(D)evil 白雪文成の事件簿

留部このつき

雪河智絵最後の事件

雪河智絵最後の事件:1

†新暦40年9月20日、東京都内全身義体専用総合病院アスクレピオス併設の宿泊施設に宿泊中の白雪文成の日記より抜粋


――この二週間、決まった夢ばかり見る。浦島太郎になる夢だ。でも浦島太郎のように老いを迎えるなどという『救い』は来ない。気が狂うような自責の念に苛まれたまま、地獄の果てで目を覚ます。起きても、今は地獄の果てと大して変わらない。私の油断のせいで仲間が死に、その日常を壊してしまったという後悔が、私の耳元で静かに歌う。目覚めた後は、孤独に飲み込まれるのだ。

雪河智絵。世界唯一の未来視という超能力者にして人類最大の希望。かつての私の名前。二週間前に目が覚めた時、ソフィーに八つ当たりして散々詰った挙句の私の選択は、雪河智絵としての人生を捨てて、全身義体になったとある男性『白雪文成』ぼくとして生きることだった。ただ、それも所詮は見せかけだ。何よりも雪河智絵として愛するサクの墓参りができなくなってしまう心苦しさから逃れられないだろう。それでいい。それで十分だ。ひとまずのところは、私を殺したNever Endsをなんとしても破壊するまで。この問題をどうにかするにはそれなりの努力が必要だから。それからのことはそのあと考えよう。私の視た未来は白雪文成としての人生をそれなりにエンジョイすることなのだから。

ソフィー。彼女は30年経った今でも間違いなく私の友人だ。世界全ての情報の監視者でもある。Never EndsNE開発者の一人にして、最初に造られたNEの一人でもある。彼女は自分の名前を冠したソフィー・システムを造り、人間と人造人間NEの通信全てを自らの「五感」で知覚している。その彼女の追跡を30年経った今でもかわし続けている、飛行機事故を起こして私を殺した張本人は果たして本当にNEなのだろうか。



†9月21日朝、アスクレピオス、白雪文成の部屋

『文成』

「ソフィー?わざわざ通信なんかしなくてもここに義体があるんだから来ればいいのに」

『そんな時間さえ惜しい。見つかった』

「何が?」

『あなたを殺した犯人の痕跡』

「すぐに行く」


†同日同所、ソフィーの部屋

身支度を急いで済ませた文成をソフィーが出迎えた。

「さっさと本題を言う。智絵、あなたを殺した犯人は、やっぱり日本にいた。しかもこの近く。停戦協定によって捨てられた軍事施設に籠ってる。通信施設も機器も全部捨てて、隠れ続けている」

文成ではなく智絵と呼ぶところにソフィーの高ぶる気持ちが垣間見える。

「どうやって突き止めたの?」

「捨てられた軍事施設なのに定期的にNEメンテナンスの業者が出入りしていることが分かった。よくよく確かめたら一つのメンテナンス業者が毎月決まった日に必ず来ているの。それも、あの事故の翌月から。いくらなんでもおかしいからよくよく探してハックしてみたらビンゴ。この戦争を引き起こしたらしい旨の発言を、スタンドアロンの個体がしたってことまで分かった。あとはその個体の30年前以前の行動を追跡してそれが事実であることを突き止めて終わり。本当ならもっと早くできたはず。私の甘えね。まだまだ精進が必要だわ」

「……30年前の記録がソフィー・システムにはあるの?」

「私が私を造った頃からの記録はほぼ持っているわ。ソフィー・システムが完成してからのは完全に全部。おかげで最近ちょっと『ダイエット』しようかなってくらい」

この人は、友人ながらちょっと引く。

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