第215話 やり残し

 場所は修練場。

 その中央には帯剣した僕の姿と、一対の魔剣を帯剣したコーデリア先輩の姿があった。


 加えて、後方へと視線を向けてみれば友人達の姿。

 更にはメーテやウルフ。テオ爺やミエルさんの姿なども確認できる。


 どうやら真剣勝負――文字通り真剣を用いることに対して友人達は不安を感じたようで、救護要因を兼ねた見届け人として、試合に立ち会って貰えるようメーテにお願いをしたようだ。


 だからだろう。



「致命傷に至ると判断すれば止めてやるし、腕の一本程度なら繋げてやる。

だから、遠慮することなく思う存分やり合うと良い」



 メーテは壁に背中を預けながら、物騒かつ心強い言葉を口にする。


 そんな中、他の皆はというと。



「二人とも~頑張ってね~」


「うひひっ、卒業式だっていうから覗きに来たけど運が良かったみたいね!」



 観戦に徹するようで、どこか間延びした声援を送るウルフと、楽しげに笑うマリベルさん。



「ほっほ。アルとコーデリア君の試合となると中々見ごたえがありそうじゃのう。

そうは思わんかミエル?」


「そうですね。第一席と第二席の試合ともなれば、学ばせて頂くことも多いのではないかと考えております」



 そう言ったのはテオ爺とミエルさんで、こちらの二人も観戦に徹するつもりなのだろう。

 テオ爺は顎髭を撫でつけながら好々爺然とした笑みを浮かべ、ミエルさんは真剣な眼差しを僕達へと送っている。


 

「コーデリア先輩! アルをぶっ飛ばしちゃいましょう!」


「ははっ、それは良いな。

コーデリア先輩! アルに土をつけてやって下さい!」


「にゃはは! アルが負けるところは確かに見たいかもしれにゃいな!

ってことで、ウチはコーデリア先輩を応援するにゃ!」


「ア、アルには勝って貰いたいけど、コーデリア先輩にも勝って貰いたいし……

ううぅ、どっちを応援すれば良いのかしら……」


「アルさんには申し訳ないですけど……

やっぱ同じ卒業生としては、コーデリアに花を持たせてやりたいって気持ちもあるっすね」



 更には、そのような声援を送る友人達。

 僕に対する声援が圧倒的に少なく、少しばかり辛辣な気がするのだが……きっと気のせいなのだろう。うん。


 まあ、それはさて置き。

 メーテに立ち会いを頼んだ際に話が広まってしまったようで、想定していなかった顔触れまでもが揃っている。

 とはいっても、全員が顔馴染みであることに加え、仮にも第一席と第二席が試合をするとなれば多少なりには興味を惹かれるものなのだろう。


 僕はそのように考えると納得するのだが……



「うおぉおお! まじだ! 本当に二人が試合するのかよ!?」


「すぐ帰らなくて良かったぁ! これ見逃してたら一生後悔するところだったぜ!」


「やべぇ! なんか分かんないけど鳥肌立ってきた!」



 正直、この状況は意味が分からない……


 観客席に視線を向けてみれば人、人、人。

 卒業生に在校生。更には卒業式を見に来た保護者や教員達の姿で観客席は埋め尽くされている。



「な、何でこんなことに?」


「わ、私にも分かりませんわ……」



 そのような状況の中、苦笑いを浮かべる僕とコーデリア先輩。

 そんな疑問を口にする僕達を他所に、観客席は異様な熱気に包まれ、怒号にも似た歓声が修練場に鳴り響く。



「つーかお前ら! 試合するなら大々的に宣伝しろよ!」


「本当だよッ! 第一席と第二席の試合なんて金払ってでも見たい試合なんだからな!

そこんとこ理解してんのか!?」


「そうだそうだ! こちとら今年の【席位争奪戦】のお預けを喰らってるんだ!

