【WEB版】年上エリート女騎士が僕の前でだけ可愛い

たかた

0 すべてをあきらめた女騎士がかわいすぎる件


「ふにゃ――!???」


 そんな素っ頓狂な悲鳴が夜の城内をこだましました。


 すでに周りに人がいないのは把握済み。場所も地下なので、城の上階ですやすやと寝息を立てている方々の耳には届かないでしょう。


「……あの、ごめんなさい隊長。まさか、そんなに驚くとは思わなくて」


「ば、ばばばばばばば……」

  

 僕の目の前にいるのは、いまにも爆発してしまいそうなほど顔を真っ赤にしている妙齢の女性。小刻みに震えているのか、光沢のある黒の鎧がカチャカチャと音を立てていました。


「馬鹿者っ!! こんな蛙も寝静まったド深夜の二人きりでいきなり『ヤりたい』なんて言われたら誰だってこんな声を出すだろうが!?」


 彼女の名前はカレンさん。女性ながら、僕の所属する王都近衛騎士団第四騎士分隊――通称『ブラックホーク』の隊長を務める御方です。男性社会ともいわれるこの国の騎士団の中、遜色ない剣の実力とリーダーシップを兼ね備えています。管理職の中では最年少の二十九歳。


 僕は、そんな彼女の下で、一人前の騎士となるべく、日々鍛錬を重ねているのですが――。


 あ、申し遅れました。僕の名前はハルといいます。騎士養成学校を主席で卒業し、今年、この『ブラックホーク』に配属となった新人騎士です。


「? そうですか? 結構昼間から色んな人とやられてると思うんですけど」


「そうそう、隊長権限を使って、鍛え抜かれた肉体をこれでもかと堪能するために部下の騎士達をとっかえひっかえ――って、んなわけあるかあっ!? お前は私をパワー&セクシャルの極まったハラスメント大王かなんかと勘違いしてるのか!?」


 今日中に提出しなければならない日報を、黒いインクでビチャビチャにしつつノリツッコミ気味にまくしたてるカレンさんです。普段はとても冷静沈着で凛とした立ち振る舞いを見せているのですが、一旦なると、テンションがおかしくなってしまうのです。


 まあ、そうなるように僕が仕向けてはいるんですけれども。


「えっと、隊長。何か勘違いをされてないでしょうか?」


「? なんだ」


「僕はずっと『隊長、僕、隊長と剣の鍛錬をやりたいんです』と言ってたんですけども――」


「っ……!!?」


 もちろん、(剣の鍛錬を)という文言は意図的に外しました。


 そうしたほうが、こんなふうにかわいいカレンさんを見ることができるから。


「あの、カレン隊長、まさかではありますが『イヤらしい』ことを想像したりはしていませ――うわっ!?」


 もうちょっとだけからかってあげようとしたその直後、僕の頬を一瞬の閃光が通り抜けました。


 はらり、と床に落ちる僕の数本の髪の毛。


「ええいっ! 新米ペーペーのくせして、貴様は何度も何度も私をコケにして! そこになおれ! 今日こそは貴様の性根を叩き直してくれる!」


 まずい、どうやら今日はやり過ぎたみたいです。


「あ、隊長すいません、僕、ちょっと今しがた自宅のポメラニアンに餌を上げる用事を思い出したんで帰らせていただきます。お疲れさまでした」


「貴様の住む騎士隊舎はペット禁止だろうが! 待てええ~!」


 さらりと素早さアップの強化魔法バフをかけた僕は、カレンさんの追及を振り切るように脱兎のごとく逃げ出しました。一応僕も主席で学校を卒業する身ですので、これぐらいは朝飯前です。


「ふふ……やっぱり今日もカレンさんは最高にかわいかったな」


 全速力で家路へと駆ける僕は、今日のハイライトを脳内で駆け巡らせながら、そうやって一人呟きました。


 ああ、明日はどんな風にカレンさんを――仕事に精を出し過ぎたせいで行き遅れつつある、『すべてをあきらめた女騎士』のかわいさを堪能してやろうかしらん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る