花束 -short stories-
RIRI
『イベリス』①
誰にでも貼り付けたような笑顔で接する人は苦手です。
表では優しく接してるくせに、裏では何を考えているのか分からないからです。
けれど私は、いつも仮面のような笑顔の貴方が、気になるようになってしまいました。
他の人とは何か違うと、感じたからです。
朝。
私が教室へ入ったころには、もうほとんどの生徒が登校している。
鞄から教科書やノートを出して引き出しに仕舞い、自分の席に着いたちょうどその頃、私の隣に鞄をドサっと雑に置く音が聞こえた。
慌てて隣を見ると、隣の席の成瀬くんが気だるそうな表情で椅子を引いていた。
成瀬くんは、驚くほど整った顔立ちで長身。髪は一切染めていない綺麗な黒髪で、声は低く、少しハスキーで甘い。
もちろん、女の子からの人気は高いから、隣の席の私は、何かと女の子たちから睨まれているんだけど……。
隣の席だし、挨拶した方がいいよね?そう思って、勇気を出して口を開く。
「成瀬くん、おはよ——」
「成瀬、宿題で分かんないとこあるの。教えて?」
「成瀬~。今日、髪型変えてみたんだ!似合う?」
私が「おはよう」と言いかけたところで、クラスメイトの女の子たちが成瀬くんの周りに集まって来た。
まただ。また、成瀬くんに挨拶しようとしたら、遮られた。
毎日こんな感じで、他の女の子たちが邪魔してくる。
「分かんないとこって?オレで良ければ教えるよ」
「髪型変えたんだ?雰囲気、いつもと違って良いね」
ひとりひとりに、丁寧に返事する成瀬くん。その顔は笑顔だけど、どこか貼り付けたような作り笑い。
この笑顔を見ると、成瀬くんが怖くなる。本当は、心の中で馬鹿にしてるんじゃないかって。面倒だと思ってるんじゃないかって。何を思っているのか分からない、成瀬くんの笑顔。
そう思っていたら、成瀬くんが思い出したように私の方を向いた。
「北川、おはよう」
私に向けられたのは、いつもと同じ顔。誰にでも見せる貼り付けたような笑顔。
それでも、私が挨拶してた声に気づいてくれたことが何だか嬉しくて、不思議な気持ちになった。
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