こんなおいしい試合すんなら俺達に知らせてからにしろってんだ!!」


「本当よ! 偶然学園の前通りかからなかったら見逃してたじゃない!」



 歓声の内容から察するに、人知れず試合をすることに不満があったのだろう。

 加えて、事件の影響で去年の【席位争奪戦】が中止されていたことも影響しているようで、観客達は鬱憤を晴らすかのように声を張り上げている。


 まあ、それは理解出来たのだが、どうしてこのような状況になったのかは謎のままだ。

 誰かが試合をする事を周囲に拡散したのが原因だとは思うのだが……


 そのように考え、ふと後方へと視線を向けてみると。



「ぴゅ~ふぅ~ふゅるふゅる」



 あからさまに目を逸らし、下手くそな口笛を吹いているダンテの姿が目に入る。

 その瞬間、元凶はダンテだということを理解した僕は、後で強めの肩パンをお見舞いする事を決めた。


 まあ、それは兎も角として。



「これだけ人が多いとやりにくいですよね? 場所を変えますか?」



 そのように考えた僕は、場所の移動を提案してみる。



「確かに人目が多いのは気になるというのが本音ですが……

この状況で中止なんかしたら……暴動になりかねませんわよ?」



 しかし、コーデリア先輩の答えは提案を否定するもので、もっともな答えでもあった。



「た、確かにそうですね……ということはやるしかない感じですよね?」  


「そうですわね。予定とは少し異なりますが……かえって好都合なのかもしれませんわね」


「好都合?」


「ええ、【席位争奪戦】――その雪辱を晴らす瞬間を見届けて頂けるのですから」



 コーデリア先輩はそう言うと剣を抜き、真剣な視線を僕へと向ける。



「真剣勝負を申し込まれた際に薄々気付いてはいましたが。

雪辱を晴らす……それがコーデリア先輩のやり残しだったんですね」


「まあ、雪辱を晴らす……というよりかは、もう一度本気の勝負がしたいというのが本音ですわね。

本当なら去年の【席位争奪戦】で――と考えていたのですが、残念な事に中止になってしまいましたし、正直諦めがついていた部分もあったのですが……

アルが『やり残し』なんて言葉を口にするから、フツフツとその思いが込み上げてしまいましたのよ?」


「と、言うことは……これは自分で撒いた種って事なんでしょうかね?」


「ええ、そういうことになりますわね。

と、いうことなのでアル、剣をお抜きになられたら如何?」



 剣を抜くように促すコーデリア先輩。

 僕は言われるがままに剣を抜くと、肩の力を抜き下段に構えた。



「あら、以外ですわね?

アルのことだから、てっきり嫌がるかと思いましたのに」


「ははっ……まあ、正直に言えば戦いたくないですよ?

人目が多いのはやっぱり苦手だし、傷つけるのも傷つけられるのも好きではないですからね」


「ほ、本当に正直に言いますわね……

では何故? ――と聞きたいところですが、それを聞くのも無粋なんでしょうね。

ともあれ、試合に応じてくれるようで安心しましたわ。

それと、分かってくれているとは思いますが……手加減は無用でしてよ?」


「ええ、それは分かってますよ」



 そうは言ったものの、やはり戦いたくないというのが本音だ。

 それでもコーデリア先輩の申し出を受けたのは真剣な眼差しや、旅立ちへの覚悟。

 そのような思いを知ったからで、燻ぶらせていた思いを受け止めたいと思ったからなのだろう。


 要するに、この戦いはコーデリア先輩に対する僕なりの手向けなのだ。

 やり残しを清算し、新たな一歩を踏み出して貰う為の。


 だから僕は――



「本気でやらせて貰います」



 手加減をするつもりなど欠片ほどなかった。


 そして、その一言が合図になったのだろう。

 僕とコーデリア先輩の間に緊張した空気が生まれ――



「上等ですわッ!!

