんだ?」

 そして、ミーナたちの兄でありリーダーでもある男が話し掛けてきた。


「じつは・・・。」

 エリスが事の次第を説明していた。

 すべての話を聞き終えた男は、ミウに話し掛けてきた。


「そうか、色々大変だったな。でも泣かないで頑張って偉いぞー。」

 リーダーの男、竜人と名乗った少年はミウの頭を優しく撫でてくる。


 それはいつも凌馬にされているような、力強くあるがとても優しい手付きであった。

「パパ・・・。ぐすっ。」

 ミウはつい、凌馬を思い出すと泣きそうになるのを耐えていた。


「あ、あれ、おかしいな。強すぎたかな。」

 ミウに泣かれそうになり、焦り出す竜人。

「もう兄さんたら・・・。ごめんねミウちゃん。安心してね、必ず私たちがお父さんを捜して見せるから。」


 エリスはミウを優しく抱き締めると、背中をさすりながら慰めていた。

『竜人様・・・。』

 獣人の三人、ラビア、リジィー、ティーナはジと目で竜人を見ていた。


「あはははは・・・・・・。そうだ、ご飯にしよう。お腹が空いていては良い考えも浮かばないしな。」

 なにやら誤魔化すように、竜人はそう言うとその場を離れていった。


「わー、今日はカレーなのお兄ちゃん!」

「ああ、そうだぞ。ミウちゃんも遠慮しないでたくさん食べて良いからな。」

 ミーナに聞かれた竜人がそう言うと、カレーを順番によそっていきミウの元にカレーが回ってくる。


「それじゃあみんな。」

 竜人がそう言うと皆席について手を合わせる。

 ミウも凌馬に教わっていた習慣のため一緒に手を合わせると、「いただきます。」と言っていた。


 それを聞いた竜人は、ミウに視線を向ける。

(まだ教えていないのに、確かに俺たちよりも先にいただきますと言っていた・・・。この世界にそんな習慣は無いはずなのに───。)


(それに、あの狼型の魔物、ギルドの情報でも見たことの無いタイプだ。いや、魔物というよりはアルたち幻獣種に存在的には近いか・・・・・・。潜在能力はかなり高いように感じられるし。)


 竜人は一人思考に没頭する。

「パパがいつも作ってくれるカレーに良く似てる。美味しい!」

「そう、良かったわ。ミウちゃんたくさん食べてね。」

 ミウとエリスがそんな会話をしていた。


「少し聞きたいんだけど、ミウちゃんのパパの名前って何て言うのかな?」

 竜人が、話に割り込むようにして聞いてくる。


「兄さん?」

 エリスは不思議そうに首をかしげて、ミウは少し考えてから答えた。

「パパの名前はリョーマって言うの。」


 それを聞いた竜人は、目を見開いて驚いていた。

(間違いない。俺と同じ日本人だ。いただきますやカレーを知っている異世界人なんて考えにくいし、発音がまさに日本人のそれだしな。)


 竜人はそれから、あれこれとミウに質問をしていく。

「ごめんなさいねミウちゃん。兄さん、いくらなんでも質問が多過ぎです。ミウちゃんが疲れちゃいますよ。」

 エリスが文句を言ってくる。


「ああ、ごめんごめん。ちょっと気になってな。それでなんだけど、ミウちゃんのお父さんな、たぶん俺と同じ日本人だ。」

 竜人の発言に、エリスたちは驚いた表情をしていた。


「まさか!」

「本当なのお兄ちゃん。」

 竜人に問い返してくるラビアとミーナ。


「あれ、どうしてお兄ちゃんパパのこと知っているの? 誰にも言わないように言われて秘密にしてたのに。」

 ミウが首をかしげて話した言葉に、確信した竜人。


(これはもしかして、元の世界に帰る方法がわかるかも。今はまだ帰るつもりはないが、方法を知っておくことは重要だからな。)

