Wraith:17
†
「雨岡さん。川渡しの顔は見ても大丈夫ですか」
「大丈夫です。顔がありませんから。同じ船に乗っている人たちとも目を合わせて問題ありません。ただし」
「ただし」の部分を少し強調して文成の質問に楓が答える。
「誰からも決して食べ物をもらってはいけません。帰れなくなります」
「『
「その通りです。よくご存じですね。西暦時代の都市伝説ですから世間では廃れているとばかり」
黄泉戸喫。「あの世」のものを食べたら「あの世」のものになる。
そうしている間に、川渡しの前についてしまった。
「お客さん、珍しいね。通行料か通行証はあるかい?」
川渡しはフードを被った女だった。いや、女の声のように聞こえるというだけで麻布のローブのフードに隠れた顔は、夜の色をそのまま固めたようで、何も見えない。声にしてもしわがれた、少女とも老婆ともつかない声である。
「通行料?」
文成がした独り言のような疑問に、川渡しが答える。
「三途の川の渡し賃っつったら相場は六文だろ。まぁ、財布は持ってても六文銭はやめときな。帰れなくなっちまう。まだ生きてる人間を渡したとあっちゃアタシがイーファ様に殺されちまう。早く通行証を出しな。あるんだろ?」
通行証が剣の護符のことだと気づいたので、二人は剣の護符を川渡しに見せた。
「そうだ。それでいい。頼むからそこら辺の奴らから食い物はもらうなよ。アタシにだって命があるんだ。こんな仕事楽しくもなんともないが死にたくはない」
舟に乗ったと同時にあちらからもこちらからも声とも呻きともつかないものと同時に食べ物らしきものを口にねじ込まれそうになる。口が駄目なら鼻からと言わんばかりの勢いだ。それに対し文成は槍の石突で小突いて押し、陽奈は船の外を向いて顔を手で覆い、何もしゃべらないようにしている。文成にとっては大した手間ではないが、陽奈は頭が痛いのだろう。月影を持つ気力すらないものと見える。
向こう岸のほど近くまで来たときに、文成がまた疑問を口にした。
「川渡し。君も生きているのか?ここはあの世ではないのか」
「ここは
川渡しは悪戯っぽく笑った。あくまでそのような声を出しただけではあるが。
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