【紺碧へと落とせッ――魔剣マルカイト!】

【恋慕が如く焦がせッ――魔剣ボウファス!】」



 魔剣の起動詠唱を口にすると共に、コーデリア先輩は僕との距離を一歩詰める。


 以前のコーデリア先輩であれば、起動詠唱と共に僕との距離を詰めに掛かったに違いない。

 だが、今のコーデリア先輩にとってソレはあくまで下準備だ。



「【引き摺り込めッ! より深い紺碧へと!】

【焦がし尽くせッ! 憎愛へと至るまで! ――平伏せよッ! 双魔剣ファマル!」



 その瞬間。

 キィインという甲高い音が鳴り響き、中空に青と赤の魔法陣が浮遊する。

 それはコーデリア先輩の努力の結晶。

 僕の目に映ったのは、魔剣の最終解放を展開するコーデリア先輩の姿だった。 



「待っててくれましたの? 斬り掛かったりはしないんですのね?」


「そ、そんな無粋な真似はしませんよ!

それに、全力を出さないまま終わるのはコーデリア先輩にとっても不都合ですよね?」


「まあ、それはそうなんですが…… 

というか、その言い方……如何にも負けないといった言い方ですわね?」


「ええ、負けませんよ」


「……アルの癖に言うじゃありませんか?

だったら! 私と! 最終解放した魔剣の力を見せて差し上げますわッ!!」



 コーデリア先輩は魔法陣を浮かせながら僕との間合いを詰める。

 以前見たことがあるのだが、青の魔法陣は切断に特化しており、赤の魔法陣は半自動で防御を請け負うといった優れものだ。


 加えて、コーデリア先輩の剣技も加わるとなれば脅威以外の何ものでも無く、大抵の者であれば為す術もなく打ち負かされるのだろう。


 だが、それは大抵のものであればの話だ。



「【水刃唐傘ッ!】」



 僕は瞬時に【水刃唐傘】を展開すると、コーデリア先輩に狙いを定めて放つ。



「!? 厄介な魔法を!!」



 その事により、足を止めたコーデリア先輩。

 傘の骨組のように展開された水刃――そこから放たれた複数の水刃を、剣による迎撃、又は魔法陣によって防いでいく。



「チイッッ! 本当に無茶苦茶ですわね!?

