Long December Days:39

†12月20日昼 アスクレピオス、ソフィアの自室

「ブンセーと連絡が取れなくなってから二日が経ちますね……」

仕事の依頼もなく、話し相手もいない陽奈は、ソフィアのところに行っては世間話や電脳疑似空間での鍛錬に時間を割いていた。

「そうね」

ソフィアはソフィアで、日常の事務仕事やソフィー・システムの運営、残雪派の義体やメンテナンスユニットの管理、自分の義体間の同期と、いつも通りのことをいつも通り片付けていた。

「ソフィアさんは、ブンセーいなくても気にならないんですか?ソフィー・システムにも引っかからないんですよね。誰かに襲われてたりとか……」

何度目かの陽奈のその質問に対し、笑ってソフィアは同じ答えを返す。

「いいえ、全く気にならないわ。誘拐されるような歳でも弱さでもないし、困っていることがあったとして二日も連絡できないんじゃ、助けに行っても長くはもたないわ。だから、心配するだけ損をするの、残念だけどね」

「それに」と言って、ソフィアは付け足す。今までは言わなかった初めての答えだ。

「随分前のことになるけれど、文成は前にも似たようなことをしたの。ソフィー・システムから完全にシャットダウンした状況で、誰にも連絡を取らないように引きこもって、未来視を駆使して誰にも見つからないように日用品を手に入れるだけにして。まだ文成が生身の人間だった頃の話ね」

「そんなことがあったんですか?」

意外そうな声を出して驚く陽奈に、ソフィアは笑って答える。

「そうよ。文成だって若い頃があったんだもの。そういうことだってするわ。あの時はそうね、本当に誰にも思いつきすらしなかったことを平然とやってのけてしまった。そのせいで、色んな人から注目されるようになった。あの時の文成はとてもキラキラ輝いていた。まぶしいくらいにね」

ソフィアの余りにも楽しそうな様子を見て、陽奈は試しに質問をした。

「……文成のこと、好きなんですか?」

「かけがえのない友人よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。恋愛感情を持てるほど、当時の私は若くなかったもの」

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