ウケモチシステム:16

「うわっ、びっくりした」

真っ黒な部屋の壁が砕け、文成はアスクレピオスの駐車場に立っていた。目の前にソフィアのホログラムが立っている。文成を真っ黒な部屋に閉じ込めたNEは倒れていた。

「ただいま、ソフィー。心配をかけたね。……そいつは?」

文成がそう言うと、ソフィアは首を横に振る。

「電脳をパンクさせたら、あっという間に自分で電脳を焼いちゃった。かなり派手に焼いてあるから調べても何も出ないと思う。こんな状態じゃ遠隔操作でも指一本動かせない。文成、悪いんだけど、私の部屋に運んでおいてくれる?こんな所に置きっぱなしだったら邪魔だもの」

「ソフィー。こいつは魔法を使っていた。魔法を使える義体なんだ。そっちに追いついてウケモチシステムがどういうものなのか知りたい気持ちもあるが、この義体のこともとても気になる。僕も魔法が使えるかもしれない。幸い君の部屋には義体メンテナンス用のユニットがあるだろう?君の力を貸してくれ。解体してみたい」

「分かった。でも、いつまでもホログラムを展開しておくのは電力の無駄ね。うーん、左目を借りてもいい?」

「ああ、そうしよう。使ってくれ」

「じゃあ、お邪魔します」

ソフィアがそう言うと、文成の視界に軽い眩暈が走り、左目の視界がなくなる。ソフィーが文成の電脳に侵入して、左目の視界を使っているのだ。

『メンテナンスユニットを使うとなると耳も欲しいところだけれど、そこは私のユニットだもの。……さて、私の部屋に行きましょうか』


†同日 アスクレピオス ソフィアの自室 メンテナンスユニット前

警告アラートメッセージ。マスター・ソフィア以外のコンソール接触を確認。10秒以内に本人認証が行われない場合、強制終了し、スリープモードに入ります≫

音声の警告と共に、操作盤にメッセージが表示される。

『文成。私たちのデビューシングルのタイトルを言って』

よく覚えている。冬の街角を歩く、恋する乙女を歌ったバラードだ。もう一曲の方ユキヒョウはテンポの速い曲で、歌う側としてはそっちの方が歌いやすいのだが、ソフィアが好きな方となると。

「恵みの雪」

≪本人認証成功。おかえりなさい、マスター・ソフィア≫

『全身メンテナンスモードにして、ポッドの中にNEを入れて。とりあえず、電脳を外しましょう』

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