雨が止むまで

@maisenrin

第一話 電話

               ~プロローグ~

 雨が降っている。

失ってしまった。もう二度と取り戻せない日々を流して忘れてしまえと言うように。

 雨音が聞こえる。

永遠に聞き続けていたかった、あの声を、音を、吸収してしまうように。

 雨粒が体に当たる。

私の涙を、表情を、誰にも見られてしまわないように。

                ~本編~

 朝が来た。日が昇り、小鳥がさえずり、生き物たちが活動を始める、朝が来た。何度目だろう?あなたを失ってしまったあの日から、いったい何度目の朝だろう。

前は目を覚ませば、隣にあなたがいた。居間にいれば、あなたが起きてきてくれた。名前を呼べば、あなたが返事をしてくれた。でも今は、目を覚ましても、居間にいても、声を出しても、何をしてもあなたはどこにもいない。

 テンテテン♪テテテテンテテン♪ふと、私の携帯から聞き慣れたメロディーが流れ出した。何度も何度も聞いたメロディー。でも、あなた用ではない。当たり前だけど。

着信音を聞いていたら、また、あなたのことを思い出して涙が出た。これも何度目だろう。涙が止まってから電話に出ようと思って泣いていたら、私が泣き止むより先に電話の方が先にやんでしまった。私を泣かせたくせに・・・・。そんなことを考えながらまた泣いた。涙が止まるまで。あの日から降り続ける雨が止むまで。

-------------------------------------

 朝だ。朝が来た。特に特別でもない、いつもの、朝。ベッドから降りてカーテンを開けてみれば昨日と同じ雨。ザーザーと鬱になるくらい降り続けてる。「これで何日目だ?」空を見上げながら考える。ちくり、と胸に何かが刺さる音がした。「そうか。あの日から、ずっとか。」ぼそりと呟いて、何かにせかされるように、焦燥感にかられながら、机の上の携帯を取って彼女に電話をかける。雨と同じようにあの日から出てこなくなってしまった、彼女に。

 ぷるるるるる、ぷるるるる・・・。結構長くかけてみたが、やはり彼女が電話に出ることはなかった。私は仕方なく電話を切る。そしたまた、携帯を机に置きながら思った。「やっぱり、何も変わらない、いつもの朝だ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨が止むまで @maisenrin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る