ウケモチシステム:15

文成は変わらず真っ黒な部屋の中にいる。だが、歪んだせいかかなり小さくなった。文成が手を伸ばせば壁に手が当たる。しかし、壁に手を当ててソナーを使ってみても相変わらずかなりの厚みがあって壊せそうにはない。

「ソフィー、ここに君のソフィー・システムを使って、ホログラムを送りながら、アスクレピオスに多量の情報ノイズも送っているんだな?」

『厳密にはアスクレピオスに不審なNEを見つけたから、そいつがいる駐車場に向けてだけど、その通りよ?』

ということは、NEは多量の情報ノイズのせいで電脳がパンクして、NEが作り出したと思われるこの空間にも影響が出てきてしまっていると考えるのが自然だろう。

「僕は今あの世ネルにいる。ここがソフィー・システムの圏外であることは前に話したな?」

『うん、そうね。不本意だけど地球上らしきところにそんなところがあると確かに聞いたわ』

「なんだか腹が立ってきた」

ソフィアにできることが自分にはできない。確かに文成にはソフィー・システムを運用することはできないが、同じ最新型の全身義体でも、攻撃能力で言えば文成の方が遥かに上だ。筋力だけで言えば、片手でソフィアを持つことも不可能ではない。

「ソフィー。僕の姿は君から見えているか?」

『ううん、全然。声は駐車場のNEのすぐそばから聞こえるけど駐車場のどこにもいない』

「待っていてくれ。今なんとかする」

そう言うと、文成は義体と電脳のリミッターを解除する。全身のありったけの力を使って、正確な未来視をイメージする。ここから出られない未来が視えるが、無理矢理アスクレピオスの駐車場の中にいるイメージに。生身の時にごくたまにだが使った奥の手だ。とてつもなくむかっ腹が立つときに、怒りを未来にぶつけることで思い通りの未来を造り出す。生身の時には身動きが取れなくなるなるほどの頭痛に襲われたが、今の体ならば多少電脳にダメージが入る程度で済んでいる。定期メンテナンスでどうにかなるほどの小さなダメージだ。この状態で壁を全力で殴れば、このイメージの通りになってくれることだろう。

「はああっ!!」

正拳突きを繰り出した。

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