Chapter.3 茉莉香と鷹丸 と、雅人

幕間3

 2020年代後半の世界は、思った以上にバラ色の未来だ。


 10年代に突如として登場した全没入型VR技術『電脳潜行』は、その機構のブラックボックスさにもかかわらず、あっという間に普及し、人類に新たな世界『情報海オーシャン』を開いた。


 そこは行き止まりが見え始めていた工業・商業の分野に新たな市場を生み出し、健康寿命を引き上げ、全盲・弱視・聾唖ろうあ・難聴・色覚異常・ディスクレシア・各身体障害に克服の道筋をつけた。さらに末期患者の緩和ケアにも採用され、認知症の治療にも効果が認められている。


 無論、悪い部分もないわけではない。


 世に言う『SCP事件』など、まさにその最たるものだ。だが、技術の進歩は止まらない。その功罪と、人類は常に立ち向かい続けなければならないのだろう。


 なんにせよ、基本的にはみんな楽天的に、昨日より良い今日が来る日々を享受している。電脳潜行は、まさに新たな産業革命だった。


 そんな中で、潜行障害者たる俺がどんな生活を送っているのか、そんなことをつらつらと語っていくわけだ。


 どうも内容が暗くなりそうだから、ここらでテコ入れとして、ラブコメ要素をフィーチャーしていこうと思う。


 時代がどんなに変わろうとも、人類の一大関心事は、未だに惚れた腫れたの恋愛だ。俺も『君の名は。』は大好きな映画だ。


 ああいう劇的なラブストーリーがやってくればいいのだが、残念ながら、これから話す色恋沙汰も、俺の話ではないのだ。


 ここでもまた、“本編主人公”の力を借り、俺はその隣でニヤニヤそれを眺めている脇役に徹している。


 ……そんな顔をするな。


 恋愛は、するより見る方が楽しい。


 俺の場合は。

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