ですが、コイツで最後ですわッ!!」



 ついには、最後の水刃まで無傷で凌ぎ切ったコーデリア先輩。

 僅かに笑みを溢すと、再び僕との間合いを詰めに掛かろうとするのだが――そうは問屋がおろさない。



「でしたら二つ同時に相手にして貰います。【水刃唐傘――蛇の目!】」


「なっ!?」



 再び展開された【水刃唐傘】だが、先程とは様相が違う。

 今までの【水刃唐傘】の内側に一回り小さな骨組が展開されており、その様相は【蛇の目傘】を彷彿とさせる。


 要するに【水刃唐傘――蛇の目】という魔法は、外側と内側の骨組みから放たれる変則射撃。

 更に端的に説明すれのであれば、【水刃唐傘】を二倍にしたような単純な魔法なのだが……

 物量の差というのは単純であり、絶対だからこそ覆し難いものだ。

 大抵の者であれば、物量差に押されてしまい早々に根を上げることになるのだろう。


 だが、またコーデリア先輩も【大抵の者】という言葉を当て嵌めることが出来ない存在なのだろう。



「本当に! 本当に厄介ですわねッ!」



 そう言いながらも確実に。そして的確に【水刃】を防いでいく。



「さ、流石ですね……」


「お褒めに預かり光栄ですわ! なんなら追加注文して差し上げてもよろしくてよ?」



 感嘆の声を漏らす僕に対して、不敵な笑みを浮かべるコーデリア先輩。


 とはいっても、徐々に物量差に押され始めているようで、コーデリア先輩はじりじりと後退を始め、白い肌に細かな傷を作っていく。


 そして、そんなコーデリア先輩の姿を見た僕は、心苦しさを感じてしまう。

 それもそうだろう。女性であり大切な友人に傷を負わせているのだ。心苦しくない訳が無い。


 だが、手加減して中途半端な魔法を使用した場合、容易に間合いを詰められてしまうことが想像できる。

 加えて間合いを詰められてしまった場合、剣の質や剣技の差により、優位性を失うことも明らかだ。

 手加減しないと決めた以上は、距離を取って戦うのが最善の手段なのだろう。


 しかし、そんな僕の考えを他所に――



「このままじゃジリ貧ですわねッ! だったらッ――!!」



 【水刃】が飛び交う中、前傾姿勢を取るコーデリア先輩。



「なっ!? 無茶苦茶ですよ!!」


「無茶は承知ですわッ!!」



 余程、この試合に対する思いが強いのだろう。

 前方に魔法陣を展開すると、被弾をものともせずに間合いを詰めに掛かった。



「ぐっ!? いったあぁああああいッ!!」



 その結果、二発程被弾してしまい、肩と太ももに穴を開けることになったのだが……



「はっ! 捕らえましたわよ!!」


「くっ!」



 その甲斐も在ってか、間合いを詰めることに成功したコーデリア先輩。

 頬の切り傷から流れた血を舌で舐めとると、見た目や喋り方からは考えられないような獰猛な眼差しを向け、それでいて楽しげに口角を上げた。


 そしてその瞬間、僕は理解する。


 僕は全力で戦うことがコーデリア先輩への手向けであると考えていた。

 だから最善の手を選んだし、本気で勝ちにいこうとしていた。

 そうすることで、勝敗は別としても燻ぶった思いだけは取り除けると思ったからだ。


 だが、それは間違いだったのだろう。

 手向けであるだとか、最善の方法だとか、燻ぶった思いを取り除くなどという感情は無粋なのだ。 


 この場、この状況に置いて、それらの感情は不要であり不純物でしかない。

 ただ単純に、コーデリア先輩との戦いを楽しむ。

 それが重要であり、それ以外は必要ないのだろう。


 そのような答えに辿り着くと、僕の口角も自然と持ちあがる。



「コーデリア先輩に対する理解が足りませんでした!

ですが、今追いつきました! この勝負、思う存分楽しみましょう!」


「今? それは遅い到着ですわねッ!

申し訳ありませんが此処は私の間合いッ! これからは私の舞台でしてよッ!」



 その言葉が本当の合図だった。

 僕はコーデリア先輩の間合いで剣を振るう。


 それは馬鹿な行為で、【魔力付与】を施してるとはいえ、剣の性能差を考えれば自殺行為であることも理解している。

 しかし、それでも僕は距離を取るような真似をしたくなかった。



「つッ!」



 剣が頬を掠める。



「熱っ!?」



 前髪が魔剣の熱で焦げる。



「があっ!?」



 薙がれた剣先が脇腹を裂き、服が血でべとつく。


 それでも尚、この間合いから逃げ出さないのはコーデリア先輩という存在。

 真っ向勝負をしたいと思わせる魅力に囚われてしまったからだ。


 そして、それは今までコーデリア先輩と試合をしていた人達も僕と同じ気持ちだったに違いない。

 だからこそコーデリア先輩の試合は真っ向勝負になることが多く、だからこそ観客達を惹きつけ魅了するのだろう。

 そう。初めてコーデリア先輩の試合を見た時の僕がそうだったように。



「アル! 剣が鈍っていますわよ!」


「そう言うコーデリア先輩も随分と鈍ってるようですけど? 



 裂かれた腕が痛い。



「ぐっ!? やりますわね!?」


「さっきのお返しです!」



 裂かれたわき腹が痛い。



「避けられた!? かはッ!?」


「虚を突いたようですが、足の向きでバレバレです!」



 貫かれた肩が痛い。



「くっ、本当に魔剣ていうのは厄介ですね!?」


「む、無詠唱で上級魔法を連発するあなたよりはマシですわ!」



 焦がされた首筋が痛い。


 激しく火花が散る中、激しい痛みを憶える中。

 本当に何故だか分からないが、それでも僕は笑みを浮かべていた。


 そして、それはコーデリア先輩も同じなのだろう。



「あはっ! 楽しい!! 楽しいですわッ!!

アル! これからの三年間で私はもっと強くなってみせますわ!

