ウケモチシステム:25

†12月10日 朝 白雪文成宅

「おはよう、ブンセー」

「ああ、おはよう。ハル」

そのまま何も言わずに、陽奈は朝食を作り始める。文成はじっと虚空を見つめて、何かを考え続けている。青銅の鍵は既に隠してある。ソフィアへの誕生日プレゼントと同じく、文成以外の誰も触ろうとさえしない場所に。ずっと同居している陽奈も気づいていないはずだ。

ほどなくして朝食を作り終えた陽奈が食事を始めたころ、陽奈が文成に問いかけた。

「私たちが京都に行っている間、何があったか教えてくれない?あの日私たちの方は何も困ったことはなかったし、あっという間にウケモチシステムは深水ふかみさんのおかげで暴走しなくなって、そのおかげでリリーさんはソフィアさんのスカウトで残雪派の職員として働くことになったけど、文成一人だけなんだか元気がないんだもん」

「何もなかったよ。ニコラスの使いが来て、それを撃退した。そして、僕がニコラスの使いを撃退している間に、もう一つ別の部隊が来て、ソフィーのメンテナンスユニットごと捕らえたNEを壊されてしまった。それだけだ」

それを聞いた陽奈は露骨な溜息をついてみせる。そのついでに、わざとらしいしかめっ面もする。

「ブンセー。それ何回言ったか覚えてる?どう見たってそれだけじゃない。本当にそれだけだったらブンセー今頃義体の強化とか更なる鍛錬とかに熱を上げるもん。もしくはいっそのこと遠隔操作の義体MPFを作って使いこなせるようにしたりとか。……いい加減何があったか教えてくれてもいいじゃない?」

最後の方は文成を心配するような声音になる。同居人が一週間以上放心状態なのだから、無理からぬことだ。

「何もなかったよ、ハル。本当だ」

そう言いながら、文成はじっと陽奈を見つめた。その静かな、しかし強い眼光のせいで、陽奈は「同居人として当たり前のこともするなって言うほどブンセーは冷たい人間じゃない」という言葉を飲み込んでしまった。

「……わかった。『何もなかった』ことが、しっかりとね。これ以上はもう聞かないことにする」

「ねぇ、ブンセー」と一呼吸置いて、陽奈はさらに続ける。

「ソフィアさんの誕生日プレゼントを買いに行きたいの。ずっとそれどころじゃなかったから。付き合ってくれるよね?」

「ああ、いいよ」

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