漂う函

夜表 計

第1話 目覚めて

 そこは部屋だった。誰がどう見ても綺麗に整頓された部屋だった。

 私は夢を視ているのかと思い、自分の頬を力一杯につねる。自分でつねったのに余りの痛さにやったことを後悔する。

 目を開けると世界は少し歪んでいた。やっぱりこれは夢だったんだ、と思ったのもつかの間、その景色は涙で歪んだものだと気付き、またつねったことを後悔する。

 一体どうなってるのか分からないけれど、状況を確認しないことには対応の仕様がないから、まずは外に出て事情を知ってる人を探そうと玄関に向かう。そこで自分が寝間着だと気付き、気が引けたが、部屋の住人の服と靴を借り、部屋を出た。

 外に出てすぐに目についたのが、私の居るマンションと向かい合うもう1つのマンションの10階ほどから上が崩れ落ち、眼下の道路に巨大な破片を撒き散らされている光景だった。

 周りの建物を見てもどれも似たような崩れかけで、草木が建物に巻き付き辛うじて全壊を免れていた。

 1時間は探し回っただろうか。だと言うのに、人一人見つけることは出来なかった。そんなことよりも、こんなゴーストタウンのようなところに人が居るのかさえ怪しく思えてきた。

「誰かいませんかーッ」

 と、大声で呼びかけるが、木霊するのは自分の声だけで、返ってくる声はなかった。

 頭上で熱線を振りまく太陽が憎たらしく思えてきたが、どうすることも出来ないと、自分を冷静にさせ、目が覚めた部屋に戻ることにした。


 部屋に戻ると、テーブルの上に1つのカメラが置いてあった。出るときにはなかったはずだが、そのカメラはずっとそこに有ったかのように自然だけれども、それゆえにどこか不自然さがあるカメラに目が離せなくなった。そのカメラを手に取ると、まるで長年使い続けてきたかのような、このカメラの扱いが頭の中に入ってきた。とても不思議ではあるが、嫌なものではなく、どこか懐かしさを感じる。

 本当に頭の中に入ってきた情報が本当なのか、試しに椅子を撮ってみる。ディスプレイに映る椅子にピントを合わせ、シャッターをきる。すると、ディスプレイの下から現像された写真が出てきた。どうやって現像されたのか全くもって分からない。それからもう1つの機能も、

 写真を出てきた口に入れ、ディスプレイを見る。すると、先ほど撮った椅子が半透明でディスプレイに映る。3つのダイヤルを回し、撮った椅子の横に座標を合わせシャッターを押す。すると、合わせた通りの場所に撮った椅子と同じ椅子が投影された。

 もうこのカメラは間違いなく、魔法のカメラだ。誰が何のために作ったのかは分からないけど、どうしてだろうか。このカメラはなぜか私のために在るように思えてしまう。ならば、このカメラは私の物で、この部屋は私の部屋でいいじゃないか。もし、所有者が現れたら、何も分からず休める場所がほしかったんです。と言って謝ろう。カメラについては、その時に考えればいい、と自分を納得させる。

 拠点が決まった。次は食料を探そう。何はともあれ、生きていくには食べないといけない。

 ふと思う。今までそんなこと考えたことなかったなと。そう思うとなんだか笑みがこぼれる。

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