第七節 花の散る


 そして彼は、いた



 風もないのに ふわりと揺れた青い髪をみる


 ささやくように、私の名を呼ぶ声をきく


 ふわり、ふらり、どさり、と


 果楽はその場に崩れた


 駆け寄り手を取ると私を見上げる


 悲し気な瞳で


 今にも消えていってしまいそうな表情で



「聞いて…ください…」



 苦しそうに吐息を多く含んだ声で


 あの蝶は、と続ける


 心の何処かで 知っていたことを








「僕なんです……」








 泣いてしまいそうな顔をしていた


 あなたも 私も




 果楽の姿が仄かな光を発しながら霞み始め


 抱きかかえている手の感触が曖昧な気がして


 もうやめて、と私は思った


 きっと「かみさま」という存在に




「もう僕…死んじゃうみたいです。見ていてください、僕が…透明な床に手をつき羽をふせ、息絶えてゆく姿を……」



 残酷な言葉 だれが言ったの?


 死なないで欲しいと願う


 今は願う


 嫌だと、死なないでと、繰り返して泣いて



 だけど果楽は微笑んで


 泣かないでと言って


 はじめて僕を見たときの様に笑って、と




 はじめてあなたを見たとき、踊りを踊る異国の人の様だと思った


 はじめてあなたを見たとき、まるで蝶のようだと思った


 はじめてあなたを見たとき………



 ……早く散るところを見たいと思った




「笑った顔が…見たかったんです…」




 透けた体が光の粒になって舞い始める


 それはあまりに綺麗で、



「聞いて」



 手にはもう彼の感触はなく



「僕は」



 私が零した涙は彼をすり抜けて



「―――……」



 声は、形をとらなかった



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