第23話
凌馬は門の前までやって来ていた。
「通してもらうぞ。」
凌馬はそう言うと、門番が慌てて止めに来る。
「外はもう魔物たちが押し寄せて来ているんだぞ。死ぬ気か?」
凌馬は門番を見て答えた。
「いや、ちょっと殲滅してくるだけだ。」
なんてこと無いように告げると、門番は開いた口が塞がらない様子だった。
「あんたは領主たちと一緒に逃げなかったのか?」
凌馬は門を潜る前にそう聞いていた。
「えっ? ああ、この街は俺の故郷だからな。それに、母はもう高齢で逃げることも儘ならないしな。見棄てて逃げるくらいなら、この街と共に死んだほうがましだ。」
門番はそう答えた。
「あんたもバカなんだな。」
凌馬の言葉に「違いねえ。」と笑って答えた門番。
「俺が通ったら直ぐに門を閉ざせ。うち漏らしがきたら処理を頼む。」
「一人で行くのか? なら俺も・・・。」
門番がそう言ってくるのを止めると、凌馬は告げた。
「別に死にに行くわけじゃない。それに、巻き込んで仕舞うかもしれないからここで待っていてくれ。もし後から冒険者たちが来ても、ここは絶対に通すなよ。俺も今回は加減ができないからな。」
そう言って聖剣を抜き放つ凌馬。
その剣の圧倒的な存在感に、唾を飲み込んだ門番は頷くと直ぐに門を閉ざして、壁の上から凌馬の様子を見ていた。
やがて、地平線からは土煙が見えてきた。
その頃になり、冒険者たちも門の周辺の壁へと登りその様子を眺めていた。
皆その圧倒的な数に、ただ見ていることしか出来なかった。
そして、魔物たちは凌馬の目前二百メートルくらいの場所で一斉に停止した。
あり得ない。誰もがそう感じていた。
こんなに統率の執れた行動など、普通はあるはずがなかった。
しかし、目の前の現実を否定することは誰にもできない。
ここに来て、これがただのデスパレード何かではないとみんなが感じ始めていた。
「うわー、こうして見ると圧巻だな。しかし、本当に統率が取れてやがるな。裏になにかあるのがまるわかりじゃねーか。つまり、一人として生きて逃がさないと言いたいわけか。おもしれー、その傲慢な考えを変えさせてやるとするか!」
冒険者たちの視点からは、一万の魔物に対してたった一人の人間。
もはや、無謀という言葉ですら生易しいものに感じていた。
それでも、凌馬は聖剣を構えると横凪ぎに払う。
ズズズズズーーーーーーーン!
凌馬と魔物たちの中間の場所に、地面に亀裂が入っていき一直線の横線が引かれていた。
あまりの光景に、冒険者たちは目を丸くしてその様子を見ていた。
「聞けー! そこがお前たちにとっての黄泉への入り口だ。そこを一歩でも越したものは容赦なく殺す。命が惜しければ今のうちに退くことだ。言っておくが、脅しではない。線を越えたならもう俺は止まれないぞ。」
凌馬は魔物たちに向かって宣言した。普通であればこんなことに意味はない。
魔物たちに人間の言葉など通じないのだから。
凌馬は、背後にいる者に対して宣言していたのだった。
だが、そんな言葉も虚しく魔物たちは進軍を開始する。
「無駄か。まあ分かっていたけどな。」
魔物たちはついに、凌馬の引いたラインを一歩踏み越えた。
スキル『
次の瞬間、魔物たちの足元の地面が崩れ落ち深い穴が姿を現した。
ゴゴゴゴゴゴゴーーーーー!
魔物たちは次々に穴に落ちてはその姿を消していった。
しかし、流石に数が多すぎて次第に穴の底も段々と魔物たちの体によって埋められつつあった。
しかし、凌馬の追撃は止まらない。
スキル
『
落とし穴の底から灼熱の炎が吹き出し、炎の壁となって魔物たちを次々に焼き尽くしていく。
冒険者たちは、目の前で起こっている現実を認識できずにいた。
「なんなんだこれは?」
「一体何が起こっているんだ?」
「さて、奇襲はここまでかな。残りは三千ほどか。まあなんとかなるか。」
凌馬は一度街の方を振り返り、冒険者を見つめる。
後ろは任せたぞ。そんな声が聞こえてきた気がした冒険者たちは、皆雄叫びをあげていた。
「ここは俺たちに任せろ!」
「おらー、来るなら来いやー!」
冒険者たちの士気は上がっていく。
スキル『
凌馬は自身が全能感に支配されていくのがわかった。
(すごいな。今ならどんな相手にも負ける気がしない。)
凌馬は魔物の群れに突っ込んでいった。
「おりゃー!」
聖剣を振ると光の刃が飛び出していき、射線上にいる魔物を消滅させていく。
そのまま走り込み魔物たちを次々と斬り裂いていく。
「ふぅ~。まったく、この程度で俺たちの大切な場所を荒らそうとするとはたいした度胸だな。」
聖剣を肩に担ぎ、魔物たちのど真ん中に立つ凌馬。
「グルアアアアアアーーーー!」
「ギャオオオオオオオーーーーー!」
凌馬の前に四匹のドラゴンが姿を現した。
「ドラゴンか? 一つ確認するが、お前たちの中に子どもを誘拐されたものは居るか? もしくは、心当たりがあるやつを知っているか?」
凌馬はドラゴンたちに話し掛ける。
「ガアアアアアアーーーー!」
しかし、返事はドラゴンたちの一斉攻撃だった。
「まあそうだろうな。お前たちとミウとでは品格が全然違うからな。これで心置きなく殺せるぜ!」
凌馬は一匹のドラゴンに飛び掛かると、頭から真っ二つに斬り裂く。
ドオオオオン!
倒れ伏したドラゴンの上に乗っていた凌馬は、残りのドラゴンの方を向くと不吉な嗤いを浮かべていた。
思わず後ずさりをするドラゴンたち。
「まさか、今さら許して貰えるなんて思っていないよな? 俺は言ったぞ。あの線はお前たちの黄泉への入り口だと。」
『ガアアアー!』
ドラゴンたちは凌馬に狙いを定めると、ドラゴンブレスを味方の魔物たちもろとも巻き添えにして放つ。
「
ゴオオオオーーーーー!
凌馬の周りに透明の盾が現れると、ドラゴンブレスをねじ曲げるように周囲に拡散していく。
『グギャアアア。』
周りの魔物たちは、ブレスの余波から逃れるようにして逃げ惑うが多くはその犠牲となってしまう。
「どうした、まさかこれで終わりか?」
凌馬は砂煙の中から現れると、先程と変わらない姿勢でドラゴンたちに告げる。
睨み合っていた凌馬とドラゴン。しかし、次の瞬間には凌馬の身体は消えており見失ったドラゴンたちは慌てるようにして周囲を探す。
ドーーーーーン!
今しがた自分の隣にいた仲間のドラゴンが、頭部を失うと血を噴出しながら地面へと倒れ付した。
『グアアアアーーー!』
怒りと戸惑いの咆哮を上げる二匹のドラゴンたちは、しかし程なくして仲間と同じ道を歩むのであった。
そして、そこからは一方的な蹂躙だった。凌馬の動きは遠くからでも察知できず、まるで稲妻のように縦横無尽に高速で討伐していく。
「すげえ。同じ人間とは思えない・・・。」
「あ、ああ。まるで伝説に現れる勇者のようだ。」
誰しもが、凌馬の戦いに魅了されていった。
「お前たち、凌馬殿の努力を無駄にするでないぞ! 一匹としてこの壁を越えさせてはならん!」
ギルド長は皆に発破をかけると雄叫びをあげ、うち漏らしてこちらにやって来る魔物たちを討伐していく。
「なんだこれは? 聞いてないぞ! 楽に経験値が稼げるっていうから来たのに、俺のモンスターたちが全滅状態じゃないか!」
その戦いを遠くから見ていた男は、そう言って不満を表していた。
ドガーーーーン!
凌馬が聖剣より放った雷の魔法により、残りの周囲の魔物たちはほとんどが死んだ。
「はぁー、やっと片付いたな。あとは・・・。」
スキル『
「なるほど、そこに居たのか。こそこそしやがって!」
凌馬はとある方向に走り出すと、あっという間に隠れるようにして魔物たちの影にいた男に剣を振り下ろす。
「ひぃー!」
ガキーン!
「何!」
凌馬はまさか自分の聖剣を受け止められるとは思わなかったのか、驚きの声を溢していた。
「いやはや、まさかこんな結果になるとはね。悪いんだけど、この男にはまだまだ利用価値があるんでね。こんなところで殺らせる訳にはいかないな。」
いくら手加減したとはいえ、凌馬の剣を易々と受け止めた漆黒のローブを纏った人物に警戒を強める凌馬。
「お前は誰だ? なぜこんなことをする?」
「僕はそうだな、クロとでも呼んでくれ。君は如月凌馬だな。今回は僕たちの負けのようだ。おとなしく引き下がるよ。」
凌馬の問いに、クロと名乗った男はそう答えた。
「ふざけるなよ。こんなことをしておいて、逃がすとでも思っているのか?」
凌馬は圧力を強めていく。
しかし、クロは涼しい声で答えた。
「止めておいた方がいい。君にも分かっているのだろう? ここで全力で戦えば君が勝てるかもしれないが、間違いなく周囲には甚大な被害が出るよ。せっかく守った街を廃墟にでもする気かい?」
凌馬はクロの言葉に、しばらく睨み合うがやがて剣を引く。
「懸命な判断だ。さて、君ももういくよ。」
クロは魔物たちを操っていた男を掴むと、この場を後にしようとする。
「待て、こんなの聞いてないぞ。俺のモンスターたちをどうしてくれるんだ。お前が言ったから俺は────。」
ドン!
男はクロの一撃で崩れ落ちる。
「やれやれ、これだから無能なやつは困る。」
「お前・・・。」
仮にも仲間と思わしき人を、ゴミのように扱うこのクロに嫌悪感を持った凌馬。
「それでは、如月凌馬。また会おう。」
そう言うと、クロは転移魔法を使ったのかその場から消え去っていった。
「クロ・・・、お前は俺が──────。」
こうして、ロージアンの街は奇跡的に救われることとなった。
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