納豆と豆腐 短編集

ポムサイ

納豆と豆腐

「豆腐ってさ。豆が腐るって書くじゃない?」


 彼女が唐突に言った。


「あぁ、書くね。」


「あれって間違ってると思うのよね。」


「?ちょっとおっしゃってる意味がわかりませんが?」 


「豆が腐るという漢字が最も合っている食べ物は納豆だと思うのよ。」


「あ~なるほど。発酵と腐敗は紙一重だしな。」


「…で、納豆は納める豆でしょ?漢字は違うけど、これこそ、四角に収まっている豆腐にこそふさわしいとも思うのだけど…。」


「言いたい事は大体分かった。確かにそうかもしれないな。」


「でしょ?だから私、これから豆腐を納豆、納豆を豆腐と呼ぶ事にしたの。」


「ふ~ん。それは勝手だが、日常生活に支障をきたす匂いがプンプンするな。」


「私がそう呼び続ければ、いずれ世間がその矛盾に気づき、いつしか豆腐を納豆、納豆を豆腐と呼ぶであろう。」


「予言風に言ってるけど、その確率は皆無だな。」


「そうかな~。言葉は時代と共に変わっていくモノじゃない?言い続ける事に意義があると思うわ。」


「ほ~。豆腐は紀元前からあるという説もあるし、納豆は弥生時代にはあったという話もある。その歴史を覆す覚悟が君にはあるんだな?」


「覚悟はともかく、豆腐と納豆の起源を知ってる貴方にちょっと引いてるわ。」


「納豆が糸を引くというのと、俺の発言に引くを掛けている訳だな?」


「違います。」


「そうか。」


「…で、今夜の夕御飯なんだけど、麻婆納豆にしようと思うんだけど、どうかな?」


「麻婆納豆…。麻婆豆腐の事だな。いいんじゃないか。」


「ちょっと糸引くけど美味しいと思うのよね。」


「本当の納豆の方かい!!」


「嫌なら麻婆豆腐にするけど?」


「それでお願いします。」


「ちょっと糸引くけど美味しいと思うのよね。」


「あぁ…面倒くさい…。」


 

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