第24話
凌馬によって、ロージアンの街に迫っていたデスパレードは壊滅した。
凌馬は街の門のところまで戻ってきていた。
ゴゴゴゴゴ!
凌馬が辿り着くと、門が自動的に開いていく。
そして、門からはギルド長を始め冒険者たちが大挙して凌馬のところへと集まっていった。
「凌馬殿、貴方は一体何者なのですか? これほどの魔物の群れを一人で倒すなど、常人には出来ますまい。」
ギルド長が代表してみんなの疑問を問いかけてきた。
「いや、何者と言われましても、如月凌馬、二十六歳、冒険者ランクCですが?」
(・・・・・・いやいやいやいやいや。そんなランクC冒険者が居てたまるか!)
みんなの心が一つになった。
結局、それ以上のことを語らなかった凌馬に、しかし、みんなが感謝をしていたのも事実だった。
皆口々に「ありがとう。」「今度酒をおごらせてくれ」「私たちとパーティを組みませんか」等と声をかけられていた。
ギルド長は、そんな凌馬を気遣い無理に誘うことはギルド本部として何らかのペナルティを科すと告げたことで、一応の落ち着きを取り戻していた。
「凌馬殿。この度は、この街を救っていただきありがとうございます。冒険者ギルドとして、必ずや凌馬殿の働きに対してはしかるべき報酬をご用意することをお約束いたします。」
ギルド長の言葉に、「自分のためにやったことですから。」と答えたが、後程報酬の件について報せを寄越すことを約束され、孤児院の場所を伝えておいた。
「パパ~!」
そんな凌馬の元に、一番大切な存在が飛び付いてきた。
「おお~、ミウ。どうしたんだこんなところまで。危ないから孤児院にいるように言っておいただろ。」
そう言っていたが、表情は崩れており誰が見ても喜んでいるのは一目瞭然であった。
「ごめんなさい。でも、パパが心配だって言ったらみんなが行こうって。」
そんなミウの言う通り、後ろからは孤児院のみんなもやって来ていた。
『凌馬さん!』
『師匠!』
『お兄ちゃん!』
みんなにも飛び付かれて、流石にバランスを崩してしまった凌馬。
みんなの目には涙の後があり、大分心配を掛けてしまったようだと反省をすることになった。
「パパごめんね、ミウのわがままで。」
「なに言ってるんだ。ミウが謝ることは全然無いんだよ。それにミウのパパは最強だからな。この程度の事なんて分けないよ。」
凌馬はミウの頭を撫でていく。
「凌馬さん、本当に一人で倒してしまったんですね。凌馬さんならもしかしてとも思いましたが、やっぱりそれでも心配でした。」
ローレットまで泣きついてきて、困り果ててしまった凌馬。
しばらくは、みんなの好きにさせようと諦めた凌馬は、しばらくみんなをあやしていくのに四苦八苦していた。
そんな様子を、先程の戦いからは想像も出来なかった冒険者たちもほほえましく眺めていたのだった。
その日は、街を上げてお祭り騒ぎだった。みな、自分の街が救われ、生きていることへの喜びを精一杯味わうように叫んでいた。
凌馬は、街を救った救世主として街中から歓待を受けていた。
もちろん、ミウを始めとした孤児院の人たちも凌馬の家族として扱われ、盛大にもてなされていた。
そんな凌馬のところへ、ギルド長がやって来た。
「凌馬殿、どうですかな。楽しんでいただけてますか。」
「ええ、みんなからもてなしを受け過ぎて、なんか逆に申し訳なくなってきます。」
凌馬はギルド長に答えた。
「凌馬殿は、この街の人間を全て救ってくださった。凌馬殿が気になさることはありませんよ。」
ギルド長の言葉に「はあ。」と答えた凌馬は、やがて気になっていたことを尋ねることにする。
「ところで、この街を棄てて逃げた領主はどのような処分が下されるのですか?」
ギルド長は、凌馬の言葉に難しい表情をしたがやがて答え始める。
「領主の取った行動は、端からは街を棄てた行動です。ですが、救援を呼ぶという大義名分があるので、どうなるかは不透明です。しかも、街の方も凌馬殿のお陰とは言え救われた形になりましたので。」
ギルド長の言葉に納得のいかない凌馬。
明らかに自分の責任から逃げた奴が、再び戻ってきてのほほんと過ごすなど到底納得のいくものではなかった。
「ギルド長、ちょっといいですか。」
そう言うと凌馬は何やら手紙を書き始めた。やがて、書き終わったそれをギルド長に手渡す。
「これは?」
「それをこの国の第一王女メリーナに渡してください。内容は全て手紙に書いてありますので。」
「凌馬殿はメリーナ様をご存じなのですか?」
ギルド長は驚きを隠せなかった。
「まあ、とある件で知り合いまして。その手紙を渡すときに言付けを頼みたいのです『そっちで裁けないのならば、こちらで処理をする』そう伝えてください。」
ゴクリ!
