21 もふもふになる女騎士がかわいすぎる件
「「いや、結構です」」
ライトナさんの申し出を、僕とカレンさんは息ぴったりのタイミングで断りをいれました。
さっきの、カレンさんが増えれば関連の発言は、言うなれば『猫の手も借りたい』的な意味であって、本当に増殖したらいいな、という気持ちではありません。
「え~、なんでさ。せっかくまた面白いことになると思って開発したのに。ねえ、マドレーヌ?」
「……私に話を振らないでもらえますか、師匠」
どうやら思い当たることがあったようで、マドレーヌさんが苦い顔で眉間を押さえていました。
「マドレーヌ、まさかお前まで私の体をいじくりまわそうとしていただんなんて……!」
「っ、カレンも人聞きの悪いこと言わないで。私はアンリと一緒に
しかし、騎士団でも指折りの頭脳三人(うち二人ちょっと怪しい)が共同で開発したカレンさん増殖法とは……やるやらないは別にして、ちょっと気になるかも。
「! ああ、増殖するっていっても、文字通りカレン君の肉体をもう一つ増やすって意味じゃないよ。分身をつくる、って言ったほうがより正しい表現になるかな?」
「それでもいまいちピンときませんけど」
分身というと、例えば敵の狙いを欺くために、魔力やその他の道具で実体のない幻を作ったりする人もいます。僕やナツなど、魔力主体を用いた接近戦を得意とするやり方です。
ただ、分身はあくまで幻。実体はないので、振りはできても、直接相手へ攻撃を仕掛けたりすることはできません。
「――というわけで、カレン君の分身となる、その『完成品』をちょうど持ってきたわけだが」
「……ん?」
ライトナさんが懐から取り出した『それ』に、僕は首をかしげました。
ぱっと見は変なものではまったくありませんが……どうやって『それ』をカレンさんの分身とするのでしょう。
× × ×
そうして迎えた出発日。
結局、シールさんとともに行くメンバーは変わりませんでした。現時点では、カナメさんと僕を中心にした第二分隊のメンバーにナツを加えた数名と、そしてカレンさん。
あ、もちろん、このカレンさんは本物のカレンさんではありません。本人は自分の仕事があります。最後まで本人が行くことにこだわっていたのはここだけの話ですが。
「お待たせ、ハル。……ごめん、ちょっとバタバタした」
出発の準備をすべて終えたところで、マドレーヌさんが小走りで僕のもとへと駆けてきました。言葉の通り、かなり焦っていたのか髪がボサボサで、魔法衣もただ肩に羽織っているだけの状態で、その下は寝間着です。
「コイツったらなかなか言うこと聞かなくて……とんだじゃじゃ馬よ」
マドレーヌさんが抱えているのは、少し大きめの荷物袋――なのですが、
「ぴーっ! ぴー!!」
そんな鳴き声を上げながら、中でものすごく暴れています。マドレーヌさんも必死に大人しくさせようとしているのですが、収まる気配がありません。
「ハル、一応言っておくけど、取り扱いには注意してね。コレ大分獰猛に仕上がっちゃったから」
「大丈夫です。いつものことですから」
頷いて、マドレーヌさんが厳重に縛っていた荷物袋の紐を緩めると、すぐさま黒い影が僕めがけて飛び出してきました。
「ぴー! ぴぴー!」
一目散に僕の胸に顔をうずめてきたのは、もふもふの真っ黒い毛で包まれたつぶらな瞳の小動物……と言いたいところですが。
これ、実は生物ではなく作り物――つまりはぬいぐるみなのです。
しかも、カレンさんの部屋に置いてあった私物。
「ぬいぐるみにカレンさんの生命エネルギーを大量に注ぎ込んで、自律的に活動する分身とする……ミライさんの人形使いの能力だけど、まさか本当に再現しちゃうなんて」
僕にはさっぱりの原理ですが、中身のほうは、帝国で今も活動を続けている木人形のキャノッピに近い構造だそうです。
ただ、あちらに較べると、この黒いモフモフは随分と忙しなく。
「カレンの力を注ぎ込んだ途端にこうなっちゃったわ。そいつ、多分ハルの言うことしか聞かないから注意してね」
「ぴぃ、ぴぃ~♪」
宿主の気持ちが表に出過ぎたのか、黒いモフモフは、僕の腕に抱かれた途端に、甘い猫撫で声を出し始めました。
まさしくカレンさん二号と言って差し支えないでしょう。
「……おい、このケダマ。いい加減私のお兄ちゃんから離れろ。お兄ちゃんの胸は妹の特等席って、昔から相場が決まっているんだ」
「びぃぃぃ……!!」
そして、ナツとの相性の悪さも相変わらずだったり。
「まあ、こんなんでも一応は『使える』らしいから。上手く操縦してやって……」
「ふーっ!」
「ひ、ひぃ……こわいぃ……!」
カナメさんに威嚇するカレンさん二号を見て、ちょっとだけ心配になる僕なのでした。
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