ウケモチシステム:13

「刀を折った。天魚とやらも消えた。僕の勝ちだ。降参するんだ」

黒髪NEの持つ刀は文成の突きを受け、真っ二つに折れていた。NEは呆然と立ち尽くしていた。文成の言葉も聞こえていないようである。

「聞こえているか?他にも武器を持っているなら捨てるんだ。手荒な真似をするつもりはない」

NEは何も反応をしない。待ちかねて、文成は未来視を使った。そして、NEが話しかけてくる未来を視た。

「白雪文成、お前の負けだ。ニコラはこうすれば必ず未来視を使うはずだと言っていた。白雪文成。天魚は消えていない。未来からお前に食らいつく」

それを聞きながら文成にできたことは、天魚に飲み込まれるだけの自分を他人事のように見ることだけだった。


文成が目覚めた場所は、真っ黒な部屋だった。床に座っている。手触りは一般住宅のフローリングに似ている。少し温かい。手や目で探ってみても、目に搭載しているサーモグラフィーを使っても、壁がどこにあるかはっきりしないほど広い部屋だ。そして、嗅覚センサーに微妙なノイズが入っている。いや、ノイズではない。

「ネルの臭いだ……!」

ネル特有の異臭。ネルの臭いは現実の技術で再現不可能なものだったので間違いない。ここはネルだ。

しかし、文成の短距離電脳通信には何も信号が入ってこない。本来ならば雨岡楓の話した通り、死霊たちの嘆きが聞こえてくるはずである。しかし、文成は焦りのため、そのことに気がつかなかった。オフラインにすることも忘れていた。

「油断した!僕としたことがネルに運ばれるだなんて!」

何としても脱出しなければならないと文成を焦らせるが、部屋から脱出する方法さえ分からない。槍さえも持ってない。完全に素手だ。

「義体の中に何か武器を仕込んでおくんだった……」

ナイフが一本あるだけでも話が変わってくる。文成が義体の性能を追求した結果、武器を仕込むスペースは一切確保されていなかった。

試しに床を殴ってみる。触覚センサーも可能な限り探知範囲を広げる。殴ってみた結果、フローリングは少しへこんだ。本当にただのフローリングのようだが、かなりの厚みがある。殴り壊すには無理がある。

「万策尽きたか……」

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