素直になれない神崎さん

時雨色

プロローグ

「ごめんなしゃっ……さい!」

 ────暇だ。

 暇で暇で仕方がない。友人の相良さがらは帰ってしまったし、声をかけようとした橘さんもいない。

 俺は中学までとりあえずバスケットボール部に入っていたけれど、特に目標もなく途中で辞めてから運動部に……いや、部活には入らないようにしていた。


「その結果がこれだよ……。自業自得だってのは分かってるけどさ! ……まぁ、こんな独り言を誰かに聞かれていたらやべぇ奴だわ」


 電気を消された教室が夕焼けでオレンジ色に染められていく。

 窓から見えるその景色は、部活に励む生徒達ばかり。もしかしたら、部活をする事が青春を謳歌していると言えるのかもしれない。俺には到底真似など出来ないが。

 もし、どこの誰かがこのような場所に居たのなら、その誰かは同じことを思うだろう。勝手な想像でしかないけど。


 ガッシャーン!

 俺一人で黄昏たそがれている時に後ろから盛大に机を撒き散らす音がした。

 音の方向に向かうと、そこには校内一の有名人の神崎七海が机の下敷きになっている。

 毛先の濡れた長い黒髪が乱れ、元からブレザーのボタン外していたのか、濡れたシャツがはだけて薄っすらと黒の下着が透けている。スカートから伸びる白い脚はとてもエロい。


「お、おい。お前、大丈夫か?」

「うーん……いったぁ……」


 机を移動させてから彼女に手を伸ばす。


「ほら、立てるか? 手、貸すぞ」

「……え、えっ!? ま、待って! ちょっと待って!」

「お前、いきなりデカイ音出すから驚いたんだからな」

「ごめなしゃっ……さい!」


 耳まで顔を真っ赤にしながら謝ると、猫が驚いたかのようにとてつもない速さで逃げていった。


「……俺が片付けるのかよ」


 綺麗に整理されていたはずの机とリノリウムの床が弾く水滴を眺めながら、盛大にため息をついた。





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