オールドローズと雨
カゲトモ
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結局晴れることなく今日も雨が降った。太陽は一体どこへ行ってしまったのか。それを知る人はこの近辺にはいないだろう。ちなみに月も行方不明だ。
「やっぱり台風の影響でしょうか、お客様少ないですね」
「雨も結構強く降っているみたいだから仕方ないのかもね」
日本列島に迫った台風が週末にかけて直撃する可能性があるとニュースで言っていた。だからか、客足は緩やか。いや、止まっているに近い。予報では明日の夜に通過するとか何とか。明日は日曜だし休業するべきか。
「え、お休みですか?」
「こればっかりはね、店を開けるのも危ないし、日曜だし、明日は臨時休業にしようか」
心なしか斉藤君の顔が嬉しそうだ。こんな時に休みをあげてもどこも遊びに行けないから、ちょっと可哀相だけど。
カロン。
「「いらっしゃいませ」」
扉が開いたと同時に待ち構えていたように挨拶をする。もちろん待っていたのだ。暇過ぎるのは一番疲れるから。
入って来たのは一人の女性。丁寧に傘を巻いて留めると、小さく会釈を返してくれた。しかもとても可愛らしくてエレガントな微笑みで。
彼女は世間で言うロリータファッションに身を包んでいた。間近のハロウィーンのコスプレとかそんなんじゃない。もっと崇高な感じのものだ。
「どうぞ」
彼女をカウンターの席に案内した。肩より上に切り揃えられたおかっぱの黒髪。洋服はオールドローズ色のドレス。フリルがふんだんに使われていてお姫様みたいなのに、甘すぎずにどこか上品さを感じる。華奢な白い指に嵌められたリングは繊細なバラ。控えめなピアス、髪飾りは全体のカラーにあった花のヘッドドレスだ。
まるで人形のように可愛らしい女性だった。
「外は酷い雨ですね」
話しかけると少しだけ驚いた表情を浮かべて、こくんと頷いた。
「はい。おかげでドレスが濡れてしまいました」
「あぁ、それは大変ですね。良ければお使いください」
いくら傘を差していたとしても雨に濡れないなんてことはない。こんな雨の上、特に彼女のドレスは膨らんでいるから確実に濡れてしまうだろう。
「そんな、大丈夫です」
「いえ、風邪を召されては大変ですから」
にっこりと言うと、彼女は二度瞬きをしてからタオルを受け取った。先日の桜小路ありあの件もあるから、ちゃんとタオルを常備している。これでいつ雨が降ってもお客様にタオルを渡すことが出来る。
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