ギルド長には、何のことか直ぐにわかった。
「本当によろしいのですか? 相手は曲がりなりにも貴族ですぞ。」
「構いません。王族にしても貴族にしても、贅沢な暮らしが許されるのはいざというときに命を張って民草を守ることで許されていること。その責任を放棄して、甘い汁を吸おうなどと虫が良すぎる。代償を払いたくないのなら、こちらで強制的に払わせるまで。」
凌馬の言葉に本気を感じ取ったギルド長は、それ以上はなにも言ってこなかった。
「承知しました。必ずやメリーナ様に届けます。」
そう言うとギルド長は、席を後にした。
その後、しばらくはお祭り騒ぎに参加していた一同だったが、子供たちも疲れて睡魔に襲われていたので、小さい子を抱き抱えると孤児院に帰っていった。
凌馬の活躍は、次の日には街中に知れ渡ることとなり、孤児院の銭湯もその影響で大勢のお客で賑わうこととなった。
街の人たちの間では、この孤児院は絶対不可侵の存在として協定が結ばれていた。
最も、当の本人たちは知らないことだったが。
数日の後、ギルドに呼び出された凌馬。
「凌馬殿、ご足労ありがとうございます。お待たせして申し訳ありませんでした。凌馬殿のギルドランクについて、本部とも話し合いが終わりまして、今回の功績によりランクをSとすることが決定しました。」
興奮するギルド長に凌馬が「はあ。」と気の無い返事を返す。「えっ? 凌馬殿、Sランクですぞ。世界でも二十人も居ないとされる最高ランクの・・・。」
凌馬とギルド長の視線が合わさる。
二人の温度差がありすぎて、ギルド長室の空気が凍りついてしまう。
「おほん、ま、まあいいでしょう。それではこちらをお受け取りください。」
凌馬は、ギルド長からSランクのギルドカード(ゴールド)と報奨としてヒヒロイカネ十枚(三十億から四十億円くらい)を手渡される。
「あっどうも。」
反応薄っ! ギルド長は肩をガックリと落としたが(結構頑張ったんだけどな・・・。)、気を取り直すことにした。
「それと領主の件ですが・・・。」
凌馬の視線が鋭くなり、ギルド長を見ていた。
「メリーナ様の強い働きにより、領主は反逆者として捕らえられ処刑されました。家族たちも、身分を落とされ寺院に幽閉されるという扱いになりました。当初から、処罰の厳しさに貴族たちの反発もありましたが、頑として譲らなかったそうです。」
凌馬の手紙を見たメリーナは、凌馬の怒りが本物であると理解し、直ぐに手を打っていた。
メリーナは、飢饉の際に食料を優先して無料や格安で有力者たちにも配り権力への足掛かりにもしていた。
そのため、周りから今回の件に強く出られないという状況を作り出していた。
最もその事がなくても、凌馬への恩から譲る気はなかったが。
そうして、最後の憂いも解消出来た凌馬はついにこの街を離れる決意をしたのだった。
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