Long December Days:16

†12月17日朝 ソフィー・システムによる疑似空間内

不安そうな声でソフィアが文成に尋ねる。

「文成。訓練をしたいっていうから言われた通りに準備したけど、こんなのでいいの?武器も持たないでこんなのやっても訓練にならないと思うんだけど……」

「こんなの」とは射撃訓練用の的を、文成を中心として半径20mの円上のどこかにランダムに出現させたり消したりするというものだった。いつもの文成ならば拳銃と替えの弾倉をいくつか持ち込んで行う訓練だ。

「ソフィー。僕は正直に説明しただろう。僕はサイコキネシスを体得してしまったようなんだ。それが電脳にしか存在しない架空現実でも通用するかどうかを試したいだけなんだ」

「それはもう分かったけど、本当にいいの?」

文成がソフィアを説得する間、幾度となくソフィアは「本当にいいの?」を繰り返し唱えた。文成が負けず嫌いなことをソフィアはよく知っているからだ。しつこいソフィアに、今回は文成の方が折れた。

「分かった。じゃあサイコキネシスの射程の限界をひとまず調べてからにしよう。僕の正面に5m間隔で100m分、20個の的を出現させてくれ」

「こんな感じ?」

すぐに文成の言った通りに的が現れる。それを確認して、文成は深呼吸をしてから青銅の鍵を握り締める。

文成にとって、銃よりもイメージしやすいものは弓矢であった。現実には存在できない強弓きょうきゅうを、同じく現実に存在しえない肉体が引き、放つ。銃にしても摩擦も空気抵抗も無視して飛ぶのだ。それが弓矢であったところで大差はない。そう考えたことが理由の一つ。そしてもう一つ。サクは生前弓道を得意としていた。この前サクを見たときに、文成はサクの好きなところを全て鮮明に思い出せるほどになっていた。サクの射形であればどんな時でもどんな早回しにしても自分ならば正確に再現できるはずだ。そう考えて、文成は弓矢をイメージすることに決めたのだった。

文成のイメージの中のサクが、射法八節でいうところの引き分けを終える。そして、弓音が響いた時、20個の的は全て破壊されていた。

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