政策

理事種族マルコシアスの代表人格は、新帝国の政策についてかく語りき。


『新帝国の文明理論によれば、技術と政策は文明を支える二本柱なり。

文明活動の本体は、全ての人々が営む経済・社会活動なり。

科学・技術はこれを豊かにし、制度・政策はこれを健全に保つために、

それぞれ分業化せる活動なり』


『しかし、科学・技術は物的資源に具現化し得ざれば

経済・社会活動を豊かにすることを得ず。

同様に、制度・政策は人的資源によりて実現し得ざれば

経済・社会活動を健全に保つことを得ず。

また、さらなる文明の発展には、制度・政策が自然・社会環境に配慮しつつ、

次世代技術の健全なる開発・普及を促すことが必要なり』


『従って、制度・政策が経済・社会活動を健全に保つには、

次の4つの経路ルートが存在せり』


『第一は、直接経路ルートともいうべき経済・社会政策なり。

政策が、経済・社会活動に直接働きかけて人々の利害を調整し、

生産と分配の均衡バランスを維持して、健全性を保つ経路なり』


『理事種族アドラメレクは、

自らもまた偉大なる融和を達成せる混成種族としての経験を活かし、

我等銀河系の外周星域種族と中心星域種族、

アンドロメダ銀河の先住種族と銀河系種族など全種族の架け橋となりて、

星域間の貿易活動・共同事業や文化交流、相互支援を促進せり』


『第二は、間接経路ルートともいうべき人的資源政策なり。

教育や保健を通じ、政策実現の必要条件たる人的資源すなわち、

制度・政策を立案・支援・活用あるいは点検・改善し得る人々を確保する経路なり』


『理事種族バールゼブルは、かつては旧帝国の親衛軍種族でありながら、

新帝国の先進的な文明理論や人道主義的価値観を学びて自ら模範を示すと共に、

軍事用の自動機械を民生に転用して戦災宙域の生活環境を再生・改善し、

旧帝国系種族に対する自由・民主・ 平和主義の啓発と普及に貢献せり』


『第三は、政策と技術の互助経路ルートともいうべき、技術的政策なり。

この政策はさらに三つの経路ルートに分かれ、

その一は、農業・工業・情報技術など文明発展上の主要技術による

環境、防災、交通や治安への大きな影響に対し、

社会全体の健全性を保つため、人々の協力を得る社会工学的政策なり。

その二は、主力技術の具現化に必要な関連技術を用いて、

各種施設や灌漑・輸送・通信網など大規模な物的資源を整備するため、

支援や調整を行う社会基盤インフラストラクチャー政策なり。

その三は、次なる文明段階を拓く次世代技術を開発するため、

適切なる科学研究・技術開発を促す研究・開発政策なり』


『理事種族ストラスは、凍結惑星の結晶生命体ながら、

酸素・炭素系種族以上の温かき心を以て自らの演算能力を活用し、

統一力場障壁、超空間航行など多くの分野で画期的な新技術を開発せり。

さらに彼女は種族間親和技術の健全な普及や星域間を結ぶ超空間回廊の整備など、その他各種の技術的政策の立案や実施にも尽力し、

新帝国の勝利のみならず、戦後の復興とさらなる繁栄にも貢献せり』


『第四は、政策の自助経路ルートともいうべき、行政管理政策なり。

広義においては経済・社会活動の一部たる、制度・政策の立案・実施に際し、

組織編成や収入の確保・配分、人材育成、技術活用など、

社会に対する各種政策と同様に、行政組織内部における政策を行う経路なり』


『理事種族アスモデウスは、先進種族の量子人格化マインドアップローディングから

途上種族の医療・教育までも手がける生体情報産業種族なりしが、

後に文明開発省におけるサタンの副長官として行政実務を体得し、

さらには星域間・星域内の利害調整など政治的場面においても

熱誠に満ちた交渉能力を発揮して成果を挙げることにより、

サタンの右腕として、新帝国における行政の健全運営に貢献せり』


『しかし政策の実現には、政策を助ける社会工学的技術も必要なり。

これには経済・社会政策を助ける組織・会計技術、

人的資源政策を助ける教育技術、

政策立案を助ける企画支援技術などが存在せり』


『現皇帝サタンは、旧帝国では文明開発長官を務めし技術官僚種族にして、

各種の政策のみならず、それらの社会工学的技術にも詳しき種族なり。

また彼女は、〝先帝〟を善神となし、自ら悪役と演じる神話までをも用いて、

地球などを含む発展途上星域を支援せる、善良な種族なり』


『〝先帝〟種族を傀儡かいらい化せる側近団の中枢種族達は、

軍事種族育成のため彼女の開発計画に干渉し、多くの種族を犠牲とせり。

サタンはこれに異を唱えたるも、叛徒はんとの濡れ衣を着せられ、

さらに中枢種族間の内戦による〝先帝〟種族の滅亡と旧帝国の崩壊を受けて、

戦禍の終息と帝国の再建のため、新王朝の創始を決断せり』


『彼女は戦後、悲惨なる戦禍への反省をもとに

多種族間の親和技術や共生政策を採用して戦前以上の繁栄を実現し

先帝種族の生存人格救助に成功すると共に、

現在では新国家の民主化計画など、さらなる分権化をも推進しつつあり。

またその背景には、彼女の勇断に加え、

彼女のもとに亡命してその理想を支援せる、

多数の良識的な〝先帝〟人格群の存在もまたありたらん』


『我は今般、アンドロメダ銀河における酸素・炭素系先住種族の代表として、

新設の自治領たる中核星域の長官に任命せられたり。

ゆえに我は今後、彼女達の識見と熱意に学び、他星域の諸種族とも協力して、

将来的には銀河系に優るとも劣らざる繁栄を、この星域と銀河にもたらし、

二大銀河を中心とする新国家の繁栄に貢献しうる政策を行うことを、

同職への就任にあたり、ここに誓約するものなり』と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る