過ぎれば青春の思い出

鳴河良哉

周りから浮いている男 第1話

 俺が初めて藤元くんに出会ったのは高校の入学式だった.まあ入学式はついさっきのことなんだが.藤元くんはとてもとても背の高いモデルみたいな体系の優男だ.ただ,それは教室に入ってから間違いだとわかった.彼は浮いてる.同じ中学校の友達から嫌われてるとかじゃなく,奇行に走るからというわけでない.背は高いのだ.”もともとの”背は高い.たぶん浮いていなくても180センチくらいあるだろう.信じてもらえないとは思うが,10センチくらい浮いてる.地面から,藤元君が浮いてる.周りからじゃなくて地面から浮いてるのだ.ふわふわという感じではなく,透明な下駄をはいている感じだ.エスパーなんだろうか.今から自己紹介だからその辺を説明してくれるだろう.僕は無難な自己紹介,郡山雷蔵という名前と柔道部に入る予定だと告げた.藤元くんは僕より後の自己紹介だがすぐ順番は回った.

「阿嘉田中学校から来た藤元梁です.何部に入るかは考えていません.よろしくお願いいたします。」

 いや,ほかにもっと話すことがあるだろう.浮いてることとか,浮いてることとか,浮いてることとか.クラスメイトも同じことを考えているだろうとおもって周りを見てみたが.が,誰も気にしてないみたいだった.いや,浮いてるんだぞ.誰もおかしいとは思わないのか.

 誰もツッコミを入れず,放課後となり,俺は家に帰った.俺は一晩中藤元君が浮いていることについてゆっくり考えると俺がどうかしてた.慣れない環境で疲れたのだろうとか考えた.藤元くんは浮いていない.きっとそうに違いない.だけど朝,浮いている藤元くんが入ってくるのをみて,そうではなかったと再認識してすごく落ち込んでしまった.彼が浮いていることがすごく気になりながらもお昼になった.さすがに藤元君をお昼ご飯に誘う勇気は俺にない.お昼は前の席の健くんとお弁当を食べることになった.健くんも柔道部に入る予定らしく,また趣味が似ていることもあって意気投合した.ちなみに健というのは苗字だ.変わってると思う.僕は藤元くんのことを切り出そうとしたら健くんの方からきりだしてきた.

「ねえねえあそこの藤元くんだけど,ちょっと変わってない?」

「例えば?背は不思議なくらい高えな」

 藤元くんが浮いてることに関して,俺はだんだん自信がなくなってきた.ちらちら見てたけども女子に早速声をかけられてだべっているけど誰も浮いてることに関しては何もいわないのだ.もしここで俺が狂ってて浮いているように見えているだけだとして「だよね,めっっちゃ浮いてるよね」とかいったら誹謗中傷してるともとれるし,そうでなければ頭がおかしいと思われる.なので浮いているとは言わず,不思議に背が高いというぼかした表現にしてみた.

「いや,それもあるけど手が,特に指が身長を考慮してもとても大きいんだよ.ピアノをやってる人に良く見られる特徴もあるからたぶんかなりピアノがうまいよ.部活には入るつもりはないって言ってたけどたぶんそれはピアノに専念したいんだろうね」

そうじゃない.あの,あれ,浮いてるんだ.浮いているだろ.

「それもそうなんだけどさ,ほかに変だと思うところねえか」

「あー,自己紹介の時,ピアノが得意だとは言ってなかったね.なんでだろう」

だから,そうじゃない

 話をしてると藤元くんが自分の話をしてると気付いたらしく,声を

かけてくれた.

「俺のことで何か話してるの?」

「藤元くんがピアノをやってたんだろうって推理してたんだけどあってる?」

「ピアノか.やってるよ.だけど辞めようと思ってるんだ.俺さ,背はあるけど細いだろ.コンプレックスでさ,何か運動部に入ろうと思ったんだけど細すぎて馬鹿にされそうで言えなかったんだ.」

「じゃあ柔道部に入ろうよ.藤元くん,背が高いからいい線行くと思うんだ,ね!郡山!!」

たしかに,背が高いからちゃんと鍛えれば団体戦で活躍できそうだし,浮いているから足払い効かなさそうだし観察しててわかったけど浮いてるくせに踏ん張りがきくから強そう.だがそうじゃない.

「うん俺もそう思ってた.一緒に見学行かない?」

「郡山もそう思ってたのか.だからじろじろみてたんだ」

そうじゃない.


 結局三人で見学に行くことになった.柔道部は8人くらいいて弱小の割には結構多いほうだ.藤元くんは体がひょろすぎて柔道にはついていけないと判断して,藤元君は陸上部に入ることにした.

 この部活見学をきっかけにして藤元と仲がよくなった.それで彼についてよくわかったことがある.それは藤元はとてもとてもいいやつだ.紳士的で物腰が柔らかいし,ちゃんと言葉を選ぶ.彼と話をしていると俺は言葉が汚かったなと反省してしまう.そのくらいにはいいやつだ.あと弟が二人いるらしく,二人とも俺に似ているそうだ.中身が似ているそうで弟が大きくなったらこんな感じになるんじゃないかなといっていた.


 この学校,5月の頭にクラスの親睦を深めるという名目で合宿がある.そこで藤元と同じ班になった.体育館みたいなところで女子とフォークダンスを踊ったりゲームをしたり.だたの合宿だ.

 その合宿の日の夜,ふとした時に目が覚めた.4時くらいだった.なんだか寝つけそうになかったのでお手洗いにいった.帰ると,俺が起きたときにはいたのかわからないが,藤元がいなかった.トイレにはいなかったのでたぶん抜け出したどこか行ってるんだろうと思う.先生に怒られてはかなわんので探しに行こうと思う.部屋のすぐ外を見ると藤元がいた.浮いてなかった.

「え,なんで藤元おまえ浮いてないの」

「郡山,俺が浮いて見えていたのか」

 しまった.藤元が物理的に浮いているのを指摘してしまったけど,藤元は周りに避けられているという意味でとらえてしまったかもしれない.俺が訂正の言葉をかけようとすると,

「それって僕が今,物理的になぜ浮いていないかという意味かい」

 あれ自覚あったんだ.

「そうだ.最初見たときとても驚いたんだ.なんでなんだ」

「実は僕は超能力者なんだ.でも力が暴走気味である程度,力を使い続けないとやっていけないんだ.だから自分を浮かすことで暴走を抑えてるんだ.」

いきなりSFか.でも正直浮いていたから信じるしかない.でもなんで今は浮いていないんだろうか.

「なんで今浮いてないんだ」

「力にも波があって強まる時期と弱まる時期があるのとさらに強まる時期と弱まる時期があるんだ.日が出てない夜は力が暴走しないんだ」

「俺以外の人はそれ知ってるの」

「知らない.そもそもまわりに俺が浮いていないという風に暗示をかけているんだ.テレパシーみたいなものだね正直君にかからなくて驚いてる.君は人間離れした強靭な精神力を持ってるね」

 成程,俺の柔道で鍛えた精神がテレパシーに勝ったから藤元が浮いてるようにみえたのか.ん?テレパシーも使えるのか.

 「だったら自分を浮かすんじゃなくて意味のない強力な暗示,例えば健は男だとか,藤元が男だとかっていう強力な暗示をかければ力が暴走しないで済むんじゃないの」

「....そうする」

 気づいて無かったのか.


 次の日から藤元は浮かなくなった.自分の足で歩くようになったからか心なしかすこし逞しくなった.彼が浮いていようが浮いていまいがいいやつなのでいまでも彼とは仲良くしている.

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過ぎれば青春の思い出 鳴河良哉 @agayama

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