ウケモチシステム:4

†12月1日 昼

外出してからずっと、陽奈はソフィアの誕生日プレゼントをどうするか悩んでいた。

最初は何か食べ物にするつもりだったが、ソフィアが喜ぶほどのものとなると陽奈の懐事情では手が届かない。手作りのものならどうかとも考えたが、そうだとしても材料の段階で行き詰まる。砂糖はともかく、小麦粉が高級品なのだ。とてもじゃないが陽奈だけでは手が届かない。アクセサリーや宝石類の方が安上がりになる。

「だめ、アクセサリーは最後の手段」

文成は「プレゼントの準備は済んでいる」と言っていた。しかし、自宅にも、自宅の上の事務所にも、目の届く範囲にプレゼントらしきものはなかった。そうなればあまり大きくないものである可能性が高い。文成の趣味で大きくないものとなれば大方ネックレスかイヤリングだろう。私もアクセサリーを選べば文成と比べられるかもしれない。そんなことはいやだ。

「時計。時計……、時計……?」

腕時計ならアリかもしれないと考えたが、どうだろう。文成も腕時計を選んだ可能性は捨てきれないが、アスクレピオスにあるソフィアの義体は腕時計をつけていない。最初は悪くない判断だと思ったが、値段があまり高くない。電脳にも視界に現在時刻を表示させる方法があるのだが、その際に生じる独特の浮遊感に慣れない人間が多いため、腕時計はメジャーなアイテムなのだ。しかも、ソフィアがそんな浮遊感を克服していないはずがない。かえって迷惑に感じるのではないだろうか……。

「困った……」

頭を悩ませても妙案は浮かばない。反対意見ばかりが浮かんでくる始末である。街中でぶつぶつ呟きながら、駅通りの方へ向かって歩いていた。


その時、陽奈の耳に絹を裂くような助けを求める悲鳴が届いた。

「何事!?」

10時方向。距離はそう遠くない。足のリミッターを解除する。左手で月影をおさえ、駆け出す。非常事態だ。一歩でも早く、一秒でも短く。

「助けて!助けてくださぁい!!」

悲鳴がまた聞こえる。また駅通りまで距離がある路地なので、そう人通りがあるわけではない。私が行かなければ。

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