第百五十四章 同 盟
「そこで村上 義清氏と合同作戦を持ちこむにあたり、村上家とどのような関係を築くか検討いたしたく存じます」
「一時的な関係か永続的な関係を結ぶのか、ということじゃな」
「はい、同盟をむすんで友好関係を継続するか、信玄を倒すだけの一時的な協力で済ませるか、との問題でございます。後者をえらぶと、いずれ敵対関係になり戦さとなります」
「仮にうまく信玄を倒したとしても、こちらは甲斐の国など関わりたくないのう」
「彼の地は山間地で平坦地が少なく、寒冷の差がはげしく稲作に不向きな土地柄でございます。税は鎌倉の世から米の上納をあきらめ絹や糸に特化するほどです。大河がなく海に面していないので物流が発達できず、商業も低調でまずしい国でございます」
「甲斐の国に関わりを持つと、こちらの持ち出しが多くて、入ってくる実入りは少ない、という悪循環に陥りかねませんぞ。まこと触らぬ神に祟りなしじゃ」
「甲斐は米の生産高が低いのに、あれだけの兵をよく動員できると感心しておる」
「兵になる方が手っ取り早く金を稼げるし、たらふく飯を食べられるという側面があるのでしょうね」
「では後継者は自分の国に閉じこもっていては、じり貧になるのが目に見えている。どうしても外へ活路を見出さざるを得ないわけじゃな。信玄がいなくなっても構図は変わらんわけか」
「誰が跡を継ぐにしても、信玄ほどの政治力、知略、軍才をもつ人物が現れるとは思えません」
「誰がなろうと、こちらは油断せず隙をつくらぬことじゃなあ」
「北条家が手を出してくる可能性はどうでありましょう」
「たしか長男の義信は、今川 義元の娘を正室にむかえ、後ろ盾はしっかりしておる。北条家もうかつに手を出せんじゃろ」
「いずれにしても、東へむかったら泥沼の戦さに巻きこまれます。ここはしっかりした緩衝地帯をもうけて南へ向かいところでございます」
「ともあれ甲斐との国境いの城を拡張し防御をしっかりと固める必要がある。村上にそれだけの才覚と財力があるか心配になってくるな」
「甲斐へ攻め込むほどの甲斐性があれば安心できますが、後ろからしっかりと支援する覚悟をしておく必要がございましょうね」
「武田も今川家の応援を得て、弔い合戦と張り切るやもしれんぞ」
「今川 義元の目は西へ向いています。こちらが甲斐へ侵攻するならともかく、国境いを固めておれば、応援しても付き合い程度でありましょう」
「武田を甲斐へ押しもどして蓋をするとなると、諏訪を確保せねばならぬな」
「はい、中信濃を南進して木曽を制圧するためにも、諏訪は横っ腹を突きさす短剣のような位置にございます。この地は何としても勢力下におく必要がございます」
「信玄を倒した勢いで、そのまま南へくだり諏訪を攻略する手があるのう」
「武田の大混乱に付けいって一気に攻め込む策もあわせて練っておきまする」
「では村上氏と同盟をむすんで友好関係を結ぶことで宜しいですな」
とうめん最大の目標は信玄を倒すこと、これを達成すべく全力を集中して注入する。三人の意見は一致した。
「どのような取り決めにいたしましょうか」
「向こうは家が存亡するかの瀬戸際に立っておる。弱みにつけ込むわけでないが、こちらが主張すべきことをハッキリ示して交渉いたそう」
「まず譲れないのは南進する経路を確保することじゃなあ。善光寺平がある千曲川の左岸は中信濃へ通ずる道を確保するため絶対に必要になる。ただ高梨家があるのは千曲川の右岸じゃったな」
「諏訪の地が手に入ったら村上家へ渡すかわりに、こちらは善光寺平すべてを手に入れる条件もございますね。」
「武田の矢面を村上に押しつけるとは、お主も人が悪い」
「村上が武田と
「じゃあ、こちらは最悪の事態を想定して対処しておこうぞ」
「弟であられる矢沢家が支配する真田郷は安堵されましょう。ただ懸念するのは、武田家の重しが外れると、北条家が一気に関東勢力を拡大いたすことです」
「その恐れはわかるが、いま多面作戦をするほど越後の国力はない。下手をするとアブハチ取らずになりかねないぞ」
「そうですね、武田の実力を見極めないかぎり、そちらへ手出しはできませんね」
「反北条の旗頭となりそうな めぼしい大名と、今から
「
「村上氏と会見するのは、どのような手づるでいたすのか」
「さいわい軍師殿の弟である矢沢氏が、村上氏とひそかに連絡を取り合っております。会見場所は双方の間にある善光寺の宿坊を借りておこないたいと考えております」
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