だから楽しみにしていなさい! その時は絶対にアルに勝ってみせますからッ!!」



 柄頭が直撃した事で、瞼が腫れあがっているというのに満面の笑みを浮かべていた。


 しかし、そんなコーデリア先輩なのだが……

 恐らく、自分の限界が近いことを理解しているのだろう。

 まるでこの試合が、間もなく終わりを迎えるかのような言葉を口にしており――



「はい、三年後を楽しみにしています。その時はまた勝負をしましょう」


「ええ、そうですわね……

次こそは……負けません……わよ?」



 僕の左拳が、コーデリア先輩の鳩尾を捕らえた事で現実となった。


 意識を分断され、僕の胸の中へと崩れ落ちたコーデリア先輩。 

 その瞬間、観客席から割れんばかりの歓声が上がる。



「すげぇ!! すげぇ試合見ちまったよ!」


「コーデリア先輩! 格好良かったですよ! 卒業しても頑張って下さいね!」


「アルディノも凄かったけど、コーデリアも凄かったぞッ!!」


「コーデリア先輩!! 私もコーデリア先輩みたいなれるよう頑張りますからねー!」



 歓声の多くは、コーデリア先輩に対する称賛の声。

 勝者よりも敗者への歓声が大きいのは、これまでコーデリア先輩が成してきた功績。

 学園メルワ―ルで積み上げてきた人徳ゆえなのだろう。


 そう思うと自分の事のように嬉しくなり、コーデリア先輩を運ぶ為に抱きかかえた僕は笑みを溢したのだが……



「アルてめぇ!? コーデリアたんに何をしてくれちゃってんの!?

お前アレだからな!? 遠征から戻ってきたらぶっ飛ばすからな!! 覚悟しとけよ!?」


「ちょおっ!? お、おかしくない!?

な、なんで私の時は小脇に抱えた癖に、コーデリア先輩はお姫様抱っこなのよ!?」



 仕事を抜けだして来たおっさんとソフィアの主張の所為で、微妙な苦笑いへと変わってしまうのだった。






 そして翌日。

 コーデリア先輩は早朝の馬車で学園都市を発った。


 暫くのお別れとなるのだ。

 当然、僕達はお見送りをすることを決め、馬車の出る冒険者ギルド前へと集まったのだが……



『おぉんアル!? 昨日の今日で良く顔を出せたもんだな!?

顔を出したって事は、ぶっ飛ばされる準備は出来てるんだよな!? あぁん?』


『オ、オーフレイム叔父様! 昨日の試合はわたくしがお願いしたって説明したではありませんか!』


『だとしてもだ!! こんな可愛いコーデリアたんの顔に傷つけやがって!!

お嫁にいけなかったらどう責任……あれ? コーデリアたんていつかお嫁にいっちゃうの!?』


『は、はぁ!? な、なにを言ってますの!?』


『嫌だ! 嫌だよ!? 叔父さんそんなの嫌だよ!?

コーデリアたんはずっと独身でいよう? ねぇ? そうしよう!?』


『オーフ! なにを馬鹿なこと言ってるの!

ていうか、暫くのお別れになるんだからちゃんと挨拶をさせてあげなさいよ!』


『う、うるせぇカルナ! 

そんな事より問題なのは、コーデリアたんが嫁にいくかどうかでしょうがッ!?

ねぇ~コーデリアたん。お嫁になんかいかないよね!? 行かないって言ってよ?

そうしないと叔父さん拗ねちゃうよ?』


『さ、流石に引きますわぁ……』



 勝手に拗ねたら良いと思うし、取り敢えず頬を膨らませるのをやめろ?

 まあ、頭のおかしいおっさんの発言の所為で、碌なお別れの言葉を交わすことが適わなかった訳だ。


 だが、そうなることを見越していたのだろうか?

 いや、元から用意してくれていたのだろう。

 別れの言葉の代わりに、出発間際、コーデリア先輩から【黒白】宛ての手紙を手渡される。


 その手紙には短い文章で――



『迷宮都市で会えるのを楽しみにしていますわ。

大切な友人であり、仲間である貴方達に幸があらんことを』



 再会の言葉が綴られているのであった。

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