 竜人は拳を握りしめた。


「ミーナちゃん、チョコレート食べる?」

「チョコレート?」

 ミウがポーチから取り出した物を見て、竜人は吹き出していた。


「ミウちゃん、これをどこで?」

「パパから貰ったの。」

 周囲が引くくらいの竜人の行動にも、しっかり答えるミウ。


「兄さん落ち着いてください。ミウちゃんが怯えてしまいます。」

「いや、流石にこれは想定外でな。あれ、地球のお菓子だ。こんなところにあるはずの無いものなんだ。」


「うわー、甘くて美味しい。ありがとうミウちゃん。」

「ううん、お昼のお礼。みんなも食べる?」


『ありがとうございます、ミウ様。』

 ラビア、リジィー、ティーナはそう言ってミーナと同じ幸せを味わっていた。


 竜人は想像以上に期待できると思った。

 そんな時、空から突然の雷鳴があり周囲はただならぬ気配が支配していた。


「皆気を付けろ。警戒体制に入るんだ。ミーナはミウちゃんと一緒にアルたちと後ろにいるんだ。」

 竜人の指示で、戦闘体制をとる一同。


 すると、雷が落ちた場所から激しい光が輝いていた。

「ミーーーーーーーーウーーーーーーーーーーー!」

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド────────────────────────────!


 地響きを轟かせてこちらに向かってくる人物。

「パパー!」

 ミウは飛び出すと、そんな人物のもとに向かっていく。


『ミウちゃん!』

 竜人たちも慌てて後を追い始める。


「ミーーウーー!」

「パパー!」

 ガシ!

 ミウと凌馬は、お互いに抱き合うと涙を流していた。


「ミウ、心配したんだぞ。」

「ごめんなさいパパ。」

「いいんだ、俺が悪かったんだ。ごめんな一人にしてしまって。」

 なにやら壮大な登場とともに、目の前でそんなことをされて竜人たちはどうしたら良いのかと動きが止まっていた。


「あのね、ミーナちゃんやお兄ちゃん、お姉ちゃんたちに助けて貰ったの。」

 ミウの言葉を受けて、凌馬は竜人たちの方に視線を向けた。


「皆さん、この度は娘がお世話になりました。なんてお礼を言って良いか。」

「いや、俺たちは特になにも。」

 竜人が代表して受け答えしていた。


「そうだ、パパ。竜人お兄ちゃんパパの世界のこと知っていたよ。」

 ミウの言葉に凌馬が驚愕する。


「竜人、その響きは確かに日本人のようだ・・・。」

「そうです。俺は日本から来ました。凌馬さんもやはり・・・。」

 竜人の言葉に、事の真相を凌馬は告げることになる。


「正確には俺はこの世界に直接来たわけではないんだよ。」

 凌馬はここに来ることになった携帯型の機械を見せて説明する。


鑑定士招福、何でも鑑定士

 いや~、良い仕事をしてますね。やはり、本物が持つ気品溢れる・・・・・・。・・・etc.

 

鑑定一、十、百、千、万


「そうだったんですか。」

 凌馬は、謎の機械によってこの世界に転送されてきていて、それはこの世界と向こうの世界をつなぐ未知のオーパーツのようなものであったのだ。

 何とか強引に機械を発動させると、ミウの後を追跡しながらやって来たのだった。


 そして、地球にいた凌馬は一度死んでいることも告げ、地球に帰るつもりも無いことを。


「力になれなくて悪かったね。」

「いえ、もしかしたらと考えていただけですし、それに俺にはやらなくてはならないことがまだこの世界には有りますしね。」


 竜人の覚悟を聞いた凌馬。

(ほう、この少年なかなか・・・・・・。)


「それにしても凌馬さん、凄い速さでしたね。」

(この人、この底の見えない力、姉ちゃんに似ている。)

 竜人は、己の姉にすら匹敵する存在を初めて目にしていた。


「いやー、娘が心配でついね。驚かせて悪かったね。竜人君、本当にありがとう。俺では君の力には直接はなれないけれど、少しばかりお礼をさせて欲しい。」


 そうして、凌馬は竜人たちにそれぞれお礼の品を渡していくとミウを抱き上げて、カイとソラを近くに待機させると遺跡の機械と対となる携帯型の機械を発動させる。


「慌ただしくてすまないが、向こうに仲間を待たせているのでね。これで失礼させてもらうよ。竜人君、君ならばこれから先の苦難も必ず乗り越えていける。俺は、君を見てそう確信をした。この先どんな苦難があろうとも挫けるんじゃないぞ。」


