Long December Days:46

羽虫でできた犬は見える限り五匹。体高80cmほどのとても大きな犬だ。鋭い牙が見える。もぞもぞと動くその犬の内四匹はソフィアのMPFとにらみ合うようにして唸り声――に聞こえる羽音の集合で、とても気味が悪い――を上げ、一匹はじっと陽奈をにらみつけて威嚇のポーズを取っている。逃げれば追ってくるだろう。街中に出れば被害が出るかもしれない。放っておくわけにはいかない。陽奈が月影の柄に右手をかけた瞬間に犬の一匹が飛びかかってくる。左足を半歩引きながら抜刀し、右足を少し前進させて、抜ききった刀で犬を横に両断する。

「逃がさないっ!」

鋭く短い声を気合いのためにあげて左足を踏ん張り、体をねじって、左手で柄を握り右手は離して、そのままほぼ真上から真下に切り下ろす。犬の前足と後ろ足の丁度真ん中の位置を輪切りにする格好だ。羽虫犬を四分割するまでの時間は二秒程度。三歩下がって両手で握り直し、様子をうかがう。力なく落下した羽虫犬は、ぴくりとも動かない。

「燃やすのがダメってことはたぶん熱は全部ダメってことだし、こんなことで死ぬとは思えないけど……。うーん応援を呼んだところで家ごと全部蒸発させるような兵器でも使うことになるのかなぁ……」

羽虫犬から目を離さないようにしながら、少しだけソフィアの方に目を向けると、四匹の犬とにらみ合い続けていた。厳密には違う。ソフィアの後ろのタンクの一つを、四匹の羽虫犬はずっと睨み続けている。

「ソフィアさん!その状態から殺虫剤を全部ぶちまけることってできますか!?」

『陽奈!今すぐ玄関から出てドアを閉めなさい!この殺虫剤は猛毒よ!!』

二人の叫びと、陽奈が四分割した羽虫犬がぴくりと動いたのは同時だった。四分割された体が変形し、触手のようになって陽奈へ身を伸ばすのを飛び退いてかわし、そのまま玄関を力強く閉める。触手が玄関に当たる音を聞きながら、陽奈は再び叫んだ。

「今ですソフィアさん!やっちゃってください!」

凄まじい異臭が、陽奈の鼻をついた。玄関のドアから少し漏れ出たらしい猛毒が熱を放っているらしく、握ったままのドアノブにまで熱と虫たちがのたうち回る音が伝わってくる。

「お願い、効いて……!」

陽奈が祈るようにつぶやいた。

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