第15話

 凌馬たちはその後二日をかけて、目的地のノリッチの街に辿り着いた。

「凌馬殿。今回は本当にありがとうございました。」

「俺たちからもお礼を言わせてください。凌馬さん、貴方がいなかったら俺たちのパーティーもどうなっていたことか。もしなにか出来ることがありましたら、遠慮なく俺たちに言ってください。」


 ジャレンスと五人の冒険者パーティーは、凌馬にお礼を言ってきた。

「気にしないで下さい。偶々、通り掛かっただけですから。それよりも、これからは気を付けてくださいね。」

 凌馬の忠告に頷くと、凌馬たちは冒険者ギルドへと向かった。


 ジャレンスの説明により、凌馬がオーガイ盗賊団を壊滅させたと知った冒険者ギルドは、ギルド長たち幹部の会議により特別にCランクからのスタートとなった。


 盗賊たちは冒険者ギルドに引き渡したが、ほぼ全ての盗賊たちが精神を病んでおりいったい何があったのかギルド長や幹部たちに尋ねられた凌馬。


 凌馬は笑顔で一言「教育」と答えて、多くを語らなかった。困ったギルドは人質になった人たちにも聞いたのだが、言葉を濁すだけで引き攣った表情をして遠い目をしていた。


 それを見て、この件はこれ以上触れない方がいいと悟ったギルドは追及を諦めることにした。

 結果、凌馬は討伐報酬としてかなりの金額を得ることができた。

 そして、オーガイ盗賊団壊滅の報せは街中を駆け巡り、商人を始め街の人たちも一様に明るい雰囲気になっていた。


「凌馬殿。本日は私の家に泊まっていってください。精一杯おもてなしをさせていただきます。」

「それではお言葉に甘えさせていただきます。」

 冒険者ギルドで、チェルシアやローレットと別れた凌馬はミウを連れてジャレンスの商会へと向かった。


 ジャレンスの家に着いた凌馬は、ジャレンスの奥さんに感謝され歓待を受けることになった。

 夕食までの時間、お風呂を借りることにした凌馬とミウは、一緒に一風呂浴びることにした。


「パパ、お風呂ってなに?」

「体を洗ったり、お湯に浸かって体を暖めたりするんだよ。お風呂に入るとスッキリして気持ちいいからミウもきっと気に入るよ。」

 凌馬は、脱衣所でミウの服を脱ぐのを手伝うと、自分も服を脱いで浴室へと入っていく。


「さあミウ、ここに座ってごらん。パパが体を洗って上げるよ。」

「うん!」

 浴室に用意された椅子にミウが座ると、体にお湯をかけていく凌馬。


 ボディソープとシャンプーは、以前取り出しておいたものを使いミウの体を洗っていく。

「ミウ、髪も洗うから目を閉じておくんだぞ。」

 ミウがぎゅっと目を閉じているのを確認して、髪を洗った後お湯を頭からかけていく。


 ぷるぷるぷるぷる!

 お湯を払うように頭を振るミウの顔と髪をタオルで拭いてやると、ミウが凌馬に話し掛ける。


「パパの体はミウが洗って上げる!」

「おお、そうか! じゃあお願いしようかな?」

 ミウは、ボディソープを泡立てると凌馬の背中を洗っていく。


「ありがとうミウ、気持ちいいよ。」

 ミウに体を洗われた凌馬は、頭を洗うとミウと一緒に湯船に浸かる。

「ミウ、お風呂は体を温めるために百数えるんだよ。」


 そう説明をして、ミウを太腿のところに座らせると一緒に百数えることにする。

『いーち、にーい、さーん───────。』


『きゅうじゅうはーち、きゅうじゅうきゅう、ひゃーく!』

 百数え終わった凌馬とミウは、湯船からでると掛け湯をして脱衣で体を拭く。

 ドライヤー等無いので、湯冷めしないように入念にミウの髪を拭いていく凌馬。


 体も拭き終わり、服を着ると髪を櫛でとかして整えていく。

 お風呂から上がった二人を、ジャレンスの奥さんが呼びに来てくれていた。


「さあ、凌馬さんにミウちゃん。夕食の用意ができましたので、ダイニングの方にいらしてください。」

「ありがとうございます。」

「ありがとう!」

 凌馬とミウの言葉を聞き、笑顔を返してくれていた。


「凌馬殿、ミウちゃん、うちのお風呂はどうでしたかな?」

「ええ、とても気持ちよかったです。お風呂に入るのは久しぶりでしたので、堪能させていただきました。」

「さっぱりできて気持ち良かった!」

 ミウもお風呂を気に入ったようだった。


「それは良かった。さあ、冷めないうちに夕食をどうぞ。」

 凌馬とミウはテーブルに着くと、夕食をいただくことにする。

 料理は、家庭的なものでなんだか懐かしく感じるメニューだった。


「ジャレンスさんは、料理上手の奥さんがいて羨ましいですね。」

 凌馬の言葉に、頭をかき照れるジャレンスと「まあ、お上手ですね。」と奥さんが笑っていた。


 食事をしながら、ジャレンスの家族について尋ねると、両親は今旅行に行っているらしく、子どもは二人いるが息子は跡継ぎの修行で他の街で暮らしており、娘は去年結婚して嫁いでいったらしく、今は二人で暮らしているとのことだった。


「ミウちゃんを見ていると、娘の子供の頃を思い出すわ!」

 奥さんは、嬉しそうにミウの世話をしてくれていた。

 その様子をジャレンスと凌馬は微笑ましく見守っていた。


(ミウも母親と離れている寂しさを、少しは紛れてくれればいいが───。)

 凌馬はミウを見つめながらそう思っていた。


 そして、就寝時間。久しぶりのふかふかベッドで、ミウと一緒に寝ることができた凌馬は、翌朝気分爽快にジャレンスの商店を訪れていた。


「いやー、凌馬殿。昨日頂いたシャンプーとボディソープというものは本当に凄いですな! 妻もとても気に入って喜んでいましたよ。」

「それは良かった。持ち合わせがあまり無いのですが、後で三つほど置いておきますよ。」

 凌馬の言葉に、ジャレンスは大層感謝していた。


「それで、ハンバーグのレシピの件ですが、凌馬殿は何か御入り用な物はありますか?」

「そうですね。旅の荷物が多いので、持ち運ぶのに便利な道具などはありますかね?」

 凌馬の問いに、店の奥へと向かっていったジャレンス。


 やがて、戻ってくるとバッグとポーチを持っていた。

「こちらは、マジックバッグとマジックポーチになります。どちらも王都の職人が作りました一級品の魔道具になります。時間停止とは行きませんが、内部の時間がかなりゆっくりとなっていますので、通常よりも五十倍は保存期間が伸びます。こちらと引き換えでレシピを譲って頂きたい。」


 ジャレンスの提案に凌馬が答える。

「しかし、それではジャレンスさんが損をしてしまいませんか? これ程のものとなると、相当の金額になりそうですが?」


「凌馬殿には命を救われました。お陰で、妻にももう一度会うことができ、これからも商売を続けることができます。それに比べれば大したことはありませんよ。」

 そう言って渡された凌馬は、お礼を告げるとポーチをミウに渡す。


「ミウ、これに食料やおやつ、お金を入れておくからいざというときにはここから取り出して使うんだぞ。後で、お金の使い方も教えるからね。それと、おやつは食べ過ぎず一日一つで我慢するんだよ。パパと約束できるかい?」

「うん、約束する!」

 ミウの返事に頭を撫でると、ミウの肩にポーチをかける。


 ポーチは、可愛らしいピンク色をしたものでミウに良く似合っていた。

 ミウもポーチを気に入ったのか、その場でクルリと体を回転させると「パパ、ありがとう!」と言ってきたので、凌馬はミウを抱っこする。


「気に入っていただけて良かったです。」

「おじちゃんもありがとう!」

 ミウのお礼に笑顔で「どういたしまして。」と答えたジャレンス。


 凌馬は、その他必要なものを見て回っていると、店にチェルシアとローレットが訪れてきた。

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