遊び人の冒険日記(仮)

小曽川ちゃこ

4月

4月〇日

家の中でマンガを読んでいたら、親がめっちゃキレて、働きなさいと言うので、仕方なく就職先を探すことにした。

前から家業を手伝えと言われていたが、仕事先でも家族と一緒、というのがめんどくさいので、外に働きに行くことにする。

明日からがんばるぞー。おー。


4月●日

吾輩は遊び人である。名前はまだない。

なぜなら、先程この冒険者登録所で本名を記入したのだが、ルピーダとか言う女主人に、「本名あっても、雇い主ちゃんが勝手に呼ぶこと多いから、がっかりしないでねん♥」とウインク付きで曰われたからだ。

「いいともレィディ、好きに呼ぶといいさ」

とカッコつけてはみたものの、内心変な名前をつけられたら無視してやろうと思っていた。


4月◎日

昨日職に就いたと言ったら豪勢にお祝いされてしまったので、「職には就いたけど勤め先はまだないのさ」と言い出しにくくなってしまった。

仕方なく、冒険者登録所に隣接した酒場で暇つぶし。

隣の席の商人みたいなおじさんが、ずっとものすごい勢いで貧乏揺すりしていた。

儲かってないのかな。

とりあえずうるさくて目障りなので、こちらもまけじとテーブルを連打していたら、貧乏おじさんに怒られた。

世の中は実に理不尽だ。


4月☆日

遊び人になったので、遊び人としてのスキルを磨こうと意気込んでみる。

カジノは元手がないので却下。

仕方ないので他人の精神力を奪う感じの踊りでも練習してみる。

前にどこかで見たことあるのを思い出しながら、酒場の近くの公園でくねくねしていると、砂場で遊んでいたちびっこ達が一緒になってくねくねしだした。

「遊び人は不思議な踊りじゃなくて誘う踊りを覚えた!」

と、どこからかナレーションが聞こえた気がした。



4月゜日

今日も酒場。そこそこ混んでたので相席。先に座っていたいかにも魔法使いな老人が、ぷるぷるしながら微笑みかけてきた。

「わしは魔法使いのピーライじゃよ。もうじき勇者ロピーと旅に出るんじゃ。お前さんは見たところ遊び人のようじゃが、もうパーティーは組んどるのかね?」

まだですと答えると、老人は「いい雇い主に会えるといいのう」と月並みなことを口にした。なのでこちらも月並み通り、「あなたの雇い主はいい人ですか?」と尋ねてみる。

すると老人はふっと笑って影を滲ませた。

「いい人…なんじゃろうな」

さすがご老体、興味を引く話し方を心得ている。

反芻するように尋ねたが、店内アナウンスでかき消された。

「魔法使いのおじいちゃ〜ん!勇者ロピーちゃんからお呼び出しよ〜ん」

「おや、呼ばれたようじゃ。ではな」

ご老体は席を立ち、別れを告げたが、なんとなく気になってこっそりと後をつけてみた。

受付前のロビーに、戦士と僧侶と勇者っぽいのがいて、先程のご老体がそちらへ挨拶しながら歩み寄る。

勇者…ええと、ええと…ま、いっか。勇者は凛々しい顔立ちながらも、無表情で無口な感じだった。

隣の戦士がいかにも戦士っぽく熱血な意気込みで、「さあ、行くぞ!」と檄を飛ばし、勇者はこくこくと頷いていた。

暇なので、そのままパーティの尾行を続行。

青いぷにぷにの魔物をみんなでやっつけるのを見守り続け、小一時間。

さすがに僕も違和感に気付く。

「いけ!おじさん!」

「頼んだ、おじいちゃん!」

「お兄さん、こっちだ!」

無表情に指示を下す勇者は、仲間をずっとそう呼んでいる。

僕も青いぷにぷにをぷにぷにしながら、ははーん、と閃いてしまった。

これはもうあれだよね。

名前、だよね。

寂しげに笑ったご老体を思い出しつつ、ぷにぷにしながら思うのであった。

あの勇者、雑だな~。


4月▽日

次から次へと湧いてくる青いぷにぷにを一生懸命退治した。


4月◇日

青いぷにぷに退治。


4月■日

今日はちょっとしたハプニング!で興奮!

崖っぽいとこ歩いてたら、勇者が滑落した。

「ロピー!」

「助けてくれ、おじいいいいいいいいいい」

「どっち!?」

雑な命名するから~、とぷにぷにをぷにぷにしながら思った。


4月※日

大きな栗の木の下で、勇者ロピーが3人に怒られている。

前日の名前の件で、おじいちゃんとおじさんは紛らわしいからやめるように、ついでにお兄さんもやめて、ちゃんとした名前を付けるように、特に僧侶にガチ説教されていた。

「…でも呼びやすい…」

「そのせいで昨日大怪我したでしょ!?」

「もう怪我しないから~!」

「ダメです!結局面倒見るのは僕らでしょ!?」

「ちゃんと呼び分けるから~」

「ダメです!ちゃんと名付けてらっしゃい!」

どこかで聞いたことのあるような感じのやり取りの後、しぶしぶという空気をフルスロットルで勇者ロピーが町へ引き返した。

「ごはん」「御御御付」「漬物」という名前にしようとする勇者ロピーとなんとか修正し、「ゴリ(戦士)」「オジー(魔法使い)」「ジュウト(僧侶)」に落ち着いた。

3人としてはまだ不満があるようだったが、前のよりはましか、と留飲を下げた。

そして勇者ロピーは、受付カウンターから不意に僕を振り返った。

ばっちりと目が合う。

「おまえは」

勇者ロピーはちょっと考え込んでから、ずいっと人差し指を向けた。

「ニート!」

その辺りでようやく、僕も3人も我に返った。

「ちょっと待って!それ名前?あの彼も仲間にするってこと!?」

「あ!おぬしはこないだの」

「なんで急に!?」

急に、じゃない。勇者ロピーは気付いていたんだ。僕が尾行していたこと。

なんだかおかしくなって、僕は頷いた。

「いいよ、ニートで」

「よし」

「いやいやいや、よし、じゃないから!てか、君も考え直しなよ!ニートだよ!?」

「じゃあ、ニートゥ」

「いいね!」

「どっちもバカだ、これ!」

そんなこんなで、僕も今日から勇者ロピー一行の仲間入り。

でも戦闘は枠がない、とかなんとかよくわからないしすてむの事情とやらで、とりあえず今まで通りなんとなくついていくことになった。


4月‐日

今日もぷにぷに退治。


4月☆日

今日もぷにぷに退治。


4月#日

今日もぷにぷに。


4月▲日

今日もぷにぷに。

あ、ちょうちょだ。


4月♪日

久方の 光のどけき 春の日に しず心なく ぷにをぷにらむ

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