第2話 願いよ叶え
「天使?気味悪い仮面をかぶりやがって。それともその仮面の下は悪魔なのか?」
「好きに想像したらいい。私は多くの人の願いをかなえる天使で、お前の願いを叶えるためにここに来た。それだけだ。」
403号は目を強くつぶったりあけたりしながら、天使を名乗る目の前の怪人に目をやり、状況を把握しようとした。
「人の願いを叶える?なんでその天使様がオレのところに来るんだ。」
「罪なき善人の願いを聞きすぎて、少し疲れてしまってな。お前みたいな悪人の願いはどんなものか聞いてみたくなったからさ。」
「は!悪人だと!?するとなんだ?俺のところに来たのは退屈しのぎってわけかい」
「まぁそういうことだな」
「フン、まぁいい。それより願いを叶えてくれるってのは本当の話か?」
「疑うのか?」
「やってみせてもらわなきゃ信じられるものか。本当に何でも叶えられるのか?」
「なんでもできる。何をしようか。」
突拍子もない話だが、目の前の天使を名乗る人物が突然煙の中から現れたのは事実だ。それにこの異常な出で立ち。天使かどうかは別として、人間ではないのは確かだ。
403号はしばらく考え、冗談交じりにこう問いかけた。
「そうだな。オレがここにぶち込まれることになった罪を消してくれるか?つまりチャラってことだ」
「なんだそんなことか。おやすいことだ。」
天使が指をパチンと鳴らした。
「おい、何も起きないぞ?」
「起きた。お前が起こした殺人事件の罪が消滅した。」
「どういうことだ?」
「すぐにわかる」
音もなく独房の扉があいた。
「さぁ、その扉をくぐって外に出るといい。」
ここまできて、403号は天使の言うことを少しだけ信じた。そしてまた冗談交じりにこう問いかけた。
「待ってくれ、叶えてくれる願いは一つだけか?さっきので終わりなのか?」
「そうだな。この程度の願いで良ければ好きなだけ頼むがいい。ちょうど退屈していたからな」
403号は、この天使にしかできない願いは何かと必死に考えた。金、女、土地か家か?403号は実直に社会に貢献すれば、これらがいつでも手に入ることを知っていた。その貢献のために弱い人間の魂を捧げれば、いくらでも成果は出せると知っていた。そこで願いをこうすることにした。
「オレの罪を全部消してくれ。」
「そんな頼み方はダメだ。願いは1つづつしか叶えられない。」
「なんだそりゃ。とにかく警察に目つけられるような厄介事が消えてくれればそれでいい。」
「では1つ1つ何をやってきたのか私に話せ。神父に告解する信徒のように正直にな。」
403号は天使に向かって今まで犯してきたありとあらゆる罪を告白した。部下だった女を精神的に追い詰め廃人にし、心も体も利用し尽くしたこと。営業成績の補填のために自腹で補填をさせ借金まみれにさせた部下のこと。数え上げるとその数は両手の指で数え切れないほどだった。
1つの罪を話す度に、天使はその罪を消していった。告白する度に、403号の心は穏やかになっていった。その悪事の全てを話すと403号はとてもスッキリとした気持ちになった。
「これでお前の罪は全て消えた。まぁなんだ。罪を全てぬぐってみると、すっきりとした顔になるもんだな。お前の性根は案外、善人なのかもな。」
403号は妙に晴れやかな気持ちになった。どういう心境の変化なのか、これからは1人の善良な人間として生きていくことができる気がした。そして自由と潔白の身でもって、まっとうに生きることを心に誓った。
「やり直そうと思えば、いくらでもやりなおせる。」
403号はそうつぶやいて、独房を出ていこうとした。すると、天使が403号の肩をグッとつかんだ。
「さて、お前の願いは叶えた。次は別の人間の願いを叶える番だ。403号。」
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