後編 クレイジータイムだ! そしてめでたくハッピーエンド!

 あれから一晩経って、三日目。

 朝食を済ませて電車を乗りついだ二人は、龍野の自宅の前にいた。龍野の両親への結婚報告である。

 二人は覚悟を決め、玄関を開けた。


 一時間半後、満面の笑顔で二人が出てきた。

「ほら言った通りだろ? 親父は今か今かと待ち構えてたんだよ」

「けど緊張したぁ……」

「ハハハハ、お前挨拶の時噛んでたからなぁ!」

「うう~、言わないでよっ! いくら両家公認の仲とはいえ、私はお婿さんりゅうやくんを貰うんだよ!? 緊張しない方がおかしいよぉ……」

「それにしたって、『龍野さんをくらひゃい』ってのはないだろ、ハハッ……! もっと面白いのとなると……」

「わわっ、やーめーてぇー!」

 有頂天真っただ中である。


 ホテルに帰った二人は、夕食を済ませた後に荷物をまとめた。

 残すものは無い。

 しかし二人はダブルベッドに横たわると、急にソワソワし始めた。

「な、なあヴァイス」

「ね、ねえ龍野君」

 二人同時に喋ってしまった。ある意味息ぴったりのタイミングである。揃って顔を真っ赤に染めた。

 それから一分後、どちらからともなく握りこぶしを出し、無言でじゃんけんをする。勝ったのは龍野だ。

「なあ、ヴァイス」

 仕切り直しとばかりに切り出す龍野。

「なに、龍野君?」

「俺はお前が大好きだ。俺達はぶつかることもよくあったし、困難に打ちのめされそうになることなんかしょっちゅうだった。けど……」

 一呼吸おいて、続く言葉を投げた。


「こうして二人でいられることを喜んでいる俺がいる。俺はさ、思うんだよ。自分は生涯の相棒と共に、今もこれからも幸せな時間を築き続けるんだ、と」


 その言葉にヴァイスは叫びそうになる。うれしい、ありがとう、愛してる。そんな感情の入り混じった声を。けれど、まだ今は龍野の番。ヴァイスは必死に声をこらえる。

「だからこそ今俺は、こうして――ッ!」

 龍野はヴァイスを優しく、けれど力強く抱きしめた。

「こうしてお前を抱きしめることに……その、喜んでいるんだ」

 ヴァイスは真っ赤になりながら、必死に呼吸をしている。


「今までありがとう。そして、これからもよろしく――愛してるよ、ヴァイス」


 言いたいことを言いきり、龍野の腕が僅かに緩んだ。さあ、ヴァイスの番だ――

「龍野君」

「はい」

 ちゅっ、と音が鳴った。不意打ちのキスだ。

 時間はわずか十秒にも満たなかったが、二人にとっては、何十、何百倍の長さに思えた。

「ぷはっ」

 存分に唇の感触を味わってから、満足した様子で口を離すヴァイス。

「言いたいことは貴方と同じ。けど、一つだけいいかしら?」

 龍野はわずかに頷いた。それを確認したヴァイスは、大きく息を吸ってから言葉を発する。

「私は、龍野君のことが大好きです。どんな困難が襲ってきても、必ず私を助け出してくれました。そして、私を一人の王女としてではなく、一人の女の子として扱ってくれ、さらに私のことを知ろうと努力する一生懸命な姿に、心を強く打たれました。だから――」

 再び息を胸いっぱいに吸い、確固たる意志を持って、全身全霊の言葉を放つヴァイス。


「愛しています、龍野君! これからの人生全てを一緒に過ごせることを、とても嬉しく思っています!」


 一息に言い切った後、一瞬の沈黙を迎える。

 龍野は無言で、再びヴァイスを抱きしめる。

「ああ、ありがとよ、ヴァイス。それで、だ……」

 龍野の全身が震え始める。

「いい加減、我慢の限界だ」

「へ? それってどういう……」

「覚悟しろ。夜は始まったばかりだぜ?」

「え? ちょ、ちょっと……きゃああああああああ!? 待って、まだ結婚してないから! それからでも遅くないでしょ!?」

「その体つきでそんなこと言われても、困るんだよなぁ」

「そんなああああああああああっ!」


 四日目、朝。

「いやー、昨日は季節外れの熱帯夜だったな、ハハハハ」

「ふ、ふざけないでっ、誰のせいでそんなことになったのっ」

「いやー、久々に可愛いヴァイスが見れた。まああまりに暑すぎてパンツ一丁で寝ちまったがな!」

「うう、もういろいろとめちゃくちゃだよぉ……ひどいよぉ……」

 よよよと泣き出すヴァイス。

「さて、朝食だ。早く済ませて出ようぜ!」

「う……うん!」


 その後、チェックアウトを済ませた二人。

 最後に向かう場所は当然、成田国際空港だ。

 そこで昼食とお土産の購入を済ませた後は、二人そろってのろけ話に興じる。

 当然だ、互いの愛を告白してから一日も経っていないのだから。

 そしてしばらくしてから搭乗手続きをパスし、各々の席(隣同士だが)に着いたと同時に、眠りに落ちた。


 到着したときには、ヴァレンティアは夕方になっていた。

 二人はベルリン・テーゲル空港から、いつの間にか手配されていた迎えの車で、ヴァイスの居城に向かっていった。

「おいおい、よりにもよって旅行帰りの後にそのまま結婚式か? そこの執事さんよ、着替えの時間は当然あるんだよな?」

「勿論でございます、王太子殿下」

「ああ、それならいい……って、俺は王太子にいつなったんだ!?」

「結婚が決まってからよ。当然でしょ、義理とはいえお父様……国王陛下の息子なんだから」

「実に前途多難だな……」

「私が支えるわよ。いついかなる時も、でしょ」

「そうだな……それよりも早く、花嫁のウェディングドレス姿を見てみたいぜ」

「もう、龍野君ったら!」

 こうして、二人の四日間にわたるデートは終わった。

 二人にはこれからも、無数の困難が襲い来るだろう。


 それでもこの幸せだけは、何があっても手放さない。二人は誓いのキスをするとき、心に強く覚悟したのだった。

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