狐の嫁入り

ある日、山へ蕨を取りに行った

ついでに他の山菜もないかと探す

でないとイタズラをした時に謝れないからだ

今年は西瓜が旨そうだったから

それに似合うものを取らねばならない

余ったら揚げ物で食えばいい


と、あれほど天気がよかった空が曇りだす

まあいつものことだ

山の天気は変わりやすい

うちの私有地は親父のように気まぐれだ

ああ、見えた

大きなウロがある木へ飛び込むと同時に雨が降りだした

山菜は無事。だが足元が悪くなれば上へ上へ行くのは危ないだろう

通り雨なら少々待てば済むことだ

うつらうつらと雨音を聞きながら霞む瞳が火を灯す

火?


ゆら

ゆら

火がゆれる。火が行進をしている。

瞬き瞬き、ウロから少しだけ顔を出し

並んだ木の先へ視線をやれば

人が並んで歩いている

あそこは獣道じゃなかったか

行列で歩けるほど幅はない

何より、ゆらゆら火が勝手に揺れて

狐顔の奴らが服を着て歩いているだなんて

ああ、声を抑えるために山菜を抱きしめる

山の匂いで隠れられるように身を縮め、狐の嫁入りをやり過ごす。


お袋が言うところ珍しくない「事」だ

静かにしていれば何もされない

でも、ちらり

悪童心に火がついて

ちらり

丁度、白無垢の嫁様が歩いていた

人の顔の嫁様は、これっぽちも寂しくなさそうに

それよりも嬉しそうに

婿狐の手に己の手を乗せて微笑んでいた


近場のお稲荷様へ供え物を置きに行こう

祝い事だし、うちのお稲荷のはずだ

うん、そういう日もあるさ

そんなことを思っていたら、いつの間にやら雨が止んでいたし

行列も過ぎ去ったようだ

俺は悪童と言われるようなガキだけど

祝い事を祝い事と祝う事ができる男だぞ

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