ウケモチシステム:3

「そういえば、ソフィアさんへのクリスマスプレゼントってもう準備した?」

「いや、特に準備してはいない」

「なんで?」

「なんでもかんでも……知らないのか?」

呆れたような顔を一度浮かべた文成だが、何かに気がついた様子で深刻そうな顔になる。

「何を?」

やはり知らないのだな、と文成。

「ソフィーの誕生日は12月24日だ。だからソフィーは『クリスマスプレゼント』ではなく、『誕生日プレゼント』を欲しがる。僕はクリスマスプレゼントの準備はしていないが、誕生日プレゼントならとっくのとうに準備を済ませてある」

「え?……………えっ!?嘘でしょ?」

「本当だ。そうか。知らなかったのか。言えば良かったな」

慌てて紅茶を飲み干し、上着を持って、陽奈は玄関に向かって走った。

「こうしちゃいらんない!プレゼント探してくる!ブンセー、そういうことはもっと早く教えて!」

慌てて靴を履き、文成の返事も聞かずに外に出る陽奈。その様子に呆れた文成が苦笑いしながら独り言を言う。

「そんな慌てて出ていくほど焦ることもないだろうに……」

近頃の若者はさっぱり分からない、とさらに続けた。


「クリスマスか……。子どもの頃はそんなこと言える環境じゃなかったからなぁ……」

一人になった自宅で、文成は昔のことを思い出す。西暦の終わり頃から十年間、世界は激動に満ちていた。当時あった携帯電話もPCも電脳が補えるようになってから世界は姿を変え、新暦3年にNEが生み出されてからは一家に一機のメイドロボットが当たり前の社会になって。新暦5年になるまでの間、社会は科学の発達にばかり目を向けて、自分たちの今まで通りの豊かな生活になど目を向けなかった。

新暦11年に雪河智絵が死んでしまって、再び世界が混沌に陥って、落ち着いたのは新暦30年ごろ。そうなってからようやく、日本は西暦の終わり頃の世界の姿を取り戻そうと当時の文化、風俗の再現に努めている。たとえば、電脳の補助デバイスとして「携帯電話」が再登場して、一定の市場を確保している。たとえば、季節の行事を街全体を挙げて満喫しようとしている。

「陽奈にクリスマスプレゼントの用意をしてあげないとな……」

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