第33話

 ターニアは凌馬に、ナディ救出の際一緒に連れていくように頼み込んできた。

「良いのか? 俺の行動はこの国を滅ぼす事にもなるんだぞ。その場に一緒に行くということは、あんたもその責任を負うはめになりかねないが。」


「承知しております。ですが、貴方に全てを説明したのは私の責任です。この国が滅びるのならば、私は最後まで見届けて罪を背負わなくてはなりません。」

 ターニアが譲るつもりはないことは、その意志の表れた目を見れば理解できた。


「好きにしな。但し、俺はあんたを守るつもりはないからな。」

「それで構いません。それと、お願いなのですがナディさんを救出するのは明後日にして貰えませんか。」

 ターニアがそう言ってきた。


「何故だ?」

「教会には一般の方や儀式の事を知らない人が大勢おります。ですが、明後日の儀式を行う日には、教会は人払いがなされ中に居るのは事情を知る者だけになります。」

 凌馬の問いにそう答えたターニア。


(そうだな、いちいち選別せずとも全力でやれるのならばそっちの方が気が楽か。万一のために、備えだけはしておくか。)

「儀式が早まることはないんだな?」

 凌馬がターニアに確認を取る。


「それはないでしょう。儀式を行う日は教会にとって特別な日ということで人払いが行われます。その日をずらしたりすることはまずあり得ません。念のため、私の仲間にも見張りを立てさせておきます。動きがあれば直ぐに凌馬さんへ連絡できるように。」

 ターニアの言葉に一応頷いた凌馬。


(こちらでも偵察の魔道具を使用するか。絶対何てものはこの世にはないからな。)

 凌馬自身も予防線を張ることで、ナディ救出は明後日の昼に行われることになった。


 そうして、凌馬は宿の自分の部屋へと帰って来た。

「パパ!」

 そう言って飛び付いてきたミウ。

「ミウ、起きていたのか。」

 ミウを抱き締めて、頭を撫でていく凌馬。


「あの後、ミウ様が起きられまして、凌馬様の事をご心配しておりましたのでバーに向かいましたが、出掛けられたとの言付けがありましたので、部屋でずっと待っておりました。」

 ムラサキが事情を説明する。


「そうか、心配をかけてしまったみたいだな。ごめんなミウ。」

「ううん、もういいの。」

 ミウが凌馬を許してくれたので、ほっと胸を撫で下ろすと凌馬はミウに話さなくてはいけないことを説明する。


「ミウ。ミウはナディお姉ちゃんが好きか?」

「うん。ナディお姉ちゃん優しいから好き!」

 ミウは笑顔でそう答えた。


「ナディお姉ちゃんな。この皇都に来た目的は、この国を救うためなんだ。そのために自分の命を捧げようとしている。」

「ナディお姉ちゃん死んじゃうの?」

 ミウは、涙を目にためてそう問い掛けてくる。


「そんな事はパパがさせない。必ず、ナディを救ってみせる。ただ、そのせいでこの国が滅びてパパはこの国、いやこの世界の敵になってしまうかもしれない。ミウにも辛い目に会わせてしまうかも。それでも、パパはナディお姉ちゃんを助けたいんだ。」

 凌馬はミウの目を見て真剣に話す。


 ミウはそんな凌馬に笑いかけてきた。

「パパ、たとえ皆が嫌っても私はパパの味方だよ。ナディお姉ちゃんのためなら、私も嫌われても構わない。」


「ありがとうな、ミウ。」

 凌馬は、ミウを強く抱き締めた。

『ワンワン!』

 カイとソラも一緒だと訴えかけてくる。


「そうだな。ふたりも一緒だな。」

 カイとソラも抱き締める凌馬とミウ。

「私もご一緒させていただきます。」

「ありがとう、ムラサキ。」

 こうして、凌馬たちの目的は決まった。


 そして二日後、凌馬たちは教会の周囲に集まっていた。

「さてと、それじゃあそろそろ行くかな。」

「凌馬さん、なるべく兵士たちも傷付けないようにしていただけたらと。」

 ターニアが凌馬に話し掛けてきた。


「俺としても、悪戯に被害を出したい訳じゃないけどな。ただし、ミウや俺の仲間を傷付けようとしたときは容赦はできない。」

 凌馬はきっぱりと断言をする。


 凌馬は、今回のナディ救出作戦にミウを連れてきていた。

 ミウに、ナディを一緒に助けに行きたいとお願いされ、凌馬もミウの協力があった方が説得できる可能性が高いと判断したからだった。


(この作戦の要はミウにかかっている。何の打算もないミウの言葉なら、ナディにも届くかもしれない。まあ、最終手段は成るべく取りたくないからな。)

 凌馬はそう考えながら、鍵の掛かった教会の扉を蹴破った。


「なんだお前たちは? ここが何処か知っての狼藉か!」

 教会内部には、兵士たちで防御が固められていた。

「ちょいとばかし、やり残した仕事を片付けにきただけだ。邪魔をしなければ、危害は加えない。大人しく引き下がっていてくれないか?」


 凌馬が兵士たちにそう告げたが、一斉に剣を抜き放つと凌馬たちに向けてきた。

「はぁ、まあ無理だよな。仕方ない、それなら少しばかり眠っていて貰うか。」


 凌馬は一人で前に出ると、兵士たちの前で足を止める。

「なめるな!」

 バキン!