「ありがとうございます凌馬さん。あの、いつか手合わせをお願いしても良いですか?」

「もちろんだ。必ずまたミウとともに君たちに会いに来るよ。その時にかならず!」

「ミーナちゃん、お兄ちゃん、お姉ちゃんたちありがとう。」

 凌馬はそう答え、ミウはみんなにお別れを告げていた。


「ミウちゃんまた会おうね。」

「ミウちゃん、もうパパとはぐれないようにね。」

「ワンワン!」「ピピ」「くるる」

『さようなら』

『ワンワン!』

 皆がそれぞれに別れを告げると、凌馬たちは光の中に消えていった。


「なんだか凄い人でしたね。」

「ああ、姉ちゃん以外にもあんな人がいるなんて、本当に世界は広いな。」

 竜人は光が消えたあとも、その場を見つめてそんなことを呟いていた。



─遺跡にて─


「ミウちゃん、良かった。無事だったのね。」

「お姉ちゃーん!」

 ミウはナディと抱き合って喜びあっていた。


 凌馬は向こうの世界の事をナディに説明する。

「そんなことが・・・。」

「ああ、俺の渡したものが役立てば良いが。」


《そういえば何を渡したんだ? あまり世界に干渉するのは良くないんだが。》

「彼には必要なものだよ。彼に待ち受けるこれからの苦難は俺の想像を絶するからな。」


《お前がそこまで言うなんて、余程のことなんだな?》

 凌馬は、未来視の力によって彼に待ち受ける苦難を見てしまった。


「ああ。」

 凌馬は真剣な表情をして、あの若者の未来を案じていた。


「だって信じられるか? あいつあの年でもうハーレムを築き上げつつあるんだぞ!」

《は?》


「実の姉に、血の繋がらない妹たち、ケモ耳属性にまだこれから先も出会う人たち・・・・・・。」

《なんじゃそりゃー、そんなもんべつに何でもないだろうが!》


「バカやろー、お前はなんにもわかってない。いいか、ハーレムはフラグ管理がピーキーなんだぞ。一歩間違えればその先は修羅すら逃げ出す煉獄と化す。無事に乗り越えられればよいが・・・。」

《もう好きにしろ──────。》

 色々と諦められた凌馬であった。



─異世界メーナス─


「それで兄さんは何を貰ったんですか?」

「ああ、そうだな。確認するか。」


 それは凌馬が真剣な表情をして、「大丈夫だ、俺は全て分かっている。これは君の力になるものだ。未来に負けるなよ!」と言って渡してくれたのだった。


 ガサガサ、ビリビリ!

 包みを破いて現れたものは、『姉萌え、妹萌え、ケモ耳萌え、など色んなバリエーションを取り揃えたイケナイ・・・・本たち』であった。


 ビキビキ!

 竜人の時間は凍りついてしまう。


「兄さん! なんですかこれはー!」

「いや、違くて、これは凌馬さんが勝手に・・・、て言うかあのオッサン何てものを渡してくれるんだ! 何が『全て分かっている』だ! なんも分かってねーよ!」

 竜人の絶叫がこだまする。


「兄さんの・・・・・・フケツ!」

 バシッ!

「なんで俺がー。」

 竜人はエリスによってひっぱたかれてしまう。


(くそっ、覚えていてくださいね。必ずこの借りは返してやる!)

 竜人は決意を新たにしたのだった。


 結局その本たちは、エリスの指示によってピピが跡形もなく炎で焼き払ったという──────。

 凌馬の気遣いは、わずか数分で消滅した。



─???─


「ふふふっ、随分と愉快な人もいたものじゃない。本来なら竜人に悪影響を与えた制裁をしなくちゃいけないんだけど、姉ものを入れていたことに免じて手加減してあげようかしら?」



─余談─


 ブルブル!

 

《どうした?》

「いや、何か命の危機を感じてな。何だったんだ? 一体・・・。」


 その日、凌馬は何かに当たったかのような如く、腹を下すとトイレの住人になってしまうのだった。

「おかしいな、回復魔法も薬も一切効かないなんて、何か呪われているのかな?」


《たぶんバチが当たったんだと思うけどな。》


 その真相を知るのは、ただ一人のみであった──────。

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