第九十九章 砂鉄その二
「実は蝦夷地にも大量の砂鉄が眠っております」
「ほう、蝦夷地か。寒くて遠き所よな。アイヌ人が住んでおると聞いておるぞ」
「まさしく、アイヌ人が支配する土地でございます。ただ南西部の先端部を蠣崎氏が治めております。アイヌと長らく戦ってきましたが、七年前に和睦して『
「今は平穏ということか」
「内実は分かりませぬが、表だった争いは起きておりませぬ。ただ法度が問題でございます。蝦夷地には和人が立ち入らない旨の約定がございます」
「砂鉄は蝦夷地の方に埋まっておると、いうことですな」
「左様でございます。前に日本全土の地図をお渡しました。ちょっとお見せ願います」
「この南西部の先端にある松前に、
「その法度は蠣崎とアイヌ人が結んだものじゃな。朝廷や将軍家が立ち会っているなら国との約束、われらも拘束されましょう。われらは蠣崎と何の関係もござらん。二者の間でとりきめた約定は互いを縛るだろうが、他者には効力が及ばぬと考え致すが如何かな?」
「そうですね。関係のない われらは法度など あずかり知らぬこと。蠣崎氏に仁義をきる筋合いもございませぬ。ただ無用な摩擦を引き起こす必要もないので、一気に海峡をわたって目的地へ向かいます」
「蠣崎もあとで知ったら地団駄踏んで悔しがるだろう。しょうらい一揉め起こりそうじゃな」
「実はアイヌ民族は蠣崎の苛烈な政策に何度も反乱を起こしています。もともと自然に生きる平和的な民族といわれています。ここを拠点にしてアイヌ人と共存する経験をつむことは将来おおいに役立ちます。しょうらい海外の先住民と共存共栄するための試金石となります。」
「北海道の西海岸はニシンが大量に遊来します。ここへ進出することで乄粕の供給は
わが越後の独占場となりましょう。蠣崎を取りこむのか滅ぼすのかは、若さまのお考え次第でございます。いずれにしても蠣崎のアイヌ政策を根本から直さねばなりませぬ」
「乄粕がドンドン売れておるようじゃのう。お主が取り寄せた木綿が順調に育っておるようだ。おかげで布団も手に入った。一度これに寝ると、もう手離せぬぞ」
「木綿は肥料をくいますので、乄粕の需要はますます増大します。越後の特産物として移出して、財政を大いに潤してくれましょう」
「木綿で織った布地は肌触りといい、丈夫さといい、これまでの織物と比べものにならぬ。大量に製造して値段をさげると、これも越後の名産になるのう」
「越後上布は高級品、木綿は一般向けとして棲み分けて売り出してゆけます。北海道の話しが出たので、船の帆は
「二人が話しはじめると、余が口をはさむ暇もないのう。聞いていて楽しいわ。二人の意見もっともである。蝦夷地に拠点を設けるのは、今はどう考えても無理じゃ。取りあえず必要な量を採取して引き上げることでどうじゃ」
「仰せは至極もっともでございます。短期間で戻るために集中して動員したいと考えます。すぐ計画書を提出しますので ご検討ねがいまする」
標準的な火縄銃の重量は四キロほど。木部も含まれるが計算し易いので、この数字を使う。三百挺を目標とすると千二百キログラム。砂鉄にふくまれる鉄分の含有率を少なめにみて二割とすると六トンが必要になる。
縦六十センチ、横四十五センチの麻袋で、八分目まで詰めると三十キロの重さになる。これは一般の土なので比重は 1.9 くらい。砂鉄の比重は 2.2 多目にみて三割増しで計算すると一袋四十キロになる。百五十袋で賄えるが多目に二百袋を用意する。 品質がよくて比重が高ければ、麻袋さえ丈夫なら数は減る。
表土めくり、熊笹が繁茂しているだろう。木が生えていたら、根回りは手がつけられない。一メートルくらい掘削して砂鉄層を露出。砂鉄の層は一メートルから二メートル五十センチほどと推定している。平均すると一メートル六十センチ。
海岸線から山の裾まで七百メートルほどの狭隘な平地が三十キロほど続いている。六トンの砂鉄は比重が 2.2 なので、二千八百立方メートルほど。深さが一メートル六十センチなので、千八百平方メートルほどの広さが必要となる。単純に四十三メートル四方だ。こんな狭さで十分なのか?どこかで計算違いをしているのか。
これなら二十一人が一列に並んで二メートルの幅を受け持てば良い。掘る人を倍にみて四十五人。運搬する人は二人一組で二十人。二人で棒に吊して肩で担ぐ。警固を含めて百人で十分だ。最後に埋め戻しがくる。役割を半日ずつのローテーションを組んで作業を平等にする。
雨天を考慮しても十日あればお釣りがくるだろう。北海道は五月が雨が少ない。掘り出したら一気に片付けねばならぬ。水たまりが出来たら別な場所で一からやり直しだ。こうなるとピンポイントで砂鉄の層を指示しなければならない。
概略の計画書をまとめて提出した。いまの段階で生産拠点として恒常的な施設を建設することは無理としても、ふきんで居住しているアイヌ人と友好関係を結んでおきたい。
できるところから準備に取りかかった。来年の四月に五百石の北国船を二艘チャーターするよう九郎殿に予約した。通訳の手配も一緒にお願いする。麻袋の二百袋も手配する。
これは
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