 兵士が斬りかかってきたが、凌馬は剣を素手で受け止めるとそのまま破壊する。


「なっ!」

 ドゴン! ズルズル、バタン!

 兵士はそのまま腹に拳を喰らうと、床へと倒れ伏してしまう。

「さて、他にこいつのようになりたいやつは居るか?」


 凌馬の言葉に後退る兵士たち。

 しかし、一人としてその場から逃げ出す者は居なかった。

(この勇気を、魔物を倒すために使ってもらいたいものだがな。まあ、下っ端に言っても仕方ないか。)


 凌馬は、素早く残りの兵士たちを眠らせることにした。

「それじゃ、ナディの所へと向かうか。ターニア案内を頼む。ミウはカイとソラから離れないようにな。ムラサキは最後尾を頼む。」


 凌馬たち一行は、儀式が行われる地下へと向かって進み出した。

 途中、警備の兵士たちが何ヵ所にも配置されていたが凌馬によって意識を刈り取られて行った。

 そして、封印の間に繋がる地下への階段までたどり着いた。


 凌馬を先頭に階段を降りていくと、やがてそこに大きな扉が姿を現していた。

 そして、凌馬の目には扉の前に数十名の兵士たちが待ち構えている姿が写っていた。


 その中央には聖騎士ギルがおり、どうやらここの指揮を取っているのは彼のようであった。


「如月凌馬、これはどういうことだ。いくらランクS冒険者といえど、教会に敵対行動をしてどうなるかわかっているのか。しかも、ターニア元司教までこれは明確な反逆行為ですぞ。」

 ギルがそう怒鳴ってきた。


「お前は当然、中で何が行われているのか知っているってことで良いんだよな?」

 凌馬は、聖剣を抜き放つとギルにそう問いただした。


 凌馬と最初に会ったときよりも、さらに威圧感が増した事に対して圧倒されていたギルだったがなんとか言葉を出す。

「当たり前だ、俺は聖騎士なのだからな。国を守るためには代償が必要なら、犠牲を払ってでもそうするのが騎士としての務めだ。」


 ギルは剣を抜くと、周囲の兵たちも一斉に剣を抜き凌馬たちへと向けていた。

「なるほど、ならばこの場で死ぬことも当然受け入れているのだよな? 言っておくが、以前とは違い今回は手加減はしないから、死んでも文句は言うなよ? お前たちも、自分の命位は犠牲にする覚悟くらいはあるのだろうしな。」


 ゴウ────!

 瞬間、凌馬の体から黄金色のオーラが放出される。

 そのあまりの圧倒的な力を前に、兵士たちは呆然と見ていることしか出来なかった。


「貴様は正気なのか? 本当にこの国を滅ぼすつもりなのか。いや、この国だけじゃない。封印されている魔物が伝承通りならば、周辺の国にすらどんな被害が及ぶのか分からんのだぞ! 世界中を敵に回すというのか?」

 ギルは、凌馬のオーラに気圧されながらもなんとかその言葉を絞り出した。


「ナディを救うことでそうなってしまうのなら、それはしょうがない。全てを受け入れる。たとえ反逆とされようともな。」

 凌馬はそう答えた。


「この自己中野郎が。それで、無垢の国民の命を危険に晒すというのか。」

 ギルは激昂してそう問いただす。


「そうだ。お前たちがナディを仕方のない犠牲者として扱ったようにな。今さらどんな言葉で説得しようが無駄だぞ。俺はもう選んだのだからな。もし、お前たち教会が自分達の命を犠牲に払ってでも魔物と戦うというのならば、協力することも出来るんだがな?」


 凌馬だって、好き好んでこの国を滅ぼしたい訳ではなかった。

 だが、相手の力も分からないままでは軽々しく討伐してみせるなど口にはできなかった。

 だが、魔物の封印が破れこの街は滅ぼされるにしても、最低限皇都の人たちが避難する時間は稼ごうと考えていた。


「そんな一か八かの賭け事のようなことが出来るか!」

 ギルは凌馬へと攻撃を仕掛けてきた。

「遅い!」

 ガキン! ドン!

 凌馬は、ギルの剣を聖剣でへし折ると蹴りを放ち壁まで吹き飛ばした。

 蹴りを受けた鎧は砕け、壁にめり込んだギルは激痛に意識を手放していた。


「ギル隊長! くそ、お前たち一斉に掛かるぞ。」

 兵士たちは凌馬を取り囲むと、一斉に飛びかかってきた。

「はぁーーーーー!」

 凌馬は魔力の衝撃波を放出すると、兵士たちは凌馬を中心にして放射線状に吹き飛ばされ意識を刈り取られていた。


「殺しはしないさ。そんな事をしてもナディを哀しませるだけだからな・・・・・・。」

 凌馬は倒れた兵士たちを一瞥してそう呟くと、既に興味は無いというように封印の間の扉の前へと向かう。


 ターニアたちは、その非常識な戦いに言葉が出ずにただ目を奪われていただけだった。

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