エピソード3 試しましょ、その力
「……カヤ……」
「なんじゃ?アルフレッド」
「僕、今、すごく怒ってるよ」
「ほう?どのあたりにじゃ?」
「どのあたりって……そりゃもう、全部だよ!」
そう叫ぶ僕は今、クーちゃんさんに外に連れ出されつったたまま、このよくわからない状況に陥れた張本人であるカヤに怒っているところ。
……生まれてこのかた怒っだことなどないから。
ちゃんと怒れてるのか、伝わってるのか疑問だし、不安だけど。
ちなみにここへ僕を連れて来たクーちゃんさん自身は「一度ママにお話してくる」といったっきり帰ってこない。
「……すまん。」
シュンとしてそういうカヤに、すぐに申し訳なさを感じる。
怒っちゃって、悪かったかな。
でも、ここまで自分勝手に色々されて、いい加減我慢ができなくなりそうだった。
「こんなこといっても信じてくれんだろうが、わしはお主と会った瞬間、あやつと……同じ匂いがすると思ったんじゃ」
「あやつって……」
「はぁ〜い、お待たせ。」
ちょうどそこで帰ってくるクーちゃんさん
「さっそく、あなたの試験を始めるわ。そっちのこ……えーと、名前はなにかしら」
そういうクーちゃんさんに、魔法使いのような姿になる前のあの格好だったから女の人の口調だったわけじゃないのか、と悟る。
「カヤじゃ!」
「そ。カヤちゃん、あなたはオーケーよ。下がってて。で、君、名前は?」
口をひらいて、「ア」。大嫌いなそいつの名前をいいかけて、とまる。
「」
「そう。ー。さっそくはじめましょうか」
なんでこんなことに……
そう思いながらも、いくあてもなかったし、でてしまったからには戻るのもなんだかと思えていて、短いあいだでも居場所ができてよかったなんて思ってしまう自分がいた。
これからどうなってしまうんだろう、と不安に思う一方で、もうどうとでもなってしまえとも思えた。
……僕は、いらない子なんだから。
「あーっ!ちょっとあんた、今すんごいネガティヴウェーブなこと考えてたでしょう?やめてよね!うつる!」
「え?ネ、ネガティヴウェーブって一体……」
「じゃ、さっそく何か見せて」
パッと切り替えた様子でそういうその人。あまりの切り替えの早さにゾッとしてしまう。
そして、カヤ同様、この人も本当に身勝手だ。
なんだか、もう、ゴタゴタ考えることもできない。
ヤケになってくる。
「何かって、なにを……」
「そうねえ。ま、そこは自分で考えないとダメなんじゃない?カヤは私がしがないバイトでなく黄昏の平野団の団員だと見抜いた。それだけてなく初めて見たときから歴戦の手練れとみぬいたのはすごいことよ。その洞察力を見込んでわたしが今のところ勝手に、決めただけだけど、軍師候補として認めてあげたのよ」
「……」
何か……
僕にできる何かって、なんだろう。
「剣……とか、ありますか?」
「剣?ええ、あるわよ」
そう答えると懐からスッと剣を取り出して渡すその人。
「ありがとうございます。えーと……」
「?」
「お名前は……」
「クーガよ」
クーガ……って、古代語で〈猛獣〉って意味の……
そう思ったのも束の間。
借りた剣の持ち手を握り刃の状態をみる。
僕だって一応王子として教育は受けている。
剣の扱いだって……
兄様たちと違って実戦はしたことないけど
きっと、できるはずだ。
「なにか、魔法で出せませんか。訓練用の魔物の幻影みたいなもの」
城では毎日担当教師である魔法使いのおじいさんがだしてくれる魔物の幻影と戦っていた。
それを今ここで披露して……
「……ふ〜ん。そ〜んな高度な魔法出せちゃう魔法使いさんがいるのねえ。でも、私は無理よ。だ、か、ら、この私がお相手してあげるわ」
そういうとまた懐から剣をとりだすカーがさん。
「さ、来なさい」
どこか不敵な笑みを浮かべてそういうカーがさんにうっと黙り込む。
人と戦うのは……初めてだ。
訓練でもやったことがない。
いつも兄達がやってるのを影から見てただけだから。
でも……
「やあっ!」
まずは思い切り、真上から縦に剣をおろす。
けどあまりに単直なそれはすぐにクーガさんの剣に跳ね返される。
その力のままに少し後ろに下がる僕。
魔法使いのような見た目だから、魔法が使えると思ったんだけど、そうではないのかな。
今の短い動作でも剣の扱いにかなり手馴れてるのがわかったし……
……今度は
「……っ」
右からはいる、と思わせて、左から……
それもまた、弾かれる。
どうしよう。
今度は……
そう思った、ほんの数秒。
キーンっ
僕のもっていた剣が僕の手からはなれ、地面に転がる。
一体なにが起こったのかもよくわからない。
そんな一瞬に……
「……はあ……はあ」
全てが一瞬のことだったのにやけに息がきれて、自然とへたりこんでしまう。
「ふ〜ん。なるほどねえ」
自らが手にしていた剣を懐にしまいおえると、今度は僕が手放した、少し離れたところに落ちている剣に手を伸ばすクーガさん。
けれど手を伸ばすだけで歩いたりとか、近寄ったりとか、なにもない。
ただ剣のある方に手をつけているだけ……
どういうことだろう。
僕がとったほうがいいかな
なんて思って手を伸ばそうとしたその瞬間。
「うわっ……」
剣がひとりでに立った……かと思ったら今度はクーガさんのほうに引きずられるように動き出して……
気づくと剣はクーガさんの手元にあり、クーガさんは何食わぬ顔でそれを懐にしまう。
さっきまでその懐にしまう動作もなんとなしに見ていたけど、よくよくみると剣が収縮して、ちっちゃくなった状態でしまわれてるようだった。
「すごい……」
思わず声が漏れてしまう。
この調子だと、さっきのも、今のも、どっちも……
「魔法……ですか」
「はあ?あったりまえじゃない。あたし、最初にいったわよねえ?あたし魔法使いよぉって」
「でも……剣……つかってたし」
「ああ……。でも、あんなのは基礎的なもんでしょ。」
けろっとしてそういうクーガさんに恥ずかしさが波のように遅いかかってくる。
僕はそんな基礎的なものを自慢できるものだと……勝手に思いこんで……
「すいません……」
へたりこんだままだった体制から正座に切り替えると膝の上でぎゅっと拳を握る。
「あらあら、そんな、いいわよ。……まあ、見込みはあるってとこかしらねえ。まだまだだけど、将来的な可能性を信じてあなたを団長候補にしてあげようかしら」
「え……」
思わぬ言葉にハッとして顔をあげる。
ふざけてるようには思えない。
……じゃあ、ほんとに?
団長候補に……
自分でのぞんだものではない。
だけど、初めて、誰かに認めてもらえたような、そんな言葉が、すごく嬉しくて。
たった数個のその言葉が、文字が、何度も何度も胸の中を反芻する。
「っていっても、候補の候補。まだまだって感じだけどね」
付け足されたそんな言葉にガクッとしながらも、それでもまだ、胸が暖かい。
嬉しい。
……ほんと、こんなの初めてだ。
「う〜んと、とりあえず、仲間に連絡してみるわね。あんたらのこといってくらから。ちょっと待ってて」
クーガさんがそういった、その矢先……
「なになに、クーちゃん、新人いびり中〜?」
「ママがお前いないと店が回らないからできればはやめに戻れって。伝え忘れたらしいから来たけど」
そんな新しい声がしてくる。
「おおーっ!クーちゃんこういうこ好きだよねえ。気弱そうっていうか、儚げっていうかあ」
そういって僕の顔をまじまじと見てくるのは明るい女の人。
ニコニコしていて天真爛漫そうなその人は、薄桃色の少し癖のある髪の毛と目一杯開かれたキラキラしたターコイズグリーン色の瞳が印象的だ。
学校としては城にいたシェフたちと似たような格好をしているので、きっとバーの後ろで料理を作る人なのだと思う。
髪の毛を人束だけとって結んでいるのもまた印象的で、たぶん僕より年上なんだろうけどとても幼く感じる。
「……ほんと鈍感なやつだな。クーガが可哀想だよ。ま、クーガもクーガか……」
ボソッとそうつぶやいたその人は、男の子。
男の子には似合わぬシェフの格好に違和感を覚える。
ひどく鋭いこげ茶の瞳と少し癖のある瞳とおなじこげ茶の髪の毛。
「ん?なんかいった?チーくん」
「いってねえよ」
「なんだあ?反抗期かあ?んん?」
そういってグイグイとチーくんというその人に顔を近づける女の人。
「ちょちょちょ、ストーップ!ストーップ!全くもう……」
慌てた様子で二人の間にはいったクーガさんは一息つくと僕らの方を見てにこりと微笑む。
「せっかくだし、今紹介しちゃうわね。幹部のリビリルズアーネと、チアリルダーネ。長いからみんなあーちゃん、チーくんって呼んでるの」
そんなクーガさんの言葉にあーちゃんさんはひらひらと手を振り笑みを浮かべて、反対にちーくんさんは険しい顔をこちらに向けてみせた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます