第14話
盗賊たちから人質を解放した凌馬は、商人たちと共に一路彼らの目的地のノリッチの街へと向かっていた。
「へえー、ミウちゃんはお父さんと二人で旅をしているのね。」
「うん!」
凌馬の馬車には、冒険者のチェルシアとローレットが乗っており、今はミウと楽しくお話をしていた。
盗賊たちに捕まっていたのは、商人が五人と冒険者七人で、冒険者は二人と五人のパーティーの組み合わせだった。
盗賊たち二十人に襲われると、商人を人質にとられてしまい降伏せざるを得なかったらしい。
最も、襲ってきた盗賊団というのがこの辺で幅を利かせていたオーガイ盗賊団で、元冒険者Bランクと言うかなり厄介な相手だったらしい。
そのまま抵抗をしても、恐らく全滅していただろう相手らしかった。
今となっては、なにかに怯えてプルプル震えているだけの子犬のような存在になってしまったが。
「以前はこの辺も、決して治安が悪かった訳では無かったんですが───。」
ローレットがそう呟いた。
「やっぱり、最近まで続いていた飢饉が影響したようね。国の兵士たちも、そちらの方に手一杯で周辺の治安維持にまで手が回らなかったから。」
チェルシアがそう語った。
「二人はずっと冒険者パーティーを組んでいるのか?」
「一年くらい前に一緒の依頼を受けてからね。私が接近戦担当で、ローレットが魔術師でバランスがとれてるからね。まあ、今回は流石に想定外だったけれど・・・。」
凌馬の問いにチェルシアが答えた。
そんなこんなで、盗賊たちを移送するために馬車を一台丸々荷台が使えないため、凌馬の馬車に盗賊たちの溜め込んだお宝などを乗せて一緒に目的地へと向かっていたのだった。
「ミウちゃんはお母さんは居ないの?」
「どこに居るか分かんない。」
ローレットの問いに首を振るミウ。
「今俺とミウは、母親を探す旅をしているんだ。」
「ごめんなさい、余計なことを聞いちゃって。」
ローレットがミウに謝る。
「ううん、大丈夫だよ。ミウにはパパがいるから。」
そう言って抱き付いてくるミウに、笑顔をこぼしながら頭を撫でる凌馬。
「二人とも仲が良いのね。羨ましいわ。」
「うん、パパ大好き!」
「はっはっはっ。パパもミウのこと大大大好きだぞー!」
そう言って抱き付き合う二人。
「凌馬殿、そろそろ野営場所に到着します。」
そう声をかけてきたのはジャレンス。この商団のまとめ役でもあり、ノリッチの街で大きな商店を持つ商会会長でもあった。
重要な取引があり、今回の商団に参加していたのだがとんだ事件に巻き込まれてしまったのだった。
「分かりました。ミウ、そろそろ野営の準備をするからね。」
「はーい!」
そうして、本日の野営地に馬車を止めた凌馬たち。
馬の世話をチェルシアとローレットが引き受けてくれたので、夕食の仕度をすることになった。
商団の食料は、盗賊たちによって食べられてしまったためあまり残っていなかったので凌馬の方で用意することになった。
「すみません、凌馬殿。命を助けられたばかりか食事まで用意していただいて。私たちに手伝えることがありましたら何でも言ってください。」
そう、ジャレンスが言ってきた。
「それでは今日はハンバーグにしますので、手の空いている方にも手伝って貰いましょうか。」
「わーい、ハンバーグだ!」
ハンバーグは、ミウにとってはお気に入りの料理であり、ミウ自身も凌馬と一緒に作ることができるので五日に一度はハンバーグの日を設けている。
「ハンバーグですか? 聞いたことのない料理名ですね。」
「私の国の料理でして、そんなに難しいものではありませんので安心してください。」
凌馬は、ハンバーグのタネを用意すると、みんなに形を作るコツを教えて器に置いて貰うようにした。
凌馬自身は、フライパンを使いどんどん焼いていく係になった。
後は、サラダとスープを残りの手の空いている人に作ってもらい、盗賊たちには保存食を少量だけ渡しておいた。
あまり元気になって、よからぬことを巧まれても厄介なので。
もっとも、逃げたら殺すと凌馬が殺気を込めて脅しておいたが、元よりそんな元気は持ち合わせていなかった盗賊たち。
ミウが居るのだ。念には念を入れての対応だった。
やがて、料理も完成し大人数での夕食を始める。
「こっ、これは!」
「凄い、ジューシーなのにとても柔らかいわ!」
「なんだか、いくらでも食べられちゃいそう。」
みんなの絶賛に、凌馬もご機嫌な様子だった。
「ミウ、どうだい?」
「うん、いつも通りとっても美味しいよパパ!」
ミウが嬉しそうに食べているのを見て、顔の表情をだらしなく崩れていく凌馬。
「いや、凌馬殿。これはほんとうに凄いですよ。これほどの料理ならば、一財産築くことも可能だと思いますよ。」
「いや、別に私は料理人を目指しているわけでもないですしね。もしよかったら、ソースも含めて作り方をお教えしましょうか?」
凌馬の提案に、ジャレンスが驚きの表情を浮かべた。
これほどの料理のレシピを、なんの対価も要求せずに提供するなど普通に考えられなかったからだ。
「いや、しかし、ただで教えていただくわけにも。一度私の商会によって詳しく取引について取り決めをしたいのですが?」
「はあ、まあ構いませんが。」
凌馬にとっては別に大したことではないのだが、ジャレンスの商人としての矜持が許さなかったのだ。
「それにしても凌馬殿は、あれだけの強さを持つだけでなく料理まで一流とは。」
「それほどでもないんですけどね。特に、料理に関してはレシピを知っているだけですし、腕に関しては料理人と比べられる程でもないですよ。」
凌馬はジャレンスにそう答えた。
「そう言えば、凌馬殿は冒険者のランクはいくつなのですか? もしよろしければ、教えていただきたいのですが?」
ジャレンスの問いに凌馬は首を傾げて答えた。
「冒険者ですか? 失礼、私は冒険者ではないのですよ。冒険者の制度がどの様なものかも知らないので。」
「本当なの?」
「あれだけの強さを持ちながら、冒険者でもないなんて信じられない───。」
話を聞いていたチェルシアとローレットが、驚きながらそう話し周囲の者たちも同じような態度であった。
「これは失礼しました。凌馬殿が冒険者ではないなどと思いもよりませんでしたので。しかし、旅をしていくのならば冒険者になっておいた方が何かと便利だと思いますが。もしよければ、ノリッチの街で冒険者登録をしませんか? 今回の功績で、ランクアップ出来るように私の方からも話しておきますが?」
ジャレンスがそう提案してくる。
「そうですね。これからのこともありますし、一応登録だけでも済ませておきます。その際は、よろしくお願いします。」
「ええ、お任せください。少しでも凌馬殿に恩返しができて、こちらとしても願ってもないことです。」
そうして、凌馬は冒険者登録することが決まった。
今夜の見張りは冒険者たちがローテーションを組んで行ってくれるらしいので、凌馬は遠慮なくミウと共に就寝することにした。
「パパ、人がたくさんいてなんか楽しいね。」
「そうだな。たまにはこういうのも良いかもな。」
凌馬はミウの頭をなでで眠るように促した。
ミウの寝息を聞きながら凌馬は考える。
(やっぱりミウも、たくさんの人と触れ合っていく機会を持った方が良いのかもな。出来れば、信頼できる仲間と出会えれば良いのだが・・・。)
凌馬は考え事をしながら、やがてミウと一緒に眠りについたのだった。
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