ロボットの君

欲しいものを欲しいと言わぬ女がいた。

こちらが何を言おうと首を振るばかりで貢がいのない女ではあったが、その態度が俺を更にそそる。だから、何度もしつこく目が合えば欲しいものを聞いた。

今日も空振りに終わり、いつもの事と一仕事終えた面持ちで女の前を後にする。

それに「どうしてですか」と俺の背に女が問いかけてきた。これはこれは今までの努力が報われた。そう思い笑顔で振り向く。

振り向いた先の女は、とても女らしく握った右手を胸元に、眉をハの時に、目線は床に、身体を強張らせているのだろう。とてもそそる姿で居た。

「どうして? それを言いたいのは俺だよ。君が望むものを提示してきたのに素直ではない。素直に応じない。まるで異端審問でもしている気分だったよ、今まで。でも俺が諦めなかったのは」

諦めなかったのは牙城如き、この女を否応なしに屈服させたかったからだ。

「君が好きだからだよ」

つらつらでた言葉は前半本音、後半は嘘。この女を女にしてくて出た俺の意地と言われてもいい。ともかく俺は、この女を自分の物にして、この女の欲しいものを与えて与えまくり困る姿を見たかった。その姿を見て俺は高ぶる。

ただの女にしてやった、と。

「……それは本当に好きですか」

聡い女は苦手だが、まあそうであろう。この女は賢い女だ。

「正直、意地になっていたかな。でも始まりも今も好きで埋め尽くされているよ」

訝しげに、こちらを窺う女の瞳は心の底を除くような暗さがある。それを必死に隠すのは俺の笑顔だけれども、ああ、これはばれている。俺の卑しい欲望がばれている。

「私が、ほしいもの」

俺の内面を覗き込みながら女は呟いてから俺を見た。

「あなたの安寧です」

あなたが私に囚われず自由になり、その時でも私が傍にいないといけない、と思うのであれば私は貴方の物になります。

女はそう言って、じぃっと俺の瞳を見た。俺は一気に辱められている気分になってしまう。

自由? 俺は自由に、この女へ睦言を紡いでいた。それをなんだ、この女は執着と言いたいのか生き甲斐だったとでも言いたいのか。

二の次が出てこない俺を、女は肩の力を抜き「お先に失礼します」と軽く礼をして去ってしまう。ああ、ここで言い返さなければ俺は負けてしまう。負けてしまう? いつから勝負になっていた? この女が俺の希望に沿わなかった部分からか? どこだ? どこで俺は見余った?

そう考えている間に女の姿は遠くなっていた。

「俺は、自由に君のこと好きだったはずなんだけどなあ」

欲しかった。願いを叶えてあげたかった。好きな、はずだった。

なるほど、俺は小さい子供を言い聞かせるように物で吊ろうとしていた愚か者だった。

太公望なる人物のように餌なしで釣りをすることはできない愚か者

彼女はそれを見抜いた。俺がすでに好意ではなく興味でしか動いてないことを。同じことを繰り返す人形に思えただろう。毎日同じ提案、同じ文句、変わり映えのしない俺。いい感じに晒されて俺は逆にすがすがしいくらいだった。

彼女の言う通りなら寝て起きても想うのであれば告白をしようと思う。

それが気づかせてくれた彼女への敬意だ。

ありがとう、ロボットの君。

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