Long December Days:36
「悪くない考えだと思うが、その場合奴は姿を見せずに殺しに来るはずだぞ」
ふとその言葉を聞いて、文成は気がついた。
「……そこまで恨まれるようなことを、君はニコラスにしたのか?」
「いや、覚えがない」
「ソフィアのことも君は知っているようだが、一体君たち三人の関係は何なんだ?」
文成のその言葉を聞いて、男は口いっぱいに苦虫を含んでから噛み潰したような表情をする。
「それは、本当に、話さないと駄目か?」
「ニコラスは未来視を持っているんだろう?それならばもう既に君の生存が約束されているかどうかの保証が必要じゃないか」
「そんなにも話したくないことなのか?」と目で文成が問いかけると、男は首を横に振った。
「どの道知ることになる話だ。長い話だからしっかり聞いてくれよ。何度も話したいことじゃない」
それだけ言うと、景色が一面の銀世界からどこかの洋館の一室に変わった。正面に窓が一つと、背後にドアがある、壁に囲まれた小さな部屋。窓の向こうは暗くて見えない。テーブルがひとつと、椅子が四脚置いてある。調度品一つとっても、床や壁を見ても、拘りを感じる高級品で作られているのが分かる。
「座ってくれ。特に茶は出ないが、さっきの場所よりは話しやすいからな」
「ここは、一体どこだ?」
「動物が死んだあとに三途の川を渡ってから来る屋敷の一室だ。この部屋から窓を見ると中々良い眺めなんだが、悪いがブラインドをかけさせてもらった。仮にもきちんと生きてる人間に見せて良い景色じゃなくてな。……和風な方が好みか?なんなら庭でもいいが」
そう言いながら、文成が座らない内に男は椅子を引いて座ってしまう。仕草で文成に早く座るようにしめし、文成も座る。
「――簡単に言うと、ネルに生きてる死神じゃない連中ってのは、生命の暮らす惑星をよりよくしろって使命を負わされている。こいつらは多くの場合、偉人だの芸術家だのとして生きて、寿命を使い果たして、ネルに帰ってくる。俺もソフィアもニコラスも、全員そうだ」
ただし、と言って、さらに男は続ける。
「ネルから出る時に一つ大きな制約を負う必要がある。記憶の一部ないし場合によっては全部を封印しなければならないというものだ。ソフィアはこの制約のせいで、『自分は偉人になるべくして生きているのだ』ということを忘れている」
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