第六十五話

 あかりの提案は実に単純なものだった。

 好きになりたいなら一緒に過ごしてみればいいと思う!

 なるほど確かに一理ある。という事で本来行く予定は無かった今日の日曜日。図書館は開いてないという事で百貨店のフードコートで勉強会となった。


 六人掛けのテーブルをくっつけると、俺の左隣には槙島が座り、槙島の目の前には森江さんに座ってもらった。今回は勉強が目的なのは勿論だが、槙島が森江さんを好きになるという目的もあるので、当然と言えば当然だろう。


 また、森江さんを誘ったのは河合であるため、その左隣に河合が座っているのもなんら不自然なことはない。


 あかりについては俺の右隣に座しているが、まぁこれも幼馴染だし自然と言えば自然だろう。幼馴染だしな!


 ま、まぁそれはさておいて。問題はあかりの目の前に座り、俺の斜め右上に座る人物だ。本来、勉強会は昨日のメンバーと森江さんがいれば十分なはずだが、この場には想定外の一人もやって来ていた。


「ねぇコウ君、ここ教えて欲しいなって」


 その想定外の一人が立ち上がろうとするので制する。


「ちょっと待った姫野さん」

「どうしたのコウ君」


 小首をかしげる想定外の一人、もとい姫野さんはさも当然のようにそこに座していた。

 

「いや、さっきから気になってたんだけどなんでここにいるのかなと……」


 素朴な疑問をぶつけると、姫野さんは顔を両手で覆い隠す。


「ひどいよコウ君、そんなに私の事が嫌いなの?」

「い、いや違うからな? そういう意味じゃなくてそのほら、なんだ、接点が無いというか脈絡が無いというかさ……」

「コウサイテー!」

「いやほんと違うからね!?」


 あかりから思わぬ飛び火まで飛んできたので大やけどしかけていると、河合が口を開く。


「えっとそれはね忍坂君、よく考えたらビブリオバトルのメンバーの五人中四人が揃ってたから、仲間外れにするのはよくないかなってあかりちゃんに誘ってもらったんだよ」


 俺、槙島、河合、森江さん……ほんとだ、確かに一色先輩主催ビブリオバトルのメンツだ。


「なるほど、姫野さんがここにいる理由は理解した」

「うん、そういう事だから……」


 先ほどの様子とは一転、姫野さんはいたずらめいた笑みを浮かべると、椅子から立ち上がる。

 そのままノート片手に丁度俺とあかりの後ろに回り込んでくると、ぐぐいっと身体を俺とあかりの間に割り込ませてきた。


「この問題を……」

「教えて欲しいんだな姫野さん! よし分かった、じゃあとりあえず座ろうか! 女子に立たせるのは申し訳ないしな!」

 

 俺は即座に立ち上がると、姫野さんをさっさと元の席へと座らせる。


「別に立つくらい平気なのになー?」

「いやいや、そう言うわけにはいかないからな。座ったまま呼びつけてくれれば男子である俺がそっちに行くさ」


 もしあのまま割り込みを許しておけばあまりに距離が近すぎて精神を大きく揺さぶられかねないし、あかりも狭くて勉強しづらいだろうからな。ここは俺が自ら動く事で適正な距離を保持できるようにしておかなければ。

 

「ふーん、じゃあ、今はお言葉に甘えようかなー」

「是非そうしてくれ」


 ふう、とりあえず助かった。勉強会だろうが学校外だろうが姫野さんの攻撃はやまないらしい。

 ここから先が思いやられるが……まぁそれより。

 もう一つ気にしておく必要があるのは槙島と森江さんの事だよな。

 まだ勉強会が始まってからあまり経ってないし今すぐに好きとはいってないだろうが、一応どんな感触か槙島に聞いてみるか。

 実は分かっているらしい問題を姫野さんに教え終えると、水を汲みに行くついでにちょいちょい槙島を呼んでみた。


 


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