アスタロト
アスタロトは、豊富な魚類を主食とする渡り鳥から進化し、
農耕と定住の経験少なきがゆえに、自由と平等を尊ぶ種族なり。
また、人口負荷に応じて出生数が低下するという生物学的特質から、
戦いの多き歴史も
ゆえに彼女が好まざる専制体制下の旧帝国において、提督にまで昇進せるは、
ひとえに移動生活への適応や、
しかし、帝国統一が完成し、軍事種族の腐敗と抗争が進行せるや、
その気質は好ましからざる種族の注意を誘引せり。
彼女はとある惑星の紛争調停作戦中に、中枢種族〝炎の王〟の罠に落ち、
可動母星の地殻を一部失うほどの大損害を被りたり。
この時彼女に救いの手を差し伸べたる者は、
当時文明開発長官なりし現皇帝サタンなり。
サタンは彼女を、広大な発展途上星域の警備にあたる軍事部門副長官となし、
科学長官ストラスや親衛軍提督バールゼブルの支援を得て、
彼女の惑星を修復すると共に、機動艦隊の広域作戦能力を強化せり。
また、サタンは彼女を文明開発事業に積極的に参加させ、二つの事実を教示せり。
第一に、大多数の種族の歴史においては、多くの個体が一所懸命に農耕に従事し、
収穫を守り、分配して共同生活を営むべく、専制統治が不可欠な時代が存すること。
しかし第二に、文明発展によりて生活が向上し、複雑・加速化せる暁には、
彼女の如き幸運なる種族が先取せる理念に従いて、人的資源の向上を前提としつつ、政治的・経済的自由が拡大せる分権的体制への移行が可能、
かつ必須となることなり。
当時すでにサタンのもとには、自ら育みし軍事種族達の
〝先帝〟種族から、多数の亡命者達が移民し、指導者として歓迎せられたり。
サタンは彼女達の支援も得つつ、統一後の帝国運営に不可欠なる、平和的な文明発展政策の展望を形作りつつあり。
移動生活を通じて多くの種族と交流経験を有するアスタロトは、
優秀なる適応能力を示し、特に地球の開発においては、
彼女の分離個体が人々から女神イシュタルとして崇拝され、
地球人の一人と恋愛関係に至りしほどなり。
彼女は自らの悲劇を新たな向上の糧として、自文化の優越性に対する過信を免れ、種族的・政治的偏見に囚われることなく、多様な文化を理解し、活用、媒介、
さらには創造しうる能力を獲得せり。
以上の経緯から、アスタロトはサタンに対し大いなる信頼を抱くと共に、
自らもまたサタンを初め多数の種族から絶大なる信任を獲得し、
〝大戦〟にありては新帝国艦隊総司令官の地位に就きたり。
彼女は教育・訓練や保健的措置を実施したるうえで、
軍事種族のみならず、多くの産業・技術種族や旧途上種族からも
有為な人材を登用し、活用せり。
彼女の指揮下において重要な役職を務めたる種族には、次の名が並びたり。
中央部を覆う丸く美しき甲羅に巨大な頭脳を収めたる、
中世の甲冑に似たる義体に頭脳を移してまでも艦隊に参加せる、
技術種族アロセル。
姉妹種族アミーとの悲劇的な戦いによる滅亡から再生し、
新帝国に参じたる旧帝国系種族カイム。
さらにはアスタロトの一人格と恋に落ちたる後に不慮の事故にあい、
救命のためアスタロトに帰化せる地球人エノク、
通称〝メタトロン〟を初めとする、移民集団の人格群。
彼女達は、多くの人道主義的作戦において成功を収めたり。
図らずも彼女の広域作戦能力は、
大規模な内戦における混乱の収拾に役立ちたり。
また、その人的資質向上を前提とする多文化主義的、分権的な政策は、
星間社会から広範な支持を得て、新帝国の成立に多大なる貢献を果たせり。
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