Wraith:2

†10月30日朝 白雪文成宅

陽奈の朝食中に着替えをしつつ、文成が言った。

「ハル。僕は今日ちょっと出かけてくる。夜までには帰ってくるつもりだが、夕食まで一人でとってしまって構わない」

「何の用事?」

「昨日話した幽霊退治の対策で、幽霊探知機なるものを持っている人がいると言うから訪ねてくる。センサーに映らないようにできる相手に対して準備も何もしないというわけにもいかないだろう。対象であるレイスが逃げないという保証もない。ハルも来るかい」

首を横に振る陽奈。

「行かない。幽霊くらい得意の未来視でどうにでもなるんじゃない?」

「目視できるように実体化していてくれたり、直接僕に向かって手を出したりしてくれればそれで確かに十分だ。だが、僕の未来視で視えるのはせいぜいが数分先の未来であるし、10分以上連続で使い続ければ電脳がオーバーヒートする危険性もある。そんなリスクを負うよりは安定した方法をとるべきだと思ってね」

そういいながら、着替えを済ませる文成。

「ついていかなくていいの?」

「このくらいのサイズの小箱を借りてくるだけなんだ。一人で十分だろう。誰かに襲われるなんてこともないだろうしね」

「このくらい」の時にジェスチャーでサイズを示した。各辺5cmの立方体程度のサイズだった。

「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」


†同日昼 アスクレピオス前

「幽霊、ねぇ……」

陽奈はこの事件になんとなく気が乗らなかった。幽霊が怖いのではなく、幽霊になるほどの怨念に実感が持てないのだ。彼らはその意のままにカメラや生物の眼に姿を映す、映さないを選ぶことができる。声も同様だ。そして、触ることはできない。とても性能の高いステルス機能を備えた人格と言い換えてもいい。そして、それほどの利便性を備えるためにはとても強い執念だけが必要なのだと言う。それが陽奈には馬鹿らしいとさえ感じるのだ。死んでしまったものは死んでしまったもの。それ以上でもそれ以下でもない。だから、その死んでしまった人にもわざわざ構う必要はない。そう、感じるのだ。


「夏山陽奈さん?」

そんなことを考えながらソフィアの部屋まで歩いていたとき、誰かに呼